警察の取調べで加害者が「酒に酔っていた・覚えていない」と逃げた時

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、ネット上の誹謗中傷削除・発信者情報開示命令(IPアドレス特定)・仮処分裁判実務に基づき、プロバイダ責任制限法および最新の判例に沿ってわかりやすく解説しています。

Q ネット中傷で警察に特定された加害者が「酒に酔っていて覚えていない」と言い逃れをしています。本当に罪に問えないのでしょうか?
A 【法的判断と原因において自由な行為】加害者が「泥酔して記憶にない」と主張しても、それだけで刑事責任が免除されるわけではありません。自ら好んで泥酔して犯行に及んだ場合、「原因において自由な行為」の法理により故意が認められ、名誉毀損罪や侮辱罪などの刑事責任が問われます。
【証拠収集と弁護士介入の重要性】警察や検察に言い訳を通させず厳罰化や刑事告訴を成功させるためには、犯行に至る経緯や計画性を示す客観的な証拠の提出が不可欠です。被害者自身での対応には限界があるため、誹謗中傷問題に強い弁護士に依頼し、法的なアプローチを徹底して損害賠償請求や刑事手続きを有利に進めることが極めて有効です。

ネット誹謗中傷で加害者が使う常套句「酔っていた」の罠

インターネット上の掲示板やSNSで執拗な誹謗中傷を受け、警察に被害届や刑事告訴を受理してもらった後、いざ加害者が特定されて取調べが行われる段階になって、決まり文句のように発せられる言葉があります。

「お酒に酔っていて、当時のことはよく覚えていない」

被害者側からすれば、多大な時間と精神的苦痛を味わわされた挙句の果てに、あまりにも無責任で身勝手な言い訳に聞こえるでしょう。このような供述を目の当たりにすると、「警察は捜査を諦めてしまうのではないか」「お酒を飲んでいれば何を言っても許されるのか」と不安と怒りが募るはずです。

しかし、ご安心ください。法的な観点において、単に「お酒を飲んでいた」「記憶にない」という主張だけで刑事責任が帳消しになることは基本的にありません。この厄介な弁明に対して、被害者側がどのように向き合い、警察や検察に対して有効なアプローチを行っていくべきか、夕陽ヶ丘法律事務所の弁護士が詳しく解説します。

「酔っていた」という弁明が刑事責任を免れない法的理由

日本の刑法においては、犯罪の故意(罪を犯す意思)があって初めて処罰の対象となります。加害者が「泥酔して意識が朦朧としていた」と主張する場合、この故意が否定されるのではないかという懸念が生じます。

しかし、法律には「原因において自由な行為」という重要な法理が存在します。これは、自ら好んで泥酔状態に陥り、その状態を利用して(あるいはその状態になることを見越して)犯罪を実行した場合、あるいは泥酔して犯罪を行うことが予見できた場合には、責任能力や故意が阻却されないという考え方です。

さらに、ネット上の誹謗中傷は、以下のような特徴を持っているため、一瞬の勢いや偶発的な出来事として片付けられるものではありません。

  • スマートフォンやパソコンなどの端末を操作し、アプリやブラウザを起動してアクセスしていること
  • アカウントのログイン情報を入力、または維持している状態であること
  • 特定の板やスレッド、あるいはアカウントのコメント欄にまで移動し、文章を入力して送信ボタンを押すという、複数の段階的な意思決定が必要であること

このように、ネットへの書き込み行為自体が、ある程度の複雑な身体的・精神的動作を伴うため、「完全に記憶がなく、ロボットのように勝手に手が動いていた」という主張は、客観的に見て極めて不自然かつ不合理なのです。

泥酔の言い訳を粉砕するための「計画性・悪質性」の立証

加害者の「覚えていない」という供述を覆し、厳重な処罰(起訴・罰金刑・懲役刑など)を求めていくためには、捜査機関に対して投稿の計画性と悪質性を客観的な証拠をもって示すことが不可欠です。

警察の取調べにおいても、加害者がしらばっくれたままでいると、証拠不十分として嫌疑不十分や起訴猶予で終わってしまうリスクがゼロではありません。そのため、被害者側(弁護士代理人)から積極的に捜査機関へ意見書や追加の証拠を提出することが極めて有効です。

具体的には、以下のような事実を積み重ねて立証します。

  • 執拗性と継続性: 投稿が一度きりではなく、何度もアカウントを変えたり、スレッドを執拗に荒らしたりしていないか
  • 内容の具体性・悪質性: 単なる悪口にとどまらず、社会的信用を失墜させるような虚偽の事実の摘示や、執拗な人格攻撃、プライバシーの暴露が含まれているか
  • 犯行前後の文脈: 投稿の前後で、他の理路整然としたやり取りをしていないか、あるいは特定の標的を執拗に検索して狙い撃ちしていないか

特に、発信者情報開示請求の段階で収集したデジタルログや、過去の投稿履歴の魚拓・スクリーンショットなどは、加害者の「記憶にない」という言い訳を打ち砕くための強力な武器となります。

警察や検察の捜査を動かすための実務的アプローチ

被害者個人が警察署に赴き、「加害者が酔っていたと言い訳しているからもっと厳しく取り調べてほしい」と訴えても、捜査のマンパワーやリソースの都合上、警察官がどこまで踏み込んでくれるか分からないという現実があります。

警察は客観的な証拠と法律上の論点に基づいて動く組織です。したがって、加害者の身勝手な言い訳を封じ込め、事件を円滑に検察庁へ送致させ、さらに起訴(刑事罰)へと持ち込むためには、弁護士を通じた法的な裏付けの提示が極めて効果的です。

夕陽ヶ丘法律事務所では、刑事告訴や被害届の提出サポートにおいて、以下のようなアプローチを徹底しています。

  1. 告訴状・告発状における論理武装: 初めから加害者が「酔っていた」と弁明する余地を予測し、それが法律上いかに通用しないかを法的構成とともに告訴状に明記します。
  2. 補充捜査の要請: 加害者の供述の矛盾点(例:過去にも同様の誹謗中傷を繰り返していた事実など)を指摘し、警察に対して必要な補充捜査(通信履歴のさらなる分析や関係者聴取など)を働きかけます。
  3. 意見書の提出: 検察官が起訴・不起訴を判断する段階において、加害者の反省のなさや悪質性を訴える被害者意見書を提出し、厳罰を求めます。

まとめ:泣き寝入りせず、プロの力で加害者に真摯な責任を取らせよう

ネットの誹謗中傷という卑劣な加害行為を行いながら、いざ法的責任を問われる局面になって「お酒に酔っていた」「記憶にない」と見苦しい言い訳で逃れようとする者は少なくありません。しかし、そこで被害者が諦めてしまっては、相手の思う壺です。

法律は、泥酔を免罪符として認めてはいません。計画性や悪質性をしっかりと立証し、客観的な証拠を突きつけることで、加害者の言い訳を法的に排斥することは十分に可能です。また、刑事手続きと並行して、民事上の損害賠償請求(慰謝料請求)を進めることで、経済的にも重い責任を負わせることができます。

「相手が酔っていたと言っているが本当に罪に問えるのか」「警察からなかなか連絡がない」などでお悩みの方は、ぜひ一度、ネット誹謗中傷・刑事対応に精通した夕陽ヶ丘法律事務所へご相談ください。あなたの尊厳を守り、加害者に真摯な責任をとらせるための最善のサポートを提供いたします。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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