「社内掲示板」「社内チャット(Slack・Teams)」での誹謗中傷の対処法

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、ネット上の誹謗中傷削除・発信者情報開示命令(IPアドレス特定)・仮処分裁判実務に基づき、プロバイダ責任制限法および最新の判例に沿ってわかりやすく解説しています。

Q 社内チャットやSlack、社内掲示板での悪口や誹謗中傷は名誉毀損になりますか?会社への通報や法的措置の進め方を教えてください。
A 【法的判断基準と公然性】SlackやTeams、社内掲示板での誹謗中傷は、閲覧範囲が限定されていても「特定の多数人」に伝わる状況(公然性)であれば、名誉毀損や侮辱罪が成立する可能性があります。また、業務上のミスをさらす行為などは、職場環境配慮義務違反やパワハラにあたり、企業としての労務管理責任も問われます。
【具体的な対処法と弁護士相談のメリット】まずは投稿画面のスクリーンショットなどの証拠を必ず保全してください。その上で、会社の人事部やコンプライアンス窓口への通報による社内処分を求めると同時に、悪質な加害者に対する発信者情報開示請求、損害賠償請求、刑事告訴などの法的措置を弁護士に依頼することで、迅速かつ確実な解決と再発防止を実現できます。

はじめに:社内チャットや掲示板に潜む深刻なハラスメント

近年、業務効率化やリモートワークの普及に伴い、Slack、Microsoft Teams、社内専用の掲示板などを導入する企業が急増しています。いつでもどこでも円滑なコミュニケーションが取れる一方で、テキストベースでのやり取りが日常化するにつれ、新たなトラブルが表面化しています。

それが、社内チャットや社内掲示板における誹謗中傷・風評被害です。

「特定の社員を標的とした陰口がチャットルームに投稿される」「業務上のミスを全社公開の掲示板で執拗にさらし者にされる」「根拠のない噂話が瞬く間に社内に拡散する」といった被害は、単なる職場の人間関係のトラブルにとどまりません。精神的な追い詰めによる休職や離職を招くだけでなく、法的な権利侵害にあたるケースも少なくありません。

本記事では、閉ざされた空間であるはずの社内ネット環境において、誹謗中傷が行われた場合の「法的責任」や「公然性の判断」、そして被害に遭ったときに取るべき具体的な対処法について、夕陽ヶ丘法律事務所の弁護士が詳しく解説します。

1. 社内チャットでの誹謗中傷も「名誉毀損」になるのか?

ネット上の誹謗中傷と聞くと、SNSやオープンな掲示板への書き込みをイメージしがちですが、社内チャットや社内掲示板であっても、一定の条件を満たせば法的な「名誉毀損」や「侮辱罪」が成立します。

ここで最大のポイントとなるのが、名誉毀損の成立要件の一つである「公然性(こうぜんせい)」の有無です。

公然性のハードルと「伝播可能性」

名誉毀損罪や民法上の名誉毀損が成立するためには、事実が「公然と」摘示される必要があります。「公然」とは、不特定または多数人が認識できる状態を指します。

「会社やチームのメンバーしか見られないチャットなのだから、不特定多数ではないのでは?」と疑問に思われる方も多いでしょう。しかし、判例や法的解釈においては、以下のような要素から「公然性」が認められるケースがあります。

  • 伝播可能性(でんぱかのうせい):限られた人数しかいないチャットルームであっても、そこに書き込まれた内容が、容易に他の人へ口頭やスクショ等で伝わり、結果として多数の社員に知れ渡る可能性(伝播可能性)がある場合。
  • 参加人数と範囲の広さ:全社参加のチャンネルや、数百人が所属する大規模な部署のチャットルームなどは、実質的に「多数人」への告知と同視されるケースがあります。

したがって、「限られたクローズドな空間だから何を書いても法的に安全」というわけ決してありません。

2. 泣き寝入り厳禁!被害に遭ったときの初動対応

社内で誹謗中傷の標的になってしまった場合、感情的に言い返したり、その場でチャットの投稿を削除させようとしたりするのは得策ではありません。冷静かつ確実に対処するためのステップを解説します。

ステップ1:決定的な証拠の保全

どんなにひどい誹謗中傷を受けていても、後から「言った・言わない」の水掛け論になったり、加害者が投稿を隠滅したりしては、法的な責任を追及することが困難になります。まずは証拠を確実に残しましょう。

