【給与差押えは勝訴判決後に可能】損害賠償請求訴訟で勝訴判決や和解などの債務名義を得た後であれば、法的な強制執行手続きとして裁判所を通じて勤務先から給与の差し押さえ(債権執行)を行い、賠償金を回収することが可能です。
ネット上の誹謗中傷や悪質な風評被害に対して発信者情報開示請求を行い、多大な時間と費用をかけてようやく投稿者の個人情報を特定した被害者の方から、「特定できた勤務先に連絡してもよいか」「会社の給与を差し押さえて賠償金を回収できるか」というご相談を数多くいただきます。
怒りや精神的苦痛から、一刻も早く相手の社会的な立場に打撃を与えたい、あるいは確実に損害賠償金を回収したいと考えるのは当然のことです。しかし、法的な手順を誤ると、被害者側が一転して法的な責任を追及されるリスクが生じます。
この記事では、開示請求によって判明した投稿者の勤務先に対する連絡の可否や、裁判後の給与差押えの実務について、夕陽ヶ丘法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
発信者情報開示請求でわかる「勤務先情報」とは
発信者情報開示請求は、主にプロバイダ責任制限法に基づいて行われます。裁判所の命令やプロバイダの任意開示によって開示される情報は、原則として「投稿者の氏名」「住所」「メールアドレス」などです。
この開示請求の手続きの中で、投稿者が自ら登録していた情報や、勤務先からプロバイダへの通信記録などの副次的な事情から、勤務先が判明するケースがあります。しかし、開示された情報はあくまで損害賠償請求や示談交渉を進めるための連絡先・相手方特定のためのものであり、「会社にバラして社会的制裁を与えてよい」という意味ではありません。
判明した勤務先への直接連絡は原則NG(リスクの解説)
投稿者の勤務先が判明したとき、感情のままに会社へ連絡することは非常に危険です。主な法的リスクを以下に挙げます。
- 名誉毀損罪や信用毀損罪の成立:会社の代表者や人事部などに対し、「御社の社員がネットで卑劣な誹謗中傷を行っている」などと告げると、状況によっては名誉毀損や業務妨害にあたる可能性があります。
- プライバシー侵害の主張:個人のプライベートなトラブルや法的紛争の事実を職場の第三者に不必要に開示することは、プライバシー侵害として損害賠償請求を逆提訴される口実を与えかねません。
- 恐喝罪・強要罪のリスク:「会社にバラされたくなかったら今すぐ示談金を払え」といった連絡をすると、脅迫や強要とみなされるおそれがあります。
このように、裁判上の正規の手続きを経ずに、いきなり相手の勤務先へ連絡することは百害あって一利なしです。示談交渉を行う場合であっても、原則として本人の自宅宛てに書面を送付するなどの方法をとるべきです。
裁判で勝訴した後の「給与差押え(債権執行)」の仕組み
勤務先に対して法的に連絡・実行ができる唯一といってよい正式な手段が、「給与の差押え(債権執行)」です。
誹謗中傷の投稿者に対して慰謝料や弁護士費用の損害賠償請求を行い、示談がまとまらない場合は裁判(訴訟)を提起します。裁判で勝訴判決を得るか、和解調書・公正証書(債務名義)を取得したにもかかわらず、投稿者が自主的に支払いに応じない場合に初めて、強制執行の申し立てが可能になります。
給与差押えの基本的な流れ
- 債務名義の取得:裁判での勝訴判決、あるいは和解調書などを取得します。
- 勤務先の特定・確定:開示請求やこれまでの調査で判明している正確な勤務先の名称、代表者名、所在地を確認します。
- 裁判所への差押命令申立:投稿者の住所地を管轄する地方裁判所に「債権執行の申立て」を行います。
- 裁判所から勤務先への通知:裁判所から勤務先(第三債務者)に対して「給与の一部を支払わないように」という差押命令が送達されます。
- 給与の回収:勤務先は、本来投稿者に支払う給与の中から差し押さえられた金額を、直接被害者(債権者)に支払うことになります。
給与差押えのメリットと注意点
給与の差押えは、相手が支払いに応じない場合の強力な回収手段ですが、実務上いくつかの制限や注意点が存在します。
差し押さえることができる金額の制限
生活権を保護する観点から、給与の全額を差し押さえることは法律で禁止されています。
- 原則(手取り額の4分の1まで):給与や賞与などの手取り額のうち、4分の1に相当する金額までが差押えの対象となります(※手取り額が月給40万円を超える場合は、一定の計算式に基づき差押可能額が増えることがあります)。
- 分割回収になる可能性:例えば慰謝料が100万円の場合、月々の給与差押えによって少しずつ回収していくことになります。
退職リスクへの影響
会社に給与差押えの通知が届くと、勤務先の人事部や経理部に裁判沙汰のトラブルを起こしたことが確実に知られます。これにより、会社での立場が狭くなり、投稿者が自己都合や懲戒処分によって退職する可能性があります。 ただし、会社を辞めてしまえば、給与という安定した差押え対象がなくなるため、その後の回収が一時的に難しくなるという側面もあります。
勤務先対応・回収実務は弁護士への依頼が不可欠
開示請求から、判明した勤務先をどのように扱い、最終的に損害賠償金を回収するかという一連のプロセスは、高度な法律知識と綿密な戦略が必要です。
感情的な報復として勤務先へ連絡してしまうと、逆に加害者側から訴えられるなど、トラブルが複雑化する原因になります。夕陽ヶ丘法律事務所では、発信者情報開示請求の遂行から、その後の損害賠償請求訴訟、そして給与差押えをはじめとする強制執行手続きまで、一貫してサポートしております。
ネットの誹謗中傷被害でお悩みの方、特定した相手からの確実な回収をご検討の方は、ぜひ当事務所の弁護士までご相談ください。