【会社への影響と弁護士依頼のメリット】差押えの手続きは勤務先を経由して行われるため、会社の給与担当者にネット中傷の事実や法的トラブルを隠し通すことはできません。財産調査から強制執行の手続きまでを弁護士に一任することで、確実かつスムーズに損害賠償金を回収することができます。
ネット上の誹謗中傷や悪質な風評被害に対して発信者情報開示請求を行い、無事に投稿者の氏名や住所を突き止めたとしても、それで被害回復が完了するわけではありません。開示請求はあくまで「誰が書き込んだのか」を特定するための手続きであり、そこから損害賠償金を回収するためには、さらに法的アプローチを重ねる必要があります。
特に、特定された投稿者が弁護士からの請求や示談交渉を無視し続けた場合や、お金がないとして支払いに応じない場合には、強制執行という最終手段を検討しなければなりません。その中でも非常に強力な手段が、投稿者の「勤務先会社」に対する給与差し押さえです。
この記事では、開示請求によって特定された相手に対する損害賠償請求から、勤務先への通知、そして給与差し押さえの手続きに至るまでの実務の流れと、会社に事件が知られる影響について詳しく解説します。
開示請求から損害賠償請求、そして強制執行への流れ
発信者情報開示請求によって得られる情報は、主に投稿者の「氏名」「住所」「メールアドレス」といった連絡先です。電話番号や勤務先名まで必ずしも開示されるわけではありません。
そのため、開示が成功した後は次のようなステップで回収を進めます。
- ステップ1:損害賠償請求訴訟の提起
特定された住所宛てに内容証明郵便等で慰謝料や弁護士費用の支払いを求めます。相手が応じない場合は、地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起し、勝訴判決(または和解)を獲得します。 - ステップ2:財産調査・勤務先の特定
裁判に勝訴しても、相手が自主的に支払うとは限りません。相手の口座や勤務先が不明な場合、弁護士会照会や民事執行法に基づく「財産開示手続」「第三者からの情報取得手続」を活用して、勤務先を特定します。 - ステップ3:給与差し押さえの申し立て
勤務先が判明すれば、裁判所を通じて「債権差押命令」を申し立て、勤務先企業に対して給与の一部を直接支払うよう命じます。
給与差し押さえの仕組みと「手取りの4分の1」という上限
民事執行法に基づき、裁判所の命令によって給与を差し押さえる場合、どのようなルールが適用されるのでしょうか。
給与や賞与などの債権に対する差押えは、労働者の生活権を保護する観点から、法律によって差し押さえられる金額の上限が厳格に定められています。
- 原則として手取り額の4分の1まで
給与から税金や社会保険料を控除した「手取り額」の4分の1に相当する金額までが、差押えの対象となります。 - 高額所得者の例外規定
手取り額が非常に高額であり、4分の1の金額が標準的な生活維持費を超えるようなケース(月給が約66万円を超える場合など)では、4分の1を超える部分全額を差し押さえることが認められる場合もあります。 - 継続的な回収が可能
一度給与の差押えが認められると、損害賠償金と遅延損害金、執行費用が完済されるまで、毎月の給与支給日に勤務先から直接お金が支払われ続けます。
このように、相手が預貯金を持っていなくても、定職に就いて安定した給与を得ているのであれば、給与差し押さえは非常に確実性の高い回収手段となります。
勤務先への通知と事件発覚:会社に知られるリスク
給与差し押さえを行う最大のインパクト、そして投稿者側にとって最も恐ろしいポイントは、「自分の勤務している会社に、ネットの誹謗中傷で訴えられ、給与を差し押さえられたという事実が100%知れ渡る」という点です。
給与差し押さえの法的手続きでは、裁判所から勤務先企業に対して「債権差押命令」という書類が直接送達されます。勤務先の経理担当者や人事担当者は、この書類を確認した上で、差し押さえられた金額を給与から天引きし、被害者(債権者)側の指定口座に振り込む作業を行う義務を負います。
つまり、企業の人事・労務部門や経理部門の担当者は、従業員が「ネット上で他人の名誉を毀損するような違法な書き込みを行い、裁判で負って給与を差し押さえられた」という事情をすべて把握することになります。
会社にバレた場合の投稿者への影響
社会的な信用を重んじる企業であれば、業務外のプライベートな行為であっても、インターネット上で悪質な誹謗中傷を繰り返し、他人に多大な損害を与えた挙句に給与差し押さえを受けていることが発覚した場合、次のような社内処分を下すリスクがあります。
- 就業規則違反や会社の信用失墜行為に該当するとして、懲戒処分(戒告、減給、出勤停止、場合によっては懲戒解雇など)を受ける可能性。
- 社内での評判が著しく低下し、昇進や人事評価に悪影響が及ぶリスク。
- 会社にいづらくなり、自主退社に追い込まれるケース。
このようなリスクがあるため、多くの投稿者は、弁護士を通じて給与差し押さえの予告通知が届いた段階や、裁判の途中で「これ以上会社に知られたくない」と考え、慌てて一括または分割での自主的な支払い協議に応じることが少なくありません。
実務上における弁護士の役割と戦略
誹謗中傷の被害者にとって、開示請求によって相手の素性が判明した後は、「いかにスムーズかつ確実に損害賠償金を回収するか」が次の重要課題となります。
裁判で勝訴しても相手が任意の支払いに応じない場合、弁護士は相手の勤務先を割り出し、給与差押えの手続きを迅速に進めます。勤務先に対する法的なプレッシャーは、相手に自発的な支払いを促すための強力な交渉カードとしても機能します。
また、相手が会社を辞めてしまったり、転職を繰り返したりして勤務先が特定しにくい場合でも、法的な調査手段を駆使して追跡を行う必要があります。
ネットの誹謗中傷被害でお悩みの方、あるいは開示請求によって特定した相手への請求や回収方法について具体的に検討されたい方は、豊富な実績を持つ弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所までお気軽にご相談ください。専門的な知見をもって、確実な被害回復をサポートいたします。