「単身赴任・地方出張」という巧みな嘘と独身偽装
マッチングアプリや職場、友人関係などを通じて出会った相手から「現在、単身赴任中で一人暮らしをしている」「地方出張が多くて週末しか家にいない」などと言われたことはありませんか。
こうした説明をされると、自宅に生活感がないことや、連絡が取れない時間帯があることに対しても自然と納得してしまいがちです。しかし、これがすべて巧妙に仕組まれた嘘であり、実際には妻子ある自宅から毎朝通勤していたというケースが後を絶ちません。
このようなトラブルに直面したとき、被害に遭った独身側が「不倫相手」として配偶者から理不尽な慰謝料請求を受ける、いわゆるダブルトラブルに巻き込まれるケースが多く見られます。こうした身に覚えのない状況で苦しむ方々からの相談は後を絶ちません。
配偶者からの慰謝料請求と「無過失の証明」
民法上、配偶者のある者が別の異性と性交渉等を行った場合、原則として共同不法行為(民法709条)に基づき、不貞行為の相手方に対しても損害賠償(慰謝料)請求が認められます。
しかし、これには重要な例外があります。それは、交際相手が既婚者であることを知らず、かつ、知らなかったことについて過失(落ち度・不注意)がない場合です。最高裁判所の判例でも、「真に独身であると信じ、そう信じたことについて無理からぬ事情(無過失)がある場合」には、不貞慰謝料の支払義務を負わないとされています。
「単身赴任」の嘘を信じた場合の過失有無の判断基準
裁判実務において、「単身赴任中」という説明を信じたことが過失にあたるか否かは、以下のような総合的な事情から判断されます。
- 相手が独身証明書や戸籍謄本の提示、あるいはそれに準ずる信頼性の高い状況証拠を示していたか
- 単身赴任先と称する自宅や賃貸物件に実際に招かれ、家族の影を微塵も感じさせない工夫がされていたか
- 勤務先の状況や出張スケジュールについて、客観的に信じ込ませるだけの具体的な嘘が重ねられていたか
被害者が直面する「ダブルトラブル」の構図
この問題の厄介な点は、騙されていた側(被害者)が、最終的に二重の苦しみを味わう構造にあります。
- 第一の被害: 独身だと騙されて時間を奪われ、精神的な絆を踏みにじられた(貞操権侵害の被害)
- 第二の被害: 相手の配偶者から突然高額な慰謝料を請求され、社会的・金銭的プレッシャーをかけられる(不当請求の被害)
相手の配偶者からすれば、「夫(妻)と不倫関係にあった人間なのだから、騙されていようが関係なく責任を取れ」と主張してくることが少なくありません。しかし、法律上、故意や過失のない者に対して制裁的な賠償を課すことは認められていません。
ここで安易に「自分が相手に関わってしまったから悪いのだ」と相手の配偶者の言いなりになり、示談書にサインしたり慰謝料を支払ったりしてしまうと、後からお金を取り戻すことが極めて困難になります。
貞操権侵害の法的アプローチと反撃の手段
単身赴任や地方出張を装って独身を偽り、性交渉関係を持った行為は、個人の性的な自由や自己決定権を侵害する「貞操権侵害(不法行為)」に該当します。
そのため、あなたは配偶者からの理不尽な請求を防衛するだけでなく、逆にその嘘をつき続けた既婚者本人に対して、精神的苦痛に対する損害賠償を請求することが法律上認められています。
弁護士が実践する具体的な解決へのアプローチ
このような「単身赴任偽装によるダブルトラブル」に対し、専門的な法的アプローチでは以下の手順で総合的な解決をサポートします。
- 相手配偶者との交渉・法的防御: 相談者様に「無過失(騙されていたこと)」を立証するための証拠を整理し、配偶者からの不当な慰謝料請求に対して法的根拠をもって反論・拒絶します。
- 偽装既婚者に対する貞操権侵害の慰謝料請求: 相手が意図的に独身を装い、虚偽の単身赴任話を信じ込ませていた客観的な証拠(LINE履歴、嘘の出張スケジュール、身分証明のやり取りなど)を収集し、慰謝料請求のカウンター(反訴・示談交渉)を仕掛けます。
一人で悩まず、専門家へご相談ください
「単身赴任と言われていた」「まさか既婚者だとは思わなかった」という言葉は、決して言い訳ではなく、法的に正当な防御の盾となります。しかし、これを相手の配偶者や冷静さを欠いた相手本人に対して、個人で論理的に説明し納得させることは非常に困難です。
独身偽装や単身赴任を悪用した不貞トラブルに直面したときは、泣き寝入りしたり感情的に対応したりする前に、早い段階で専門の弁護士へ相談し、適切な証拠保全と法的な防衛策を講じることが何よりも重要です。