有期雇用であると認められなかった判例(1)
2021/08/16
京都地裁 平成29年3月30日 福祉事業者A苑事件
(1)事案
会社は、「(雇用)期間の定めのない。」との条件で求人を出した。
平成26年1月、社員は上記の求人票を持参し、採用面接を受けた。
採用面接の際には、会社は、「(雇用)期間を1年間とする。」との前提で雇用契約を結ぶ予定であるとの説明をしなかった。
平成26年2月、労働契約書を作らない状態で、社員は、11日間働いた。
社員は前の職場を退職した。
平成26年3月1日、会社は「(雇用)期間を1年間とする。」と記載された雇用条件通知書(雇用契約)を作成し、社員にその労働条件を説明した。社員は、前の職場を既に退職しており、これを断れば収入が途絶える考えて、雇用条件通知書(雇用契約)に署名した。
(2)裁判所の判断
裁判所は「求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意がない限り、雇用契約の内容となる。」と判示し、平成26年1月の時点で、「(雇用)期間の定めのない。」労働契約が成立したと認めた。
加えて、裁判所は、社員は会社の説明を聞いた上で、「(雇用)期間の定めあり。」との労働条件通知書に署名しているが、これは労働条件の不利益変更にあたるので、「当該行為が労働者の自由な意思に基づいてなされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否か」という観点からも、判断されるべき(最判平成28年2月19日・民集70巻2号123頁)であり、本件では、(雇用)期間の定めのある労働契約には変更されないと判断しました。
京都地裁 平成29年3月30日 労判1164号44頁 福祉事業者A苑事件
ポイント
(1)雇用条件通知書(雇用契約書)を取り交わしていなければ、求人票どおりの条件で雇用されているものと、社員が思うのは当然であり、妥当な判決です。
(2)例えば、本件でも、会社が、採用面接の際に「(雇用)期間を1年間とする。」との前提で雇用契約を結ぶ予定であるとの説明をしていれば、このように認定されなかったかもしれません。
もっとも、会社が口頭で説明していたとしても、社員が「説明を受けていない。」と反論すれば、「説明したこと」を立証するのは難しいでしょう。
(3)そこで、まずは、採用予定の雇用契約(雇用条件通知書)を提示する際には、求人票をチェックする必要があります。
(4)次に、仮に、求人票と違う内容の雇用契約(雇用条件通知書)を取り交わす際には慎重な対応が必要です。
例えば、変更点について、分かりやすい言葉で、理由と共に変更後の労働条件を書き直した説明文書を作り署名してもらうことが必要です。
(5)最後に、内定直後に、文書等で記録が残る形で、労働条件を通知する必要があります。
内定を受けた社員は、前の職場を退職します。
その後に、会社が求人票と違う内容の雇用契約(雇用条件通知書)を説明したとしても、社員は前の職場を既に退職しており、これを断れば収入が途絶える考えて、雇用条件通知書(雇用契約)に署名したにすぎません。このような状況下で、社員の署名押印の効力が認められないのは当然のことです。
逆に、内定直後に会社の思いを文書にして伝えておけば、社員としては、他の職場を選ぶこともできたわけです。その上で会社の提案する条件を承諾したのであればトラブルが避けられたといえます。
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