判例(固定残業が有効になるための要件を示した判例)
2021/11/12
最判平成30年7月19日の判決の意義
(1)固定残業手当が有効になるためには、①支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明確に示されていること、②固定残業代によってまかなわれる残業時間を超えて残業が行われた場合には清算する旨の合意が必要という見解があった。
本判決は、(固定残業手当を含む)当該手当の支払が残業代の支払いにあたるためには、①②の要件は必須ではないことを明確にした。 ・・・(ア)
(2)本判決は、「(固定残業手当を含む)当該手当の支払いが、時間外労働等に対する対価として支払われていたといえるか、については、契約の内容(当事者の合意)によって決まる。」ことを示した判例である 。(判例タイムズ1459号30頁の判例評釈) ・・・(イ)
(3)契約の解釈は、契約書等の記載のほか、会社の説明、従業員の勤務内容等その他を考慮して認定される。本判決は、「(固定残業手当を含む)当該手当の支払いが、時間外労働等に対する対価として支払われていたといえるかについても、契約書等の記載のほか、会社の説明、従業員の勤務内容等その他を考慮して判断されることを示した判例である。 (判例タイムズ1459号30頁の判例評釈) ・・・(ウ)
最判平成30年7月19日
民集259号77頁
判例タイムズ1459号30頁
解説
1 固定残業代の議論
判例タイムズ1459号30頁では、固定残業代の議論が以下のように、簡潔にまとめられています。
固定残業代の議論については、2つの議論があります。
2 判別要件(明確区分性)
(1)手当について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを区別できない場合には、残業代の支払いとは認められません(判別要件あるいは明確区分性)。
(2)例えば、「月給30万円。その給与の中には、 10時間分の 時間外割増賃金 が含まれている。」という賃金(基本給組み込み型)については、固定残業として認められません。
理由は、「 10時間分の 時間外割増賃金 が含まれている。 」 と書かれているだけでは、10時間を超えた残業代が計算できないからです。
3 対価性
(1)当該手当が残業の支払いと認められるためには、判要要件(明確区分性)だけでなく、対価性も必要です。
つまり、当該手当が、時間外労働等に対する対価として支払われていたといえる、ことが必要です(対価性)。
(2)最判平成30年7月19日は、この対価性の要件について、上記の(ア)(イ)(ウ)について判示した判例となります。
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