  • 問題の投稿画面(メッセージ、スレッド全体)のスクリーンショットを撮影する。
  • 撮影の際は、投稿日時、発信者のアカウント名、チャットルームの名称、前後の文脈がしっかりと視認できるようにする。
  • 可能であれば、IT部門やシステム管理者側でアクセスログや投稿履歴が保存されていることを確認・要請しておく。

ステップ2:会社(人事・コンプライアンス部門)への通報と対応要請

社内ネット環境でのトラブルは、雇用契約上の秩序維持や安全配慮義務の観点から、まずは会社の組織力を利用して解決を図るのが現実的かつ効果的です。

多くの企業では、ハラスメント防止規程やコンプライアンス窓口が設置されています。集めた証拠を添えて、人事部やハラスメント窓口、信頼できる上長に正式な苦情を申し立てましょう。会社側には、就業規則に基づいた加害者への処分(戒告、減給、出勤停止、懲戒解雇など)や、再発防止のための環境改善を行う義務があります。

ステップ3:弁護士を通じた法的アプローチ

会社が十分に対応してくれない場合や、精神的苦痛が大きく慰謝料請求・刑事告訴を視野に入れたい場合は、誹謗中傷問題に強い弁護士への相談をおすすめします。

  • 損害賠償請求:加害者個人に対して、不法行為(名誉毀損・侮辱・プライバシー侵害など)に基づく損害賠償請求(慰謝料請求)を行います。
  • 示談交渉:弁護士名義で通知書を送付し、謝罪広告の掲示、二度と接触しない旨の誓約、慰謝料の支払いを求めます。

3. 会社側が直面するリスクと法的責任

社内掲示板やチャットでの誹謗中傷を放置することは、被害を受けた従業員個人だけでなく、企業経営そのものにとっても大きなリスクとなります。

企業は、労働者が安全かつ快適に働くことができる環境を提供しなければならない「安全配慮義務(職場環境配慮義務)」を負っています。もし、社内でのいじめや誹謗中傷を認知していながら適切な対策をとらずに放置した結果、被害者が精神疾患に罹患したり休職・退職に追い込まれたりした場合、企業に対しても損害賠償責任(使用者責任・債務不履行責任)が問われることになります。

そのため、健全な組織運営を目指す企業にとっても、社内ネット上の誹謗中傷に対しては厳正かつ迅速な対処が不可欠です。

4. 加害者になってしまった場合のリスク

一方で、もしあなたが「魔が差して」社内チャットや掲示板で同僚の悪口や不適切な投稿をしてしまった場合、その代償は極めて重大であることを自覚しなければなりません。

  • 重い懲戒処分:社内規程のハラスメント条項に基づき、減給や降格、最悪の場合は懲戒解雇処分を下される可能性があります。解雇された場合、今後のキャリアに深刻な悪影響を及ぼします。
  • 個人としての損害賠償責任:会社組織を通じた処分だけでなく、被害を受けた個人から直接、高額な慰謝料を請求される民事上の責任を負います。
  • 刑事罰のリスク:悪質な名誉毀損や侮辱行為と判断された場合、警察に被害届を出され、刑事事件として立件されるリスクもゼロではありません。

「内輪のチャットだから大丈夫」という甘い認識は捨て、プライベートな場であっても他者を傷つける発言は絶対に慎むべきです。

まとめ:一人で悩まず専門家や窓口へご相談を

社内掲示板やSlack、Teamsといった身近なビジネスツールでの誹謗中傷は、被害者にとって逃げ場のない「逃げ場のない空間」での苦痛となります。

「たかが社内のことだからと我慢するしかない」「会社に言ってももみ消されるかもしれない」と一人で抱え込んでしまう方が少なくありませんが、法律上も労務管理上も、明確な解決の手段が存在します。

夕陽ヶ丘法律事務所では、ネット上の誹謗中傷対策だけでなく、職場環境におけるハラスメント問題や名誉毀損の法的解決についても豊富な実績と知見を有しております。証拠の集め方や会社へのアプローチ方法にお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所の法律相談をご利用ください。あなたの尊厳と平穏な日常を取り戻すため、私たちが全力でサポートいたします。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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