【弁護士による戦略的対応のメリット】相手方の「認否」のパターンや「不知」「沈黙」といった曖昧な主張に惑わされず適正な損害賠償金や弁護士費用の回収を実現するためには、法的に有効な証拠を迅速に整理・提出する必要があります。風評被害やネット誹謗中傷に精通した弁護士に早期に相談し、訴訟を優位に進めるための綿密な戦略を立てることを強くおすすめします。
ネット上の誹謗中傷や風評被害に対して損害賠償請求訴訟を提起した際、裁判をスムーズに進め、適正な賠償金や弁護士費用の回収を実現するためには、相手方(被告)が主張に対してどのような「認否(認めるか、否認するか、あるいは不知とするか)」を示してくるかを正確に把握し、適切に争点を整理することが極めて重要です。
訴訟の場において、相手方は自身の責任を免れようと様々な反論を行ってきます。裁判官にこちらの主張の正当性を認めさせるためには、相手方の認否のパターンに応じた的確な立証活動を行わなければなりません。
本記事では、ネット中傷の損害賠償請求における相手方の主な認否項目と、それぞれの場面における争点整理、そして被害者側が取るべき具体的な実務対応について詳しく解説します。
ネット中傷訴訟における「認否」の基本構造
民事訴訟において、原告(被害者側)が訴状で主張した事実に対し、被告(加害者側)がそれぞれ個別に回答することを「認否」と呼びます。
- 認める(自白): 原告の主張する事実をそのまま受け入れることであり、原則としてその事実についての立証は不要となります。
- 否認する: 原告の主張する事実を否定することです。この場合、原告側が客観的な証拠を提出してその事実を立証する責任を負います。
- 不知(しらない): 被告がその事実を知らないと主張する場合で、法律上は「否認」と同視され、原告側での立証が必要となります。
- 沈黙(争わない): 被告が答弁書等で特定の事実について何も反論しない場合、その事実を自白したものとみなされることがあります。
誹謗中傷の損害賠償請求訴訟では、主に「投稿事実」「名誉毀損の成立」「損害額」の3つのレイヤーで激しい認否の応酬が繰り広げられます。
1. 「投稿事実」の認否と争点整理
損害賠償請求の第一歩は、「そのインターネット上の誹謗中傷コメントを、本当に相手が書き込んだのかどうか」という点です。
相手方が投稿事実を争うケース(否認・不知)
発信者情報開示請求を経て訴訟に移行した場合でも、相手方はしばしば「自分はそんな書き込みをしていない」「家族や他人が自分の端末を使った」「フリーWi-Fiの電波を勝手に使われた(いわゆるなりすまし・第三者不正アクセスの主張)」などと、投稿事実そのものを否認してくることがあります。
この場合の争点は、「被告自身が当該アカウントの保有者であり、かつ問題の投稿を行った主体であるといえるか」という点に絞られます。
被害者側が行うべき立証活動
相手方が投稿事実を否認した場合、開示請求の手続きで得られたログ情報(IPアドレスやタイムスタンプ、プロバイダからの契約者情報など)を証拠として提出し、被告の責任を基礎づけます。
さらに、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示命令や、通信事業者に対する文書送付嘱託などの法的手続きを活用し、通信ログの正確性や契約者本人性(端末の所有状況、利用時間帯のアラートなど)を多角的に立証していくことになります。
2. 「名誉毀損の成立」の認否と争点整理
投稿事実自体は相手方が認めた(あるいは争いがない)としても、次に大きな争点となるのが「その書き込みによって名誉毀損や侮辱、プライバシー侵害などの違法な権利侵害が成立しているか」という点です。
相手方の主な反論パターン
加害者側は、表現の自由や正当な批判を盾に、以下のような主張を行ってきます。
- 真実性・真実相当性の抗弁: 「書き込んだ内容は真実である」、あるいは「真実と信じるについて相当な理由があった」と主張するパターンです。
- 意見・論評の表明: 事実の適示ではなく、あくまで個人の感想や公正な論評の範囲内であると主張するパターンです。
- 社会的評価の低下の否定: 投稿された内容によって、会社や個人の社会的な評価が低下したとはいえないと反論するパターンです。
これらの主張に対しては、感情的な反論ではなく、法律上の要件に照らした冷静な争点整理が求められます。
法的要件に応じた立証のポイント
例えば、相手方が「真実である」と主張してきた場合、被害者側はその内容が客観的な事実と異なり、全くの虚偽であることを示す証拠を提出しなければなりません。医療機関や飲食店への悪質な口コミであれば、当時の施術記録、売上台帳、顧客とのやり取りの履歴などを証拠化し、書き込みの内容がいかに不当で事実無根であるかを裁判官に示します。
また、単なる悪口や侮辱に該当する場合は、表現の自由の範囲を逸脱した侮蔑的表現であることや、社会的信用を著しく傷つけるものであることを過去の裁判例などを交えて論理的に主張します。
3. 「損害額」の認否と争点整理
請求が認められる見込みが高まった段階で、最後の大きな争点となるのが「発生した損害の金額(慰謝料や弁護士費用など)」の認否です。
損害額に関する双方の主張の対立
原告(被害者側)が、企業イメージの失墜、売上の減少、精神的苦痛などを理由にまとまった金額の損害賠償を請求するのに対し、被告側は「慰謝料の相場は低額であるべきだ」「売上減少と書き込みの因果関係が証明されていない」「被害者はすぐに訂正・削除対応を行っていないため損害が拡大した(過失相殺の主張)」などと主張し、減額を求めてきます。
適正な損害額を認めさせるための立証手法
損害額の認否において裁判官を納得させるためには、受けた被害の深刻さを客観的な数値やデータで裏付けることが極めて重要です。
- 企業・店舗の場合: 風評被害が発生した前後の売上データの比較、顧客からの解約・キャンセル通知の履歴、信頼回復のために実施した広告宣伝費や風評対策費用の見積書・領収書などを提出し、経済的損害の因果関係を明確にします。
- 個人の場合: 誹謗中傷によって心身の不調をきたし、心療内科や医療機関を受診した際の診断書などを提出することで、精神的苦痛の大きさを客観的に立証します。
また、近年の裁判例における慰謝料の傾向を踏まえつつ、事案の悪質性(組織的な誹謗中傷であるか、長期間にわたって継続されたか、拡散の度合いなど)を裁判で効果的に主張することが、適正な賠償金獲得への近道となります。
相手方の認否に応じた戦略的訴訟運営の重要性
ネット中傷の損害賠償請求訴訟は、単に「ひどいことを書かれた」という被害感情を訴えるだけでは十分ではありません。相手方がどのような認否を示し、どの法律要件を争点化してくるかに応じて、提出すべき証拠や主張の構成を柔軟に変更していく高度な訴訟戦略が求められます。
特に、企業経営者や医療機関、飲食店などのビジネスパーソンが被害に遭われた場合、迅速かつ的確な争点整理を行わなければ、裁判が長期化し、かえって風評被害の二次的な拡散やブランドイメージの低下を招くリスクもあります。
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所では、数多くのネット誹謗中傷・風評被害対策を手がけてきた実績に基づき、相手方の予想される認否のパターンを先回りして分析し、早期解決と最大限の損害賠償金回収に向けたトータルサポートを提供しております。ネット上の風評被害でお悩みの際は、どうぞお気軽にご相談ください。