【弁護士によるサポートの重要性】判決が出ても自動的にお金が振り込まれるわけではないため、確実に財産を特定して差し押さえるためには、民事執行法に精通した弁護士へ速やかに相談し、法的手段を用いた実効性の高い回収手続きを進めることが不可欠です。
ネット上の誹謗中傷や風評被害について、裁判を起こし、勝訴判決や和解を獲得したとします。これでようやく一件落着……と言いたいところですが、実務上はここからが新たなハードルになるケースも少なくありません。それが、「裁判で勝ったのに、加害者が損害賠償金を自主的に支払ってくれない」という問題です。
弁護士を通じて督促を行っても、加害者が「お金がない」「無視する」といった態度をとり続ける場合、被害を泣き寝入りするしかないのでしょうか。
答えは「ノー」です。このような場合、日本の民事執行法には、相手の財産を暴き出して強制的に回収するための強力な法的手段が用意されています。その代表格が「財産開示手続き」です。
この記事では、夕陽ヶ丘法律事務所の弁護士が、ネット中傷の損害賠償金を回収するための財産開示手続きの仕組みや流れ、そして確実にお金を取り戻すための実務的なポイントを分かりやすく解説します。
ネット中傷の勝訴後に待ち受ける「支払い拒否」の壁
ネット掲示板やSNSでの誹謗中傷被害において、発信者情報開示請求を経て裁判(損害賠償請求訴訟)を起こし、慰謝料や弁護士費用の支払いを命じる判決を得たとします。
しかし、裁判に勝ったからといって、裁判所や警察が自動的にお金を加害者の口座から引き出して被害者に届けてくれるわけではありません。あくまで「加害者は被害者にお金を払いなさい」という公的な命令が出た状態にすぎません。
そのため、加害者が誠実に支払いに応じれば問題ありませんが、次のような理由から支払いを拒否・放置するケースが後を絶ちません。
- そもそも経済的な余裕がなく、支払う現金がない
- 「どうせバレないだろう」と裁判所からの通知を無視している
- 自分の財産や勤務先を知られたくないため、行方をくらましている
このような相手に対し、どこに預貯金があるのか、どこの会社で働いているのかが分からない状態では、財産を差し押さえる(強制執行する)ことができません。この膠着状態を打破するために行うのが、財産開示手続きです。
財産開示手続きとは何か?制度の概要とメリット
財産開示手続きとは、債務者(お金を払うべき加害者)を裁判所に呼び出し、その債務者が所有している財産について自ら明らかにさせる法的な手続きです。
従来は、相手の財産を差し押さえるためには、被害者側が必死になって相手の勤務先や銀行口座を特定しなければならず、これが大きな負担となっていました。しかし、法改正によりこの財産開示手続きの要件が緩和され、より利用しやすくなっています。
この手続きを利用する最大のメリットは、裁判所という公的機関の強い権限を通じて、加害者に自身の財産情報を白日の下にさらさせることができる点にあります。
もし加害者が正当な理由なく期日に出頭しなかったり、嘘の財産目録を提出したり、陳述を拒んだりした場合には、「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」という刑事罰(罰則)が科される可能性があります。単なる無視では済まされないため、加害者に対する強力な心理的プレッシャーとなります。
財産開示手続きで明らかにできる財産の種類
財産開示手続きにおいて、加害者が開示を義務付けられる財産には、以下のようなものがあります。ネット中傷の加害者から損害賠償金を回収する上で、特に重要となる情報が含まれています。
- 預貯金:どこの銀行の、どの支店に口座があるか
- 勤務先・給与:現在どこで働いており、毎月どれくらいの給与や賞与を得ているか
- 不動産:自宅や土地などの不動産を所有しているか(所在地や登記状況)
- 株式・債券などの有価証券:保有している株券や投資信託など
- その他の財産:高価な美術品や自動車、売掛金など
特に、ネット中傷の加害者は個人の若年層やSNSユーザーであることも多いため、「勤務先(給与)」や「主要な銀行口座」の情報を開示させることができれば、その後の給与差し押さえや口座差し押さえへとスムーズにつなげることができます。
