2022年10月施行「改正プロバイダ責任制限法」で犯人特定はどう変わったか

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、ネット上の誹謗中傷削除・発信者情報開示命令(IPアドレス特定)・仮処分裁判実務に基づき、プロバイダ責任制限法および最新の判例に沿ってわかりやすく解説しています。

Q 2022年10月の改正プロバイダ責任制限法で、ネット誹謗中傷の犯人特定手続きはどう変わりましたか?
A 【法改正のポイント】従来の2段階の裁判手続き(発信者情報開示請求訴訟と仮処分)が1つに統合され、新しい非訟手続きである「発信者情報開示命令」が新設されたことにより、手続きの負担と期間が大幅に短縮され迅速な犯人特定が可能となりました。
【被害者へのメリット】証拠隠滅のリスクが軽減され、誹謗中傷の投稿者に対する損害賠償請求や刑事告訴がスムーズに行えるようになったため、弁護士へ早期に相談して法的措置を進めることが有効です。

インターネット上の掲示板やSNSで誹謗中傷を受けた際、書き込みをした相手(犯人)を特定して損害賠償請求や刑事告訴を行うためには、「発信者情報開示請求」という法的手続きを行う必要があります。

しかし、従来の法律のもとでは、手続きがあまりにも複雑で時間がかかるため、「途中で証拠が消去されてしまう」「費用倒れになってしまう」といった深刻な問題がありました。

こうした被害者の救済を阻む壁を打破するため、2022年10月に「改正プロバイダ責任制限法」(現・情報流通プラットフォーム対処法)が施行されました。この法改正によって、ネット上の誹謗中傷対策は劇的な変化を遂げました。

本記事では、改正前後の違いや、新設された「発信者情報開示命令」の仕組みについて、夕陽ヶ丘法律事務所の弁護士が詳しく解説します。


1. 従来のプロバイダ責任制限法が抱えていた深刻な課題

インターネット上の書き込みを特定するには、主に2つの事業者を相手にする必要があります。

  • コンテンツプロバイダ(SNS運営会社や掲示板管理会社):X(旧Twitter)、Instagram、Googleクチコミ、5ちゃんねるなど
  • 経由プロバイダ(インターネットサービスプロバイダ):ドコモ、au、ソフトバンク、Nifty、OCNなどの回線業者
  • アクセスプロバイダ:無料Wi-Fi提供者など

従来、これらを通じて犯人を特定するためには、以下の2段階の手続きを順に踏まなければなりませんでした。

  1. 第1段階:コンテンツプロバイダに対する開示請求
    まず、投稿に使われた「IPアドレス」や「タイムスタンプ」を開示させるため、裁判(訴訟または仮処分)を起こす必要がありました。
  2. 第2段階:経由プロバイダに対する開示請求
    判決や仮処分によって得たIPアドレスをもとに、契約者の「氏名・住所・メールアドレス」を保有する経由プロバイダを特定し、そのプロバイダに対して再び別の裁判を起こして契約者情報の開示を求めなければなりませんでした。

この仕組みには、「時間がかかりすぎる(平均して半年から1年以上)」という最大の欠点がありました。特に大きな問題となったのが、経由プロバイダが保存しているアクセスログの保存期間が通常3〜6か月程度しかないという点です。

第1段階の裁判に時間をとられすぎてしまい、第2段階の裁判に移行する前に経由プロバイダ側でログが消去されてしまうと、「せっかく裁判に勝ったのに犯人が特定できない」という事態が頻発していたのです。


2. 改正プロバイダ責任制限法による最大の変更点

2022年10月に施行された改正法では、こうした被害者の負担とタイムリミットの壁を解消するため、画期的な新制度として「発信者情報開示命令」が導入されました。

この新制度の最大の核心は、従来2回必要だった裁判手続きが、1回の非訟(ひしょう)手続きに統合されたことです。

非訟手続きとは何か

従来の「訴訟(裁判)」は、原告と被告が法廷で争う厳格な手続きであり、判決が出るまでに数か月の時間を要していました。 一方、今回の改正で導入された「非訟手続き」は、裁判所が当事者双方の主張や証拠を書面中心に迅速かつ柔軟に審理する手続きです。これにより、手続きのスピードが飛躍的に向上しました。


