独身であると偽って交際・性交渉を重ねる「独身偽装」は、最高裁判所の判例でも保護されるべき法的利益である「貞操権」を侵害する不法行為(民法709条)に該当します。
特に、相手の男性が派遣社員や契約社員である場合、「勤務先が不安定ではないか」「慰謝料を支払う資力がないのではないか」「行方が分からなくならないか」といった不安を抱く方が少なくありません。
1. 派遣社員による独身偽装トラブルの実態と法的問題点
交際相手が既婚者であると知っていれば交際しなかったにもかかわらず、巧妙に独身を装われて肉体関係を持たされた場合、それは精神的苦痛に対する損害賠償請求(慰謝料請求)の対象となります。
雇用形態を悪用した隠蔽工作のリスク
正社員と比較して、派遣社員や契約社員といった雇用形態にある男性の中には、自身の生活基盤や社会的属性(既婚者であること、実際の収入や居住地など)を偽りやすい環境にあるケースが見受けられます。 「転勤が多い」「プロジェクト単位で勤務先が変わる」といった口実を使い、自宅を教えなかったり、会社の詳細を曖昧にしたりする手口が典型的です。
貞操権侵害としての法的構成
騙されて肉体関係を持たされた事実は、被害者の性の自己決定権および貞操権を著しく侵害するものです。相手が派遣社員であっても、不法行為責任(民法709条)が免除されるわけではありません。適切な証拠を集めることで、慰謝料請求を行う権利が認められます。
2. 勤務先の特定と弁護士の職権活用
慰謝料を請求するためには、相手の現在の正確な氏名、住所、そして勤務先を特定する必要があります。しかし、相手が派遣社員の場合、登録している「派遣元会社」と、実際に常駐して働いている「派遣先会社」が存在するため、個人が自力で正確な勤務先を突き止めることは困難を極めます。
弁護士会照会(23条照会)の活用
弁護士に依頼した場合、弁護士法第23条の2に基づく照会制度(弁護士会照会)を利用することができます。 これにより、携帯電話の契約情報や、知られている限りの情報をもとに、相手の現住所や勤務実態に迫ることが可能です。
派遣元・派遣先へのアプローチ
派遣社員の場合、給与の支払い元である「派遣元企業」を特定できれば、その後の給与差押え手続きにおいても極めて有利に働きます。また、勤務先の特定にあたっては、探偵社等と連携した調査や、法的な手続きを通じた事実確認が行われることもあります。
3. 「資力がない」は本当か?給与差押えによる回収メカニズム
「相手は派遣社員だから、どうせお金を持っていないのではないか」と諦めてしまう方がいらっしゃいますが、それは早計です。一括での支払いが困難であっても、法的な強制執行手続きを踏むことで、継続的に給与から回収する道が開けます。
判決・和解調書取得後の強制執行
示談交渉で相手が支払いに応じない場合、訴訟を提起して勝訴判決を得るか、裁判所での調停・和解を成立させます。これにより「債務名義」を取得し、相手の財産に対する強制執行(差押え)が可能になります。
給与差押え(債権執行)の仕組み
相手が会社員や派遣社員として働いている場合、最も確実で実効性が高いのが「給与差押え」です。
- 給与の原則的な差押え上限は、手取り額の4分の1までとなります。
- ※手取り給与が比較的高額である場合や、養育費等との競合がない限り、原則として4分の1が債権者に支払われます。
- 派遣元企業(給与支払者)に対して直接差し押さえるため、相手が勝手に給与を持ち逃げすることができず、毎月の給与から天引きされる形で回収が進みます。
4. 派遣社員・契約社員とのトラブル解決における注意点
不貞行為や独身偽装に関するトラブルをスムーズに解決するためには、以下のポイントに留意する必要があります。
- 証拠の確保が最優先: 独身であると偽っていたことが証明できるLINEのやり取り、SNSの履歴、婚活アプリのプロフィール画面、あるいは肉体関係が存在したことを示す証拠などを確実に保全してください。
- ダブルトラブルへの警戒: もし相手の配偶者から逆に「不貞行為による慰謝料」を請求されるような事態(ダブルトラブル)に発展した場合でも、あなたが「独身だと完全に信じ込まされており、過失がない(騙されていた)」ことを証明できれば、相手配偶者からの請求を排斥できる可能性があります。
- 時効への注意: 貞操権侵害による損害賠償請求権は、損害および加害者を知ったときから3年間行使しないと時効により消滅します。発覚後は速やかに専門家へ相談することが賢明です。
まとめ:派遣社員の独身偽装でも法的手続きで回収は可能
派遣社員や契約社員による独身偽装交際は、被害者に深い精神的苦痛を与える悪質な不法行為です。相手の雇用形態や不安定な勤務状況を理由に泣き寝入りする必要はありません。弁護士会照会等を活用して派遣元を突き止め、法的責任を追及した上で、給与差押え等の強制執行を視野に入れることで、確実な慰謝料回収を目指すことができます。不安を抱えたまま一人で悩まず、まずは専門家である弁護士へご相談ください。