財産開示手続きの具体的な流れ
実際に財産開示手続きを進める際の流れは、概ね以下のようになります。
1. 申し立ての要件確認
財産開示手続きを行うためには、原則として「債務名義(勝訴判決や和解調書など)」を持っていること、そして強制執行を行ったにもかかわらず、十分に回収できなかったことが必要です。ただし、ネット中傷の事案では、相手の財産の場所が全く分からないため、強制執行すらできない状態であることが多く、一定の条件を満たせば申し立てが可能となります。
2. 裁判所への申し立て
債務者(加害者)の住所地を管轄する地方裁判所に対して、財産開示の申し立てを行います。必要書類(判決書の正本、財産開示申立書など)を準備し、手数料や予納郵券を納付します。
3. 裁判所による実施決定と期日の指定
裁判所が申し立てを認めると、加害者に対して「指定された期日に裁判所に出頭し、財産について述べなさい」という命令(実施決定)が発令され、開示期日が指定されます。
4. 財産開示期日の実施
指定された期日に、加害者本人が裁判所に出頭します(※弁護士が代理人として出席する場合、債務者本人の出頭が必須となるケースもあります)。裁判官の面前で、加害者は自分の財産に関する目録に基づき、宣誓の上で陳述を行います。被害者側(または代理人弁護士)から、加害者に対して質問を行うことも可能です。
5. 差押え(強制執行)への移行
開示された財産情報をもとに、直ちに預貯金の差し押さえや、勤務先からの給与差し押さえ手続きを実行し、損害賠償金を回収します。
財産開示手続きを成功させるための実務上のポイント
財産開示手続きは非常に有効な手段ですが、より確実に成果を上げるためには、いくつかの実務的なポイントを押さえておく必要があります。
「第三者からの情報取得手続」との併用
財産開示手続きの大きな特徴として、2020年の法改正により新設された「第三者からの情報取得手続」と密接に連携できる点があります。
財産開示手続きで加害者が「そんな口座はない」「無職だ」と嘘をついた場合や、そもそも行方不明で開示手続き自体が難しい場合であっても、次のような機関に対して直接情報の提供を求めることができるようになりました。
- 市区町村や日本年金機構等:加害者の勤務先情報(給与支払者)に関する情報の取得
- 金融機関(銀行等):加害者の預貯金口座や残高に関する情報の取得
- 登記所(法務局):加害者が所有する不動産に関する情報の取得
これにより、加害者が不誠実であっても、公的機関や金融機関から直接正確な財産・勤務先データを引き出し、強制執行へと進むことが可能になります。
弁護士への依頼が不可欠な理由
財産開示手続きやその後の強制執行を個人ですべて行おうとすると、複雑な裁判所への書類作成、法的な要件のクリア、金融機関や役所との折衝など、膨大な時間と労力がかかります。
特に、インターネット上の誹謗中傷問題に精通した弁護士であれば、開示請求から裁判、そして最後の損害賠償金の回収(財産開示・強制執行)までを一気通貫でサポートすることができます。加害者が支払いに応じない場合のプレッシャーのかけ方や、どの財産を狙うべきかの見極めについても、プロの知見が大きな力となります。
まとめ:泣き寝入りせず、確実な回収を目指しましょう
ネット中傷の裁判で勝訴したにもかかわらず、加害者が「お金がない」「無視する」と言って賠償金を払わない場合でも、泣き寝入りする必要はありません。
財産開示手続きや、それに付随する情報取得手続きを活用すれば、裁判所の強制力を背景に、加害者の預貯金や勤務先などの財産を暴き出し、強制的に回収することが可能です。
夕陽ヶ丘法律事務所では、ネット誹謗中傷・風評被害の削除・発信者情報開示請求だけでなく、その後の損害賠償金の回収(強制執行・財産開示手続き)までトータルでサポートしております。「判決が出たのに相手が払ってくれない」とお悩みの経営者様、医療機関様、個人の方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。