3. 新設された「発信者情報開示命令」の具体的な仕組みとメリット

改正法によって誕生した「発信者情報開示命令」には、実務上、被害者にとって非常に大きなメリットをもつ3つの仕組みが盛り込まれています。

① 提供命令(ログの保存・消去防止措置)

誹謗中傷被害で最も恐ろしいのは、裁判の途中で証拠(ログ)が消えてしまうことです。 改正法では、裁判所に開示命令の申し立てを行った際、裁判所は必要に応じて経由プロバイダなどに対し、「ログを消去してはならない」という提供命令(および消去禁止命令)を出せるようになりました。 これにより、ログの保存期間切れによって犯人特定が絶望的になるリスクが大幅に軽減されました。

② 発信者情報開示同時命令制度

従来の2段階裁判では、コンテンツプロバイダに対する裁判が終了しなければ、経由プロバイダへの裁判を起こすことができませんでした。 しかし、新しい「発信者情報開示命令」では、コンテンツプロバイダに対する開示と、経由プロバイダに対する特定をひとまとめの申し立ての中で同時に進行させることが可能になりました。

③ 意見照会手続きの効率化

プロバイダが発信者の情報を開示する際、法律上、投稿者本人に対して「あなたの情報を開示してもよいか」という意見を尋ねる(意見照会)必要があります。 従来はこのやり取りが書面で行われ、郵送の往復だけで数週間が費やされていました。改正法のもとでは、電磁的方法(オンラインシステム)を活用した迅速な意見照会の運用が整備され、手続き全体の滞留を防ぐ工夫がなされています。


4. 改正後も残るハードルと弁護士に依頼すべき理由

改正プロバイダ責任制限法によって、犯人特定までのスピード感は劇的に改善されましたが、「誰でも簡単にボタン一つで犯人を特定できるようになったわけではない」という点には注意が必要です。

発信者情報開示命令を申し立てるにあたっては、以下の点が厳格に審査されます。

  • 権利侵害の明白性:その書き込みが、客観的に見て名誉権やプライバシー権などの法的権利を違法に侵害していると言えるかどうかの法的根拠の主張
  • 正当な理由:損害賠償請求や謝罪広告請求など、開示を受けた後にどのような法的アクションを起こす目的があるかという正当性の証明

これらの要件を満たし、裁判所を納得させるだけの主張書面や証拠資料を準備するには、ネット中傷案件に関する高度な専門知識と豊富な実務経験が不可欠です。

特に、ログの保存期間という限られた時間の中で迅速に法的措置を講じる必要があるため、誹謗中傷の発覚後、一刻も早く弁護士に相談・依頼することが犯人特定の確率を大きく左右します。


5. まとめ

2022年10月に施行された改正プロバイダ責任制限法は、ネット誹謗中傷に苦しむ被害者を救うための強力な法的武器となりました。

  • 従来の2段階にわたる裁判手続きが、1回の「発信者情報開示命令」に統合された。
  • ログの消去を防ぐ「提供命令」が新設され、証拠隠滅のリスクが低下した。
  • 手続き全体のスピードが大幅に向上し、迅速な犯人特定が可能になった。

夕陽ヶ丘法律事務所では、改正法の実務に精通した弁護士が、ログの保存要請から発信者情報開示命令の申し立て、その後の損害賠償請求や刑事告訴までワンストップでサポートいたします。

ネット上の誹謗中傷や風評被害でお悩みの方は、ログが消えてしまう前に、ぜひ当事務所の初回法律相談をご利用ください。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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