独身偽装交際や貞操権侵害、あるいは不貞行為に関する慰謝料問題において、加害者の男性と示談が成立したものの、途中で支払いが滞ってしまうケースは少なくありません。さらに悪質な場合、支払いを免れるために「会社を勝手に転職・退職して行方をくらます」という事例が見受けられます。
1. 示談金不払いのまま転職された場合の初期リスク
加害者男性が転職や退職をした場合、それまで行っていた給与の差押え(債権差押命令)は原則として効力を失います。退職した会社にはもはや給与が発生しないため、その会社に対する差押えではこれ以上回収できないからです。
しかし、これは「債権そのものが消滅した」わけではありません。あくまで差し押さえるべき対象(勤務先)が変わっただけであり、加害者の支払義務は厳然として残っています。
連絡不通・逃亡の心理と現実
多くの加害者は、慰謝料や示談金の支払いのプレッシャー、あるいは職場や家族にトラブルが知られるリスクから逃れるために、連絡を断ちます。しかし、現代社会において、社会的・経済活動を行いながら完全に社会から身を隠し通すことは極めて困難です。
2. 新しい勤務先や財産を特定する法的手続き
連絡が取れなくなり、勤務先も分からない場合、どのようにして居場所を突き止めればよいのでしょうか。個人で探偵等を使って尾行調査をするのは費用がかかるだけでなく、違法な詮索とみなされるリスクもあります。法律上認められた正当な手続きを用いるのが最も確実です。
弁護士職権請求の活用
弁護士法第23条の2に基づく弁護士職権請求(23条照会)を利用することで、弁護士会を通じて様々な公的記録や関連情報を調査できる場合があります。これによって相手の住民票の移転先や、社会保険の加入状況等を手がかりに、新たな勤務先へのアプローチを検討します。
民事執行法の「財産開示手続き」と「第三者からの情報提供システム」
近年の法改正により、裁判所を利用した財産調査の実効性が大幅に高まりました。
- 財産開示手続き:裁判所が債務者(加害者)を呼び出し、自身の財産(給与、預貯金、不動産など)について陳述させる手続きです。正当な理由なく出頭を拒否した場合には刑事罰の対象となるため、心理的なプレッシャーにもなります。
- 第三者からの情報提供システム:裁判所を通じて、市区町村や日本年金機構、金融機関等に対し、債務者の勤務先や預貯金口座に関する情報の提供を申し立てることができます。これにより、転職先の会社名や給与振込先口座が公的に判明する確率が飛躍的に高まります。
3. 新しい勤務先が判明した後の「再差押え」の流れ
新しい勤務先(転職先)が特定できたら、速やかに強制執行の準備に入ります。
- 債務名義の確認:お手元の示談書が「執行認諾文言付公正証書」であるか、あるいは裁判所の調停調書・判決など(債務名義)であるかを確認します。
- 再度の債権差押命令の申し立て:判明した新しい勤務先を第三債務者として、再び給与の差押えを裁判所に申し立てます。
- 給与からの直接取り立て:裁判所から新しい勤務先に差押命令が届くと、勤務先は加害者の給与から一定額(法律で定められた上限の範囲内)を天引きし、直接あなたに支払う義務が生じます。
会社を変わったとしても、給与が支給されている限り、この再差押えによって着実に回収を進めることが可能です。
4. 悪質な逃亡を防ぐ・確実な回収のためのポイント
独身偽装交際や不貞の慰謝料問題において、相手が途中で支払いを放棄しないようにするためには、最初の示談書作成段階から綿密な対策を講じておくことが重要です。
公正証書の作成は必須
口頭の約束や、一般的な私文書の示談書だけでは、万が一未払いが発生した際にすぐ強制執行(差し押さえ)を行うことができません。必ず「強制執行認諾文言付き公正証書」を作成しておくことで、裁判を起こす手間を省き、すぐに差押えの手続きへ移行できるよう備えておきましょう。
ペナルティ条項(期限の利益喪失条項)の設定
分割払いにしている場合、「1回でも支払いが遅れた場合、残金全額を一括して支払う」という期限の利益喪失条項を必ず示談書に盛り込んでおきます。これにより、わずかな遅延であっても全額の一括請求および強制執行が可能になり、相手に対する強力な抑止力となります。
5. まとめ:加害者の転職による未払いも法的手続きで回収を
加害者男性が示談金の支払いを免れるために転職や退職をして行方をくらましたとしても、法的な支払義務が消滅することは決してありません。弁護士の職権請求や裁判所の財産開示手続き・第三者からの情報提供システムを駆使すれば、新しい勤務先や給与口座を特定することは十分に可能です。
泣き寝入りして諦めてしまう前に、確実な債権回収と法的手続きのノウハウを持つ専門家に相談し、正当な慰謝料・示談金を回収するための第一歩を踏み出しましょう。