独身と偽って交際を重ね、やがて結婚の約束(婚約)をし、さらには妊娠・中絶という取り返しのつかない事態に直面した後に、相手が既婚者であることが発覚する――。
このようなケースは、被害者にとって人生を揺るがすほどの深刻な精神的・肉的苦痛を伴います。本記事では、独身偽装交際および貞操権侵害に関する法的な請求項目や、事案の解決に向けた重要ポイントを裁判実務に沿って解説します。
単なる交際関係での独身偽装にとどまらず、以下のような要素が重なる場合、法的な違法性の程度は高まります。
これらは単なる不倫関係の慰謝料請求とは異なり、被害者の「人としての尊厳」「自己決定権」「性的自由(貞操権)」を根底から踏みにじる行為です。
そのため、民法第709条に基づく不法行為責任として、損害賠償請求の対象となります。
婚約中に既婚者と判明し、妊娠・中絶を経験した場合、請求できる損害賠償(金銭賠償)は多岐にわたります。主な項目は以下の通りです。
独身であると誤信させ、本来であれば結ばなかったであろう性的関係を強制したことに対する精神的苦痛への賠償です。
結婚を約束しながら、既婚者であるという自らの障害を隠して破綻させたことに対する賠償です。
中絶手術にかかった費用(治療費)だけでなく、母体に生じた肉体的苦痛、精神的苦痛に対する賠償が含まれます。
独身偽装や貞操権侵害、婚約破棄を伴う事案において、裁判所で認められる慰謝料の現実的な認容水準は以下の通りです。
一部で喧伝されるような「500万円クラス」といった金額は裁判実務上極めて異例であり、法的な実態に合わせた適切な請求と立証が不可欠です。
このような重度事案において、相手から適正な慰謝料を回収するためには、感情的な追及ではなく、客観的な「証拠の積み重ね」が不可欠です。
ここで見落としてならないのが、いわゆるダブルトラブルのリスクです。
被害者自身は「独身だと騙されていた」状況であっても、相手の配偶者から見れば「夫(妻)と不貞行為をした相手」と映るため、配偶者側から慰謝料請求を突然受けるという二次被害が発生することがあります。
また、アプリ上で独身と偽られていた場合でも、土日夜間の連絡不通、自宅に行けない等の客観的状況から「既婚と疑うべき過失があった」と判断されると、減額や相手配偶者への法的責任との調整が生じることがあります。
このような複雑な法的リスクに対しては、以下の法的防御論を組み立てて対抗する必要があります。
ご自身一人で相手側と交渉しようとすると、言質を取られたり、さらなる精神的ストレスに苦しめられたりする危険性があります。
婚約中の妊娠発覚と相手の既婚者隠蔽は、精神的・肉的に計り知れないダメージを伴う悪質な事案です。客観的な証拠を揃えて貞操権侵害や婚約破棄としての法的主張を行うことで、実務上の妥当な水準に基づく損害賠償を実現することが可能です。
配偶者からの思わぬトラブルリスクなども踏まえ、泣き寝入りすることなく、早い段階で専門的な法的サポートを検討することが、自身の尊厳と正当な権利を守る確実な道となります。