既婚男性が「偽のSNSアカウント・裏アカウント」で独身を装っていた時

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、貞操権侵害(独身偽装被害)における不法行為責任(民法709条)、裁判例の慰謝料算定基準、および相手の妻からの不貞請求防御実務に基づきわかりやすく解説しています。

Q マッチングアプリで知り合った交際相手が、実は既婚者であることが発覚しました。相手は「独身の裏アカウント(偽SNS)」を使い、休日の過ごし方や一人暮らしの部屋などを偽って発信し続け、私はすっかり信じ込まされていました。この場合、SNSの偽装工作を理由に貞操権侵害としての慰謝料請求は可能でしょうか?また、相手の本名や勤務先を特定する方法はあるのでしょうか?
A 結論から申し上げますと、計画的かつ巧妙なSNSの独身偽装は悪質な貞操権侵害(民法709条)に該当し、慰謝料請求が認められる可能性が十分にあります。偽アカウントの投稿やメッセージ履歴は重要な法的証拠になります。また、本名や勤務先の特定には、デジタル証拠の保全や、法的手続きを活用した調査が必要となります。

独身偽装交際と「SNSの裏アカウント」による巧妙な欺瞞

近年、マッチングアプリやSNSを通じて出会った相手が、既婚者である身分を隠して交際を申し込む「独身偽装トラブル」が後を絶ちません。 特に悪質なケースでは、相手の男性が「偽のSNSアカウント(裏アカウント)」を作成し、あたかも独身男性の一人暮らしや充実したプライベートを送っているかのように見せかける工作を行います。

このような行為は、単なる恋愛のトラブルに留まりません。 法的には、結婚を前提とした、あるいは誠実な交際関係を築く上で最も重要な「婚姻関係の有無」という基礎的かつ重大な真実を、悪意を持って隠蔽・誤認させる行為です。 結果として、被害者の性的自由や自己決定権を著しく侵害するものとして、民法第709条に基づく不法行為(貞操権侵害)を構成します。

本記事では、裏アカウントを用いた悪質な独身偽装に対する法的アプローチと、証拠化・本名特定の実務的なステップについて詳しく解説します。

1. 偽SNSアカウントの証拠化における重要ポイント

相手が裏アカウントを用いて独身を装っていた場合、最大の武器となるのは「そのアカウントが相手のものであること」および「積極的に独身を偽っていた客観的な履歴」です。

相手が後になって「アカウントは自分のものではない」「冗談で言っただけだ」と言い逃れを図るケースは非常に多く見られます。 そのため、以下の証拠を速やかに、かつ網羅的に保全することが不可欠です。

  • SNS上の投稿(写真、テキスト、位置情報、更新日時)のスクリーンショットおよび画面録画(動画でのスクロール保存)
  • ダイレクトメッセージ(DM)やLINE等のやり取りにおいて、独身であると明言している、または独身を前提とした発言の全履歴
  • 偽アカウントに紐づく登録情報や、相手があなたに送ってきた「一人暮らしの部屋の風景」「購入した家具」などの写真データ(Exif情報の確認が可能な場合もあります)

これらのデジタル証拠は、時間の経過とともに相手がアカウントを削除(アカウントロンダリング)したり、ブロックして閲覧不能にしたりするリスクがあります。 「おかしい」と気づいた段階で、直ちに確実な方法で保全を行うことが、その後の解決の成否を分けることになります。

2. 相手の本名や勤務先を特定するアプローチ

マッチングアプリやSNSの偽アカウントを通じて知り合った場合、相手が教えていた名前や職業、勤務先がすべて「偽名(虚偽)」であることは珍しくありません。 慰謝料請求を行うためには、相手の「正式な氏名」と「現住所」、または「勤務先」を特定する必要があります。

本名や勤務先を特定するための主な実務的手段は以下の通りです。

  • アプリ運営会社やプラットフォームに対する発信者情報開示請求等の検討 マッチングアプリ等の場合、登録時のメールアドレスやクレジットカード情報などが残されているケースがあり、法的な手続きを通じて特定の手がかりを得られる場合があります。
  • 交際過程における細かな情報の掘り起こし デートで訪れた場所の領収書、支払いに使われたクレジットカードのブランド、利用した駐車場の履歴、相手の車(車種・ナンバー・特徴)、仕事上の特定の専門用語など、日常の細かな記憶から本名や勤務先につながるピースを集めます。
  • 弁護士会照会(185条照会)の活用 弁護士が受任した後、相手の携帯電話番号や口座情報などから、一定の条件のもとで契約者情報等の開示を迫るための法的な調査手法を用いることがあります。

自力での特定には限界があり、無理な詮索は相手に警戒心を抱かせて証拠隠滅を許す原因にもなります。専門的な調査ノウハウを持つ専門家にご相談いただくのが最も確実な近道です。

3. 既婚者からの「ダブルトラブル(逆請求)」に対する防衛

独身偽装交際の被害者が、真実を知って相手を問い詰めた際、あるいは弁護士を通じて慰謝料を請求した際に、大きな障壁となるのが「相手の配偶者からの不貞慰謝料請求(いわゆるダブルトラブル)」です。

これは、既婚であることを隠されて騙されて交際していたにもかかわらず、相手の妻(または夫)から「夫と不貞行為をした加害者」として、逆に高額な慰謝料を請求されるという非常に理不尽な事態です。

最高裁判所の判例等においても、貞操権侵害の被害者が「相手が既婚者であることを知らなかったこと(善意)」、そして「知らなかったことについて過失がなかったこと(無過失)」が認められる場合、原則として配偶者に対する不貞慰謝料の支払い義務は負わない、あるいは減免されるべきであるという法理が働きます。

しかし、配偶者側から見れば「夫を奪った(関係を持った)女性」という見え方になるため、感情的な対立に発展しやすく、冷静な話し合いが困難になります。 ここで、裏アカウントによる巧妙な独身偽装の証拠が決定的な盾となります。 「私は徹底的に騙されていた被害者であり、不貞の故意や過失はない」ということを、客観的なSNSの記録をもって論理的に証明していく必要があるのです。

4. 悪質な独身偽装トラブルの解決に向けて

既婚男性が裏アカウントや偽SNSを用いて独身を装う行為は、被害者の心を踏みにじる悪質な裏切り行為であり、法的責任を免れるものではありません。 さらに、それに伴う配偶者からの逆請求(ダブルトラブル)が重なると、精神的な負担は計り知れないものになります。

偽SNSアカウントによる独身偽装や、それに伴う慰謝料請求・法的紛争でお悩みの場合、まずは客観的な証拠を確保した上で、専門的な法知識に基づいた適切なステップを踏むことが重要です。泣き寝入りせず、冷静かつ確実に対処を進めていきましょう。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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