退職時に交わした「秘密保持誓約書・誓約書」違反の口コミ投稿者への追及

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、ネット上の誹謗中傷削除・発信者情報開示命令(IPアドレス特定)・仮処分裁判実務に基づき、プロバイダ責任制限法および最新の判例に沿ってわかりやすく解説しています。

Q 退職者が秘密保持誓約書に違反して転職口コミサイトに会社の機密や悪質なデマを投稿した場合、どのような法的責任を追及できますか?
A 【法的責任と判断基準】退職者が秘密保持誓約書や退職合意書に違反して社内機密や虚偽の情報を投稿した場合、契約違反(債務不履行)による損害賠償請求が認められるほか、社会的評価を低下させる内容は名誉毀損として不法行為責任の追及が可能です。
【弁護士による対応とメリット】会社側は締結済みの誓約書を強力な証拠として活用し、迅速な口コミの削除請求や、発信者情報開示請求による投稿者の特定、さらには経済的損失に対する損害賠償請求をスムーズに進めることができます。

退職者による転職口コミサイトへの投稿と誓約書の重要性

近年、転職会議やOpenWork、Lighthouse(旧en評判)をはじめとする企業口コミサイトは、求職者にとって不可欠な情報源となっています。しかし、これらの中には、退職した元従業員が感情的な恨みや誇張、さらには社内の機密情報を交えて会社を誹謗中傷するケースが後を絶ちません。

多くの企業では、退職の際に「秘密保持誓約書」「退職合意書」を取り交わしています。これらは、在職中の機密情報の漏洩を防ぐだけでなく、退職後の企業秩序や社会的評価を守るための重要な防衛策です。

もし、元従業員がこれらの誓約書に反してネット上に口コミを投稿した場合、会社側は単なる名誉毀損だけでなく、契約違反(債務不履行)および不法行為を理由として、法的責任を追及することができます。

本記事では、退職時に交わした誓約書の法的効力、違反した投稿者に対する具体的な責任追及の方法、そして実務上の留意点について、弁護士の視点から詳しく解説します。

退職時の誓約書(秘密保持・競業避止)の法的効力

退職時に署名・捺印させる誓約書には、主に「秘密保持義務」と「競業避止義務」に関する条項が盛り込まれます。これらの効力がどのように認められるのかを正確に理解しておく必要があります。

  • 秘密保持義務の効力: 在職中だけでなく退職後においても、会社の営業秘密、財務情報、顧客リスト、未公開のプロジェクトなどの外部流出を禁じる義務です。情報の「秘密性」や「管理性」が認められる限り、退職後も原則として有効に機能します。
  • 競業避止義務の効力: 退職後一定期間、同業他社への就職や競合事業の立ち上げを制限するものです。ただし、職業選択の自由(憲法第22条)との兼ね合いから、期間、地域、対象職種、代償措置(手当の支給など)の有無が総合的に考慮され、不合理に制限するものは公序良俗違反(民法第90条)として無効と判断されるリスクもあります。

したがって、すべての誓約書が無条件であらゆる投稿を防げるわけではありませんが、「業務上知り得た未公開の内部情報や経営情報の暴露・誹謗中傷の禁止」に関する秘密保持条項については、比較的広範に有効性が認められやすい傾向にあります。

誓約書違反および口コミ投稿に対する法的責任の追及方法

元従業員が誓約書に違反して口コミサイトに不適切な投稿を行った場合、企業側は以下のような法的手段を通じて責任を追及することができます。

  • 債務不履行に基づく損害賠償請求: 退職時に交わした誓約書は一種の契約です。これに違反したことは「債務不履行(民法第415条)」にあたります。情報流出によって取引停止や採用活動への悪影響など、具体的な損害が生じた場合、その賠償を請求することが可能です。
  • 不法行為に基づく損害賠償請求・削除請求: 投稿内容が事実に反する誹謗中傷であり、会社の社会的評価を低下させた場合、民法第709条の不法行為が成立します。口コミの削除請求や、精神的損害に対する慰謝料請求を行うことができます。
  • 発信者情報開示請求による投稿者の特定: 匿名で口コミが投稿されている場合、プロバイダ責任制限法に基づき、サイト運営者および経由プロバイダに対して発信者情報開示請求を行い、投稿者の氏名、住所、メールアドレスなどを特定します。退職時の契約書に記載された個人情報や筆跡、IPアドレス等のログを突合することで、特定がスムーズに進むケースも少なくありません。

実務上発生しやすい問題と弁護士に相談すべき理由

退職者の口コミ投稿に対して法的措置を講じる際には、実務特有のハードルが存在します。これらを適切にクリアするためには、専門知識を持つ弁護士のサポートが不可欠です。

  • 投稿者が元従業員であることの立証難易度: 口コミサイトは匿名やペンネームで行われるため、一見して誰の投稿か分からない場合があります。誓約書違反を追及するためには、投稿内容に含まれる具体的なエピソードや在職時の状況などから、「他の誰でもなく、特定の元従業員によるもの」と推認・立証できる証拠の積み上げが必要です。
  • 過剰な誓約書の無効リスク: 会社側が一方的に作成した、あまりにも不当で広範な制限を課す誓約書は、裁判で一部無効と判断される可能性があります。現在の法的解釈に耐えうる内容かどうかの精査が求められます。
  • 二次被害(炎上)の防止: 法的措置を急ぐあまり、退職者と感情的な対立に陥ると、かえってSNS等で騒ぎが大きくなり、風評被害が拡大する「二次被害」を招く恐れがあります。冷静かつ水面下での法的手続きが重要です。

まとめ:悪質な口コミには誓約書を武器に毅然とした対応を

退職者による悪質な口コミ投稿は、企業の採用力低下やブランドイメージの失墜に直結する深刻な問題です。退職時に交わした「秘密保持誓約書」は、単なる形式的な書類ではなく、こうした風評被害から会社を守るための強力な法的武器となり得ます。

自社の評判を守り、同様の不正を防ぐためにも、誓約書違反の兆候を見つけた段階で、まずはネット誹謗中傷や企業法務に強い弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所へご相談ください。証拠の保全から発信者情報開示請求、損害賠償請求に至るまで、企業の利益を守るための最適な解決策をご提案いたします。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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