特定された加害者が「お金がない」と支払いを拒否した場合の強制執行

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、ネット上の誹謗中傷削除・発信者情報開示命令(IPアドレス特定)・仮処分裁判実務に基づき、プロバイダ責任制限法および最新の判例に沿ってわかりやすく解説しています。

Q 誹謗中傷の裁判で勝訴したのに加害者が「お金がない」と慰謝料の支払いを拒否しています。泣き寝入りするしかないのでしょうか?
A 【強制執行による財産差し押さえ】判決や和解調書という債務名義があれば、加害者の預貯金口座や給与、不動産などの財産を強制的に差し押さえて損害賠償金を回収することが可能です。「お金がない」という言葉を鵜呑みにして泣き寝入りする必要はありません。
【財産開示手続と弁護士への相談】相手の勤務先や口座が不明な場合でも、法的な財産開示手続や第三者からの情報取得手続を活用して財産を特定できます。確実かつスムーズに慰謝料を回収するためにも、一刻も早くネット被害に強い弁護士にご相談ください。

ネット上の誹謗中傷に対し、多大な時間と費用をかけて発信者情報開示請求を行い、ようやく裁判で勝訴した、あるいは慰謝料の支払いに合意する和解が成立したとします。しかし、ここで新たな壁に直面する被害者の方が少なくありません。それが、加害者側からの「今はお金がないから支払えない」という言葉です。

裁判に勝てば自動的にお金が振り込まれてくるわけではありません。相手が自主的に支払わない場合、被害者自らが法的な手続きを踏んで回収する必要があります。

本記事では、ネット誹謗中傷の損害賠償請求において、加害者が支払いを拒否した場合に採るべき強制執行の手続きや、財産を特定するための実務的なアプローチについて、夕陽ヶ丘法律事務所の弁護士が詳しく解説します。

裁判に勝ってもお金が振り込まれない理由

日本の民事訴訟制度では、裁判所が「被告は原告に対して〇〇万円を支払え」という判決を下したり、裁判上の和解が成立したりしても、それはあくまで「支払い義務があることの公的な証明(債務名義)」が得られたにすぎません。

加害者が誠実な人物であれば、判決や和解に従って指定された期日までに指定口座へ振り込みますが、中には次のような理由で支払いを逃れようとする加害者が存在します。

  • 本当に貯金や手元のお金が一切ない状態である
  • 「どうせ払わなくても警察は来ないだろう」と軽く考えている
  • 支払う意思が最初からなく、逃げ得を狙っている

特にネットの匿名掲示板やSNSで誹謗中傷を繰り返す層の中には、経済的な基盤が安定していないケースも見られますが、「お金がない」という主張が本当であるとは限りません。仮に本当にお金がなかったとしても、法律には財産を強制的に回収するための仕組みが用意されています。

強制執行の基本と差し押さえの対象となる財産

加害者が任意に支払わない場合、被害者は裁判所に強制執行の申し立てを行います。強制執行を行うためには、原則として「債務名義(確定判決正本、仮執行宣言付判決正本、和解調書、調停調書、公証人作成の執行証書など)」が必要となります。

誹謗中傷の損害賠償請求において、強制執行の主なターゲットとなる財産は以下の通りです。

1. 給与の差し押さえ

加害者にお手伝い先や勤務先(会社)がある場合、最も実効性が高いのが給与の差し押さえです。 勤務先に対して債権差押命令が送達されると、勤務先は加害者の給与の中から一定額(原則として手取り額の4分の1まで。ただし給与が高額な場合は上限あり)を天引きし、被害者に直接支払う義務が生じます。 給与の差し押さえは、加害者にとって「勤務先に裁判沙汰や不祥事が知られてしまう」という大きなプレッシャーになるため、これをきっかけに慌てて一括払いに応じるケースも少なくありません。

2. 預貯金口座の差し押さえ

加害者が利用している銀行や支店が特定できている場合、その預貯金口座を差し押さえることができます。 口座に預金残高があれば、その金額から回収(取り立て)することが可能です。発信者情報開示請求の過程で、加害者のプロバイダや決済クレジットカードの情報などから口座情報の手がかりが得られている場合、非常に有効な手段となります。

3. 不動産・動産の差し押さえ

加害者名義の自宅や土地などの不動産があれば、それを差し押さえて競売にかけ、売却代金から回収することができます。また、高価な自動車や貴金属などの動産があれば、執行官を通じて差し押さえることも選択肢に入りますが、実務上は費用対効果を慎重に見極める必要があります。

加害者の財産が分からない場合の対策

「強制執行ができるのは分かったが、加害者の勤務先も預金口座も分からない」というケースは非常に多く存在します。開示請求によって住所や氏名は判明したものの、勤務先まで特定されているとは限らないためです。

このような場合に備え、近年の民事執行法改正では、財産を調査するための強力な法制度が新設・強化されました。

財産開示手続の活用

裁判所を通じて、加害者本人を呼び出し、どのような財産を所有しているか(預金口座、勤務先、不動産など)を陳述させる手続きです。 正当な理由なく出頭を拒んだり、嘘の供述をしたりした場合には刑事罰や過料の対象となるため、加害者に対する心理的なプレッシャーとしても機能します。

第三者からの情報取得手続

財産開示手続だけでは十分な情報が得られない場合、裁判所や官公庁、金融機関等に対して加害者の財産情報を照会できる制度です。 特に、弁護士会を通じた照会(弁護士法23条照会)や、法改正によって認められた「金融機関に対する預貯金口座情報の照会」「市区町村や日本年金機構に対する勤務先情報の照会」を活用することで、加害者の給与や預貯金を突き止めることが可能になります。

「お金がない」と言われたときの具体的なステップ

加害者から「支払えない」と連絡があった場合や、連絡が取れなくなった場合、被害者個人で対応するのは精神的にも大きな負担となります。以下のステップで冷静に対処することが重要です。

  1. 債務名義の確保を確認する:裁判の判決書や和解調書が手元にあるか確認します。
  2. 弁護士に強制執行を依頼する:財産調査から差し押さえの申し立てまで、一貫して弁護士に代理人を依頼することで、確実に法的手続きを進めることができます。
  3. 分割払いの合意(公正証書の作成等)を検討する:どうしても一括払いが不可能で、かつ相手に定職がある場合、無理な差し押さえよりも、弁護士を交えて「毎月〇万円ずつ確実に支払う」という内容の合意書や公正証書を締結し、不履行の際には直ちに強制執行できる条件を整えるのも一つの現実的な解決策です。

まとめ:泣き寝入りせず弁護士とともに徹底的な回収を

ネットの誹謗中傷で傷つき、長い時間と費用をかけて加害者を特定したにもかかわらず、お金の回収を諦めてしまっては、被害者の受けた精神的・経済的損害が回復されません。

加害者が「お金がない」と主張したとしても、それは支払いを逃れようとする口実である場合が多く、法律に基づいた適切な財産調査と強制執行を行えば、回収の道が開けます。

夕陽ヶ丘法律事務所では、発信者情報開示請求や損害賠償請求の代理だけでなく、勝訴後の強制執行や財産回収に至るまで、依頼者様を総合的にサポートいたします。誹謗中傷の被害でお悩みの方、また加害者からの支払いが滞ってお困りの方は、ぜひ当事務所までご相談ください。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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