警察官・自衛官の既婚男性が「示談金を拒否」した場合の地方裁判所提訴

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、貞操権侵害(独身偽装被害)における不法行為責任(民法709条)、裁判例の慰謝料算定基準、および相手の妻からの不貞請求防御実務に基づきわかりやすく解説しています。

Q 独身と偽っていた警察官の彼氏が、慰謝料の支払いを無視・拒否しています。職場に連絡しても大丈夫でしょうか?
A 個人が直接職場の所属長などに電話や手紙で連絡を入れる行為は、名誉毀損や業務妨害(あるいは脅迫と評価されるリスク)に発展する恐れがあり、かえって相手に法的反撃の口実を与えてしまいます。示談が不調に終わった場合は、感情的な職場突撃ではなく、弁護士を通じた地方裁判所への訴訟提起や、法的手続を踏んだ給与差押えを行うのが最も確実かつ安全な解決策です。

1. 警察官・自衛官が示談を拒む背景と法的リスク

警察官や自衛官などの公務員、特に治安や国防を担う組織に所属する人物は、不祥事に対して非常にセンシティブな立場にあります。

独身偽装交際や貞操権侵害(民法709条に基づく不法行為責任)が明るみに出た場合、私的な男女間のトラブルであっても、所属組織の内部規律や懲戒処分に影響する可能性があります。そのため、最初は保身から「話合いに応じない」「示談金を支払わない」と強硬な態度に出るケースが見受けられます。

しかし、民事上の不法行為責任は、公務員の身分であっても免除されるものではありません。むしろ、社会的信用を重んじる職業であるからこそ、裁判所に提訴されるリスクや、それが公に知られるリスクに対するプレッシャーは一般人以上に大きいと言えます。

2. 任意の示談拒否から地方裁判所本訴への移行

相手が代理人を立てずに話し合いを拒絶し続けたり、法外な減額を要求してきたりする場合、これ以上の任意交渉は時間の無駄となります。この段階で検討すべきが、地方裁判所への本訴提起です。

貞操権侵害や不貞慰謝料請求訴訟では、主に以下のステップで法的手続を進めます。

  • 訴状の作成と証拠の整理(独身と誤信させたLINE履歴、写真、宿泊を証明する領収書、誓約書の控えなど)
  • 管轄の地方裁判所への提出
  • 裁判所からの呼出状送達と、被告(相手男性)による答弁書の提出
  • 口頭弁論期日の実施と和解協議、または判決の言い渡し

証拠保全の重要性

警察官や自衛官の場合、証拠隠滅を図ろうとしたり、公私の境界線を主張して逃避を図ったりすることがあります。そのため、交際期間中に蓄積した「独身であると明確に信じ込ませていたメッセージ(例:独身アピール、結婚を匂わせる発言など)」の電磁的記録を、訴訟前にしっかりと保全しておくことが不可欠です。

3. 判決確定後における所属本庁・防衛省への強制執行(給与差押え)

裁判所において原告(被害者)の請求が認められ、勝訴判決が下されるか、あるいは裁判上の和解が成立したにもかかわらず相手が支払いに応じない場合、次のステップとして強制執行(差押え)を実行します。

警察官や自衛官の給与・ボーナス(期末手当)は、一般企業の会社員と同様に差し押さえることが可能です。ここでの大きな特徴は、差押命令の送達先(第三債務者)が民間企業ではなく、公的機関になる点です。

給与差押えの主な宛先

  • 警察官の場合:各都道府県の警察本部長(所属本庁)
  • 自衛官の場合:国(防衛大臣)、あるいは管轄する地方防衛局長等

強制執行の実務上のメリット

公的機関が第三債務者となる場合、民間の一般企業に比べて、裁判所からの債権差押命令に対する事務処理が確実に行われます。給与や退職金、ボーナスから法律の定める範囲内(原則として手取り給与の4分の1に相当する金額、ただし高額給与の場合は制限あり)で直接天引きされ、直接あなたの口座に送金されるか、裁判所の執行官を介して取り立てることになります。

これにより、相手が個人的に支払いを拒絶し続けていても、強制的に債権を回収することが可能となります。

4. 貞操権侵害における請求項目の整理

地方裁判所に訴訟を提起する際は、請求する金額の根拠を明確にする必要があります。独身偽装交際・貞操権侵害における損害賠償請求では、主に以下の要素が考慮されます。

  • 精神的苦痛に対する慰謝料: 独身と偽られて性交渉を強いられたこと、婚姻の期待を裏切られたことに対する精神的損害。
  • 妊娠・中絶、心身の不調を伴う場合の加重事由: もし身体的な負担やトラウマ、通院を余儀なくされた場合は、その診断書や医療費も損害として主張の対象に含めます。
  • 弁護士費用相当額: 不法行為と因果関係のある弁護士費用の一部を損害として請求することが認められるケースがあります。

5. 相手が弁護士を立ててきた場合の対応と法的戦略

警察官や自衛官が所属組織の法的支援や個人的に依頼した弁護士を立てて反論してきた場合、個人間での交渉はさらに不利になります。相手の代理人は、貞操権侵害の成立要件(「独身であると誤信したことについて過失がないか」「交際の性質は単なる遊びの範囲内ではなかったか」など)の隙を突いて減額を求めてきます。

このような局面では、法的な論理武装と、過去の類似裁判例に基づく適正な慰謝料額の主張が不可欠です。感情的な対立を避け、客観的な証拠を基に法的手続を着実に進めることが、正当な慰謝料回収を成し遂げるための最も確実な道となります。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

TOP