2022年改正法における「保全処分(消去禁止命令)」の単独申立て

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、ネット上の誹謗中傷削除・発信者情報開示命令(IPアドレス特定)・仮処分裁判実務に基づき、プロバイダ責任制限法および最新の判例に沿ってわかりやすく解説しています。

Q 誹謗中傷の裁判を起こす前にアクセスログが消されそうです。裁判をしていなくてもログの削除を防ぐ方法はあるのでしょうか?
A 【保全処分の単独申立てによる解決】2022年改正プロバイダ責任制限法により導入された「消去禁止命令」の単独申立て制度を利用することで、本訴訟を提起する前であっても、裁判所を通じてプロバイダにアクセスログの削除を一時的に禁止させることができます。
【弁護士に依頼するメリット】一般的に数ヶ月で消えてしまうアクセスログの消失リスクを大幅に軽減し、確実な発信者情報開示請求へとつなげることが可能です。ログが消去される前に一刻も早く弁護士へご相談ください。

インターネット上の誹謗中傷や風評被害に直面したとき、加害者を特定するための第一歩となるのが発信者情報開示請求です。しかし、この手続きにおいて最大の障壁となるのが、「プロバイダが保有するアクセスログの保存期間(消去リスク)」でした。

アクセスログは、一般的に数ヶ月(短い場合は数週間)で自動的に消去されてしまいます。そのため、裁判手続きを行っている最中にログが消去されてしまい、特定が不可能になるケースが後を絶ちませんでした。

こうした実務上の大きな課題を解決するために導入されたのが、2022年10施行の改正プロバイダ責任制限法における「消去禁止命令(保全処分)」の単独申立て制度です。本記事では、この新たな保全処分の仕組みと、実務における重要性を分かりやすく解説します。

2022年改正前の法制度における深刻な課題

インターネット上に悪質な書き込みがなされた場合、被害者はまずコンテンツプロバイダ(SNSや掲示板の運営者)に対してIPアドレス等の開示を求めます。その後、そのIPアドレス等から経由プロバイダ(ドコモ、ソフトバンク、各光回線事業者など)を特定し、発信者情報開示請求訴訟などを提起して氏名や住所の開示を求めます。

しかし、この一連の手続きには非常に時間がかかります。経由プロバイダにおけるアクセスログの保存期間は、一般的に「3ヶ月から半年程度」と非常に短いため、裁判の準備をしている間にログが消去されてしまうケースが多発していました。

改正前の「仮処分」のハードル

改正前も、ログの消去を防ぐための「仮処分(民事保全法に基づく消去禁止の仮処分)」という法的な手段は存在していました。しかし、当時は以下のような大きな制約がありました。

  • 原則として、あらかじめ本訴訟(または開示請求訴訟)を提起していること、または同時に提起することが必要とされていた。
  • 「被保全権利(開示請求権が認められる高度の可能性)」と「保全の必要性(ログが消去される切迫した危険)」の双方が厳格に証明されなければならず、申し立てのハードルが高かった。

このような背景から、被害者が十分な法的救済を受けられないまま泣き寝入りせざるを得ないケースが少なくありませんでした。

「消去禁止命令の単独申立て」とは何か

2022年改正プロバイダ責任制限法(※現在は「情報流通プラットフォーム対処法」への移行期も含め実務上継続運用されています)では、こうした実務の現状を踏まえ、本訴訟を提起していなくても、単独でプロバイダに対してログの消去禁止を命じる裁判所の手続きが新設されました。

これが「消去禁止命令の単独申立て」です。

制度の最大のメリット

この制度の最大のメリットは、「裁判(本訴訟)を起こす前の段階でも、緊急でログの保存を確保できる」という点にあります。

  • 迅速性: 本訴訟の準備や提起を待たずに、スピーディーにログの消去を防ぐ申し立てが行えます。
  • 証拠保全の確実性: プロバイダ側に対して裁判所から直接消去禁止が命じられるため、任意の要請では応じてくれない場合でも確実にログを保全できます。
  • 費用・手間の軽減: 本訴訟と同時に進める必要がなくなったことで、初動のハードルが下がりました。

消去禁止命令が認められるための要件

消去禁止命令の単独申立てを行えば、どのような場合でも無条件に認められるわけではありません。裁判所に対して、以下の要件を満たしていることを疎明(証拠資料等をもって一歩進んだ推認を得させること)する必要があります。

1. 発信者情報開示請求権の存在(または被保全権利)

対象となった投稿が、明らかに権利侵害(名誉毀損、プライバシー侵害、侮辱など)に該当し、かつ、開示請求の要件を満たしていることが必要です。権利侵害の明白性が乏しいと判断された場合、命令は発令されません。

2. ログ消去の「おそれ」と保全の必要性

アクセスログが物理的・時間的に消去される差し迫った危険があることや、当該ログがなければ将来の開示請求が著しく困難になることが求められます。一般的な通信事業者のログ保存期間や経過日数を主張することで、この要件は比較的スムーズに認められる傾向にあります。

実務上における弁護士の役割と重要性

消去禁止命令の単独申立ては、被害者保護の観点から極めて強力な武器となりますが、法律上の要件や裁判所への疎明資料の準備には高度な専門知識が要求されます。

特にネット誹謗中傷や風評被害対策においては、「スピード」と「正確性」が勝負の分かれ目となります。ログが消去されてしまっては、いかに優れた弁護士であっても加害者を特定することは不可能になってしまいます。

そのため、誹謗中傷を発見した段階で、直ちに専門の弁護士へ相談し、以下のような一連の対応を迅速に実行することが極めて重要です。

  • 証拠の保全(魚拓や画面キャプチャの取得): 投稿内容が削除されるリスクに備えます。
  • 発信者情報開示請求の検討・着手: 権利侵害の該当性を精査します。
  • 消去禁止命令の単独申立ての活用: ログ消去の期限が迫っている場合や、任意の保存要請に応じないプロバイダに対して迅速に申し立てを行います。

まとめ:ログが消える前に一刻も早い専門家への相談を

2022年改正法による「消去禁止命令の単独申立て」は、ネット上の誹謗中傷被害に苦しむ方々にとって、泣き寝入りを防ぐための極めて有効な法的手段です。

しかし、どれほど優れた制度であっても、アクセスログが完全に消去されてしまってからでは手を打つことができません。「もしかしたらログが消されてしまうかもしれない」「プロバイダが任意の保存要請に協力してくれない」とお悩みの方は、時間との戦いになります。

弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所では、ネット誹謗中傷・風評被害対策および発信者情報開示請求に関する豊富な実績とノウハウを有しております。ログ消去のタイムリミットが迫る中で最適な法的措置をご提案いたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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