経産省トイレ事件(最判令和5年7月11日)
2023/07/28
事案
(1)被告(会社)は経済産業省である。
(2)男女別のトイレが各階に3か所ある。男女共用の多目的トイレは、ある階もあれば無い階もある。
(3)男性は、女性ホルモンの投与を受けて、性衝動に基づく性暴力の可能性が低いという診断書をもらっている。
男性は、健康上の理由で性別適合手術を受けていない。
(4)平成21年7月、男性は上司に性同一性障害をカミングアウトした。
(5)平成22年7月、経済産業省は、男性の了解を得て、男性の性同一性障害についての説明会を開いた。以下、本件説明会という。
本件説明会では、男性が退出した後に、「男性が女性トイレを使用したいと述べている」ことについて意見をもとめたが、明確に異を唱える女性職員はいなかった。
(6)経済産業省は男性に対し、「本件執務階とその上下の女性トイレの使用を認めず、それ以外の女性トイレの使用を認める。」と処遇を決めた。
(7)本件説明会の後、男性は、女性の服装で勤務し、本件執務階から2階離れた階の女性トイレを使用するになった。
本件説明会から本件判定に至るまでの4年10か月間、男性が女性トイレを使用することについて特にトラブルはなかった。
(8)平成23年△月、男性は家庭裁判所の許可を得て名前を変え、平成23年6月から、職場においてその名前を使うようになった。なお、男性は、戸籍上男性のままである。
(9)平成25年12月、男性は、職場の女性トイレを自由に使用させることを求めたが、経済産業省は、その要求を認めない旨の判定をした。
判決
(1)性同一性障害との診断を受けている男性にとって、性別の異なる男性トイレをしようするか、本件執務室から離れた階の女性トイレを使用することは日常的に相応の負担がある。
(2)上記事実関係のもとでは、「男性が職場の女性トイレを自由に使用させる」ことを認めない、経済産業省の判定は違法である。
最判令和5年7月11日
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/191/092191_hanrei.pdf
解説
(1)性同一性障害者である(戸籍上の)男性が、女性トイレの使用を求めた事案である。①女性社員の心理的な負担や、②ビル管理者のトイレの改修等の経済的な負担、③濫用的な請求が起きないようにする基準の問題、④経過措置として許される対応が問題になります。
(2)①については、男性が、女性の服装で勤務しており、女性トイレを利用しても女性社員としては違和感を感じないであろうこと、本件説明会でしっかりとした説明がされていること、本件説明会から本件判定に至るまでの4年10か月間、男性が女性トイレを使用することについて特にトラブルはなかったことから、①については問題ないとされました。
もちろん、このトイレが一般の人も使う者であれば、結論は異なることになるでしょう。
(3)本件では、トイレの増設等が問題となっておらず、②は問題になりませんでした。
(4)本件の男性に対し特別な対応を認めることについて濫用の危険はないでしょう。しかし、③については、企業としても、トラブルの防止や公平性を考慮して、どのような事案で認めるのか明確な基準が求められます。
(5)④については、本件のように、女性社員の心理的負担を考慮して、「経済産業省は男性に対し、本件執務階とその上下の女性トイレの使用を認めず、それ以外の女性トイレの使用を認めると処遇を出しました。」今回のように、全面解禁にするとしても、本件のような④経過措置は必要になるでしょう。
(6)会社側の対応として、性同一性障害のためのトイレの使用規定を作るか、問題となります。結局個別判断となるので、一律に規定を設けるよりは許可制として、個別に判断するのが妥当でしょう。
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