【弁護士に依頼するメリット】国際的な実務や複雑な法的手続きを伴うため、泣き寝入りせずに加害者特定や損害賠償請求を実現するには、国際法務に精通した弁護士へ早期に相談し、適切な証拠保全と法的手続きを進めることが不可欠です。
インターネット上の掲示板やSNSに書き込まれた誹謗中傷、風評被害の犯人を特定するため、発信者情報開示請求を進めたところ、相手が「海外在住の日本人」であることが判明するケースが近年増えています。
「相手が海外に住んでいるなら、日本の法律は通用しないのではないか」「海外にいると分かった時点で、泣き寝入りするしかないのか」と不安に思われる方も少なくありません。
結論からお伝えすると、海外在住の日本人であっても、一定の条件を満たしていれば発信者情報の特定や損害賠償請求を行うことは十分に可能です。しかし、国内の案件とは異なる特有の手続きやハードルが存在するのも事実です。
この記事では、夕陽ヶ丘法律事務所の実務経験を踏まえ、海外在住者が加害者である場合の発信者情報開示請求の流れ、直面しやすい法的な壁、そして損害賠償を実現するためのポイントを分かりやすく解説します。
海外在住の日本人が加害者でも発信者情報開示はできる?
ネット上の誹謗中傷に対する法的措置の第一歩は、プロバイダ等に対する発信者情報開示請求です。相手が海外に居住している場合、この手続きにどのような影響が出るのでしょうか。
日本のプロバイダを経由している場合
海外在住の日本人であっても、一時帰国中の滞在先や、日本の実家などから日本のインターネット回線や国内キャリアのスマートフォンを使って書き込みを行った場合、利用しているのは日本の通信事業者(プロバイダ)です。
この場合、発信者情報開示請求の相手方は日本の事業者となります。したがって、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求の仮処分や訴訟の手続き自体は、国内の裁判所において通常通り進めることが可能です。
IPアドレスやタイムスタンプといったログが国内の事業者に残っている限り、日本国内にいる加害者を特定するのと同様の手順で、氏名や住所といった契約者情報を特定することができます。
現地回線や海外サービスを使用している場合
一方で、相手が完全に現地(海外)の通信回線や海外のプロバイダを使用し、さらに海外のIPアドレスから直接投稿を行っていた場合は状況が異なります。
日本の裁判所や法律の効力は原則として外国には及びません。そのため、海外の通信事業者に対して日本の裁判所を通じて開示を求める場合、現地の法律や裁判手続に従う必要が生じるため、時間的・費用的なハードルが一気に高くなります。
海外在住者を特定した後に直面する2つの大きな壁
無事に国内のプロバイダから情報を取得し、海外在住の日本人の氏名や海外の住所が判明したとしても、そこから損害賠償請求や示談交渉を進める段階で、実務上特有の壁に直面します。
壁その1:海外への裁判書類の送達(領事送達)
日本国内で裁判を起こして損害賠償を請求する場合、被告となる相手に対して「訴状」などの裁判書類を確実に届ける(送達する)必要があります。
相手が海外に居住している場合、日本の裁判所から直接郵便で書類を送ることは原則として認められていません。そのため、以下のような厳格な外交ルートや国際条約に基づいた手続きが必要になります。
- 領事送達:現地の日本大使館や領事館の職員を通じて、相手に裁判書類を交付して送達する方法です。
- ハーグ条約に基づく送達:加盟国間において、中央当局を介して司法書類の送達を行う国際的な仕組みを利用する方法です。
これらの方法には数ヶ月単位の時間と、外務省や現地公館を巻き込む複雑な手続きが必要となるため、国内送達に比べて圧倒的な労力がかかります。
壁その2:海外にある資産への強制執行(差押え)
裁判で勝訴し、損害賠償金の支払命令が出たとしても、相手が日本国内に預貯金や不動産などの財産を一切持っていない場合、その判決をもとに財産を差し押さえる(強制執行する)ことが非常に難しくなります。
日本の裁判所の判決の効力は原則として外国の領土内には及ばないため、海外にある相手の銀行口座や給与を差し押さえるには、原則として相手が居住している現地の裁判所に改めて「承認・執行判決」を求める訴えを起こす必要があります。
弁護士費用や現地の弁護士を雇うコストを考慮すると、回収できる賠償金の額よりもコストが上回ってしまうリスク(費用倒れ)を慎重に見極めなければなりません。
海外在住の加害者に対して効果的な実務上のアプローチ
ここまで聞くと、「海外在住の相手を特定しても意味がないのでは」と感じられるかもしれません。しかし、実務の現場では、必ずしも海外の現地裁判まで持ち込まなければ解決しないわけではありません。効果的なアプローチの代表例を解説します。
任意交渉(示談)による解決の可能性
どれほど海外に住んでいようとも、日本国籍を持つ日本人である場合、将来的に日本へ帰国する可能性や、日本国内に実家や親族、あるいは何らかの資産(解約し忘れた口座など)を残しているケースが多々あります。
弁護士を通じて、発信者情報が開示された段階で国際郵便やメール、あるいは電話等を通じて厳格な法的警告(示談書の提示)を行うと、相手が事の重大さに気づくケース少なくありません。
「これ以上法的措置を進めると、日本の実家や親族に迷惑がかかるかもしれない」「海外にいても勤務先や将来のキャリアに傷がつくかもしれない」という心理的プレッシャーから、裁判を経ずに裁判外の示談交渉によって謝罪や損害賠償金の支払いに応じる加害者は少なくありません。
日本の住所や実家を宛先とした法的手段
住民票上の住所は海外であっても、プロバイダに登録されていた住所が日本の実家であったり、国内の連絡先が判明している場合は、日本国内の手続きとしてスムーズに送達が進むケースもあります。
実務においては、相手の生活実態や国内における接点を多角的に調査し、どのルートであれば最も確実かつスピーディにプレッシャーを与えられるかを戦略的に判断することが重要です。
海外からの誹謗中傷にお悩みの場合は弁護士にご相談ください
ネット上の誹謗中傷の投稿者が「海外在住の日本人」であった場合、通常の国内事案に比べて、管轄の判断、プロバイダとの交渉、国際送達、そして回収のシミュレーションに至るまで、高度な専門知識と国際法務の視点が求められます。
「相手が海外にいるから」と諦めてしまう前に、まずは書き込みが行われた経緯や、どの事業者がログを保有しているかを迅速に特定することが解決への第一歩となります。
夕陽ヶ丘法律事務所では、国内外のネット誹謗中傷対策および発信者情報開示請求に精通した弁護士が、お客様の被害状況を丁寧にヒアリングし、最も実効性の高い法的アプローチをご提案いたします。泣き寝入りする前に、どうぞお気軽にご相談ください。