投稿者が「会社のパソコン・社内Wi-Fi」から書き込んでいた場合の特定

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、ネット上の誹謗中傷削除・発信者情報開示命令(IPアドレス特定)・仮処分裁判実務に基づき、プロバイダ責任制限法および最新の判例に沿ってわかりやすく解説しています。

Q 勤務先のパソコンや社内Wi-Fiからネット上の誹謗中傷を書き込まれた場合、従業員個人を特定して損害賠償を請求することはできますか?
A 【法的判断基準と開示の仕組み】契約者名義が法人のため、発信者情報開示請求によってまず会社の存在が特定されます。その後、会社に対する任意開示や裁判手続きを通じて社内アクセスログを解析し、実際に書き込みを行った従業員個人を割り出すことが可能です。
【弁護士による法的措置のメリット】弁護士を通じて会社へ協力要請や損害賠償請求を行うことで、自社での隠蔽を防ぎつつスムーズにログを確保できます。さらに、特定した個人に対する慰謝料請求や再発防止に向けた社内処分の法的アプローチを迅速に進めることができます。

インターネット上の誹謗中傷や風評被害において、投稿者が勤務先のパソコンや社内Wi-Fi(無線LAN)を経由して書き込みを行っていたケースは、企業法務や個人被害の双方において特殊な法的対応を求められる重要なテーマです。

個人の自宅回線やスマートフォンからの投稿であれば、プロバイダに対する発信者情報開示請求を経て直接契約者=発信者を特定できますが、会社組織のネットワークを経由している場合、法的なアプローチやその後の展開が大きく異なります。

本記事では、社内PCや社内Wi-Fiからの書き込みが判明した場合の特定手順や、会社組織を巻き込んだ実務上のポイントについて、法律の専門的観点から詳しく解説します。


1. 会社のネットワークから書き込まれた場合の基本構造

誹謗中傷の投稿に対する一般的な法的措置は、サイト管理者に対するIPアドレス等の開示請求から始まります。このプロセスを経て取得したIPアドレスを調査すると、その回線の契約者が「個人」ではなく「法人(株式会社や合同会社など)」であることが判明するケースがあります。

これが、いわゆる「社内ネットワークからの書き込み」が疑われる瞬間です。

契約者と実際の投稿者が異なるという壁

通常のプロバイダ責任制限法に基づく開示請求では、最終的に「契約者の氏名・住所」が開示されます。しかし、契約者が企業である場合、開示される情報は「会社の名称と本社所在地」であり、デスクでキーボードを叩いて誹謗中傷を書き込んだ従業員の個人名までは直接判明しません。

ここに、社内ネットワーク特有の調査の難しさがあります。しかし、法律上の手続きや会社へのアプローチを正しく踏むことで、個人の特定に至る道は十分に開かれています


2. 従業員を特定するための2つのステップ

会社組織のネットワークから行われた悪質な書き込みについて、最終的に発信者である個人を特定するためには、主に2つのステップを経る必要があります。

ステップ1:プロバイダ責任制限法に基づく「会社」の特定

まずは、通常の開示請求手続きと同様に、対象となるウェブサイトの運営者やサーバー管理者に対してIPアドレスの開示を求め、続いてそのIPアドレスを管理するプロバイダ(インターネットサービスプロバイダや通信キャリア)に対して発信者情報開示請求を行います。 ここでプロバイダから開示される情報は、通信を行った契約者情報であるため、法人の名称や住所が浮き彫りになります。

ステップ2:会社に対する協力要請と社内ログの解析

会社が特定された段階では、まだ「その会社が契約している回線から書き込まれた」という事実しか分かっていません。その会社に在籍する誰が書き込んだのかを特定するためには、会社側が保有するアクセスログや通信記録の照合が不可欠となります。

具体的には、以下の手法を通じて特定を進めます。

  • 裁判所を通じた証拠保全や文書送付嘱託の活用
  • 会社に対する損害賠償請求を前提とした、任意の事情聴取やログ提出の要請
  • ネットワーク機器(ルーターやファイアウォール)に残されたIP・MACアドレスの照合

3. 会社側へのアプローチと実務上の実態

会社組織のネットワークから誹謗中傷や業務妨害に該当する書き込みがなされた場合、被害を受けた側としては、会社に対してどのようなアプローチを取るべきなのでしょうか。

会社にも法的責任が及ぶリスクがある

従業員が業務時間内、あるいは会社の資産(社用PCや社内回線)を使用して違法な書き込みを行った場合、会社自身も使用者責任(民法715条)に基づき、損害賠償責任を負う可能性があります。 そのため、被害者から弁護士を通じて正式な照会や損害賠償請求がなされた場合、多くの企業は放置することができず、自社の信用失墜を防ぐためにも内部調査に協力せざるを得ない状況が生まれます。

社内アクセスログの重要性

企業では通常、セキュリティ管理や不正アクセス防止の観点から、誰がいつどの端末から外部インターネットに接続したかという「アクセスログ」や「DHCPサーバーの割り当て履歴」を一定期間保存しています。 弁護士が裁判所の手続きや代理人交渉を通じてこのログの開示を求め、投稿時刻とログのタイムスタンプ、IPアドレスや端末固有のMACアドレスを突き合わせることで、「どの部署の、誰が使用しているどのパソコンから投稿されたか」を特定することが可能になります。


4. 自社が「加害者の所属企業」になってしまった場合の対応

万が一、自社が保有するネットワークや社用PCが誹謗中傷の踏み台にされていた場合、企業側としても迅速かつ適切な対応が求められます。

  • 事実関係の厳正な調査: 弁護士や外部のITセキュリティ専門家を交え、該当する時間帯の通信ログを解析し、どの従業員の関与によるものかを特定します。
  • 被害者への誠実な対応と示談交渉: 個人の私怨によるものか業務上のトラブルに起因するものかを確認し、被害者に対して謝罪や損害賠償を含めた示談交渉を行います。
  • 社内規程に基づく処分: 就業規則やコンプライアンス規程に違反している場合、懲戒処分(戒告、減給、懲戒解雇など)を検討する必要があります。

企業が従業員の不祥事を隠蔽しようとすると、インターネット上でさらに大きな炎上を招くリスクがあるため、法的な妥当性を持った透明性の高い対応が不可欠です。


5. 会社のパソコン・Wi-Fiからの特定を目指す方へ

会社のネットワークからの書き込み事案は、通常の個人宅からの書き込みに比べて、「法人格という一度フィルタが挟まる点」と「会社組織との交渉・法的手続きが必要になる点」において専門的な法的知識とノウハウが強く要求されます。

「会社のIPアドレスから誹謗中傷を受けたが、どう動けばいいのか分からない」「自社の回線が悪用された可能性があるが、どのように調査すべきか困っている」といったお悩みをお持ちの場合は、インターネット上の発信者情報開示請求や企業法務に精通した弁護士へ早めにご相談ください。夕陽ヶ丘法律事務所では、確実な証拠保全から法的書面作成、会社との折衝まで、トータルでサポートいたします。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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