ネット上で「不買運動(不買呼びかけ)」を起こされた企業の法的抗弁

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、ネット上の誹謗中傷削除・発信者情報開示命令(IPアドレス特定)・仮処分裁判実務に基づき、プロバイダ責任制限法および最新の判例に沿ってわかりやすく解説しています。

Q ネット上で自社に対する不買運動や不買呼びかけをされた場合、どこからが違法になり、企業としてどのような法的措置が取れますか?
A 【違法性の判断基準と問える責任】虚偽の事実に基づいたり、社会的相当性を逸脱した方法や営業妨害を目的とした不買運動は、信用毀損罪や威力業務妨害罪といった刑事責任、および不法行為に基づく損害賠償請求の対象となります。
【企業が講じるべき法的措置】まずはSNSの投稿画面や魚拓ツール等で確実な証拠保全を行い、プラットフォームへの削除要請や、発信者情報開示請求を用いた投稿者の特定と損害賠償請求を弁護士に相談の上で速やかに行う必要があります。

ネットでの「不買運動(不買呼びかけ)」がもたらす企業リスク

SNSや匿名掲示板の普及により、企業に対する批判的な声が瞬く間に拡散する事例が後を絶ちません。そのなかでも、特定の企業やブランドに対して製品の購入をやめるよう促す「不買運動(不買呼びかけ)」は、企業の売上に直結する深刻な風害被害です。

すべての不買運動が直ちに違法となるわけではありませんが、表現の自由の限界を超えた悪質なものや、事実無根の情報に基づいたものに対しては、企業として毅然とした法的抗弁を行う必要があります。

ここでは、不買運動の法的性質や、企業が講じるべき具体的な法的措置について詳しく解説します。

不買運動の違法性を判断する基準

ネット上で行われる不買運動や不買呼びかけが法的責任を問われる場合、主に以下の3つの要素が考慮されます。

  • 情報の真実性・真実相当性: 呼びかけの根拠となっている事実が虚偽であるか、あるいは真実であると信じるに足りる相当な理由がない場合、違法性が認められやすくなります。
  • 目的の正当性: 公正な批判や公益を図る目的ではなく、特定企業の営業妨害を目的としたり、嫌がらせや私怨に基づいている場合は違法性が高まります。
  • 態様の相当性: 正当な意見表明の域を超え、脅迫的な文言を用いたり、執拗に攻撃を繰り返したりするなど、社会的相当性を欠く手法がとられている場合です。

企業が追及できる具体的な法的責任

悪質な不買運動に対しては、民事上の責任追及と刑事上の責任追及の両面からアプローチが可能です。

1. 民事上の損害賠償請求(不法行為責任)

民法709条に基づき、不買運動の首謀者や過激な投稿を行った人物に対して、売上減少などの経済的損害や企業の社会的評価低下に対する慰謝料を含む損害賠償を請求できます。

また、名誉毀損や信用毀損にあたる投稿によってブランドイメージが著しく損なわれた場合、その回復に向けた広告費なども賠償請求の対象に含まれることがあります。

2. 刑事告訴(信用毀損罪・威力業務妨害罪)

虚偽の風説を流布して企業の信用を傷つけた場合は信用毀損罪(刑法第233条)、また、人目を引く威力を用いて企業の業務を妨害した場合は威力業務妨害罪(刑法第234条)に該当する可能性があります。

警察に対して被害届を提出または刑事告訴を行い、捜査機関による厳正な処罰を求めることも有力な対抗手段です。

企業が直ちに実行すべき法的アクション

ネット上で不買運動のターゲットにされた場合、感情的な反論や不適切な釈明を行うとかえって炎上が拡大する危険性があります。以下のステップに沿って、冷静かつ戦略的に対応を進めることが求められます。

  1. 証拠の保全(魚拓・スクショの確保): 投稿やアカウントが削除される前に、URL、投稿日時、アカウントID、発言内容のスクリーンショットを確実に保存します。
  2. 弁護士を通じた発信者情報開示請求: 匿名アカウントによる不買運動であっても、プロバイダ責任制限法を活用し、発信者のIPアドレスや住所・氏名の開示を求める法的手続きを進めます。
  3. プラットフォームへの削除要請: SNSや掲示板の運営会社に対し、利用規約違反や権利侵害を理由として迅速な投稿削除を申し立てます。
  4. 法的措置の公表(プレスリリース等): 必要に応じて、悪質な虚偽情報や業務妨害に対して法的措置(刑事告訴や損害賠償請求)に着手している旨を公表し、模倣犯の抑止およびステークホルダーへの信用維持を図ります。

まとめ:風評被害・不買運動には専門家との連携が不可欠

ネット上の不買運動や不買呼びかけは、放置すれば企業の存続に関わる致命的なダメージとなり得ます。しかし、パニックに陥り誤った対応をすると、さらなる炎上を招く原因にもなります。

企業としては、感情的な対応を避け、客観的な証拠を集めた上で、ネット誹謗中傷や風評被害対策に強い弁護士に早期に相談することが極めて重要です。適切な法的抗弁を行うことで、不当な攻撃から企業価値と従業員を守り抜くことができます。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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