【弁護士による対応の重要性】泣き寝入りを防ぐためには、弁護士を通じて破産管財人や裁判所に対し、悪意による不法行為の悪質性を立証し、債権者集会での意見陳述や訴訟提起などの法的対抗措置を迅速に講じることが不可欠です。
ネット誹謗中傷の加害者が破産で逃げるのは許されるのか
長期間にわたる発信者情報開示請求を経て、ようやく誹謗中傷の投稿者を特定し、さあこれから損害賠償請求という段階になって、相手から突然「自己破産を申し立てたので、もうお金は払えない」と連絡が入るケースがあります。被害者側としては、時間と費用を費やして特定したにもかかわらず、相手が法的救済制度を悪用して責任逃れをしようとする姿勢には、到底納得がいかないことでしょう。
結論から申し上げますと、加害者が自己破産の手続きを取ったからといって、すべての債務が自動的に帳消しになるわけではありません。特に、悪質なネット上の誹謗中傷によって発生した損害賠償請求権は、法律上の要件を満たすことで「非免責債権(免責されない債権)」として認められる可能性があります。相手の巧妙な逃げ得を許さないためには、正確な法律知識と迅速な法的アプローチが不可欠です。
自己破産における「免責」の仕組みと例外
自己破産制度の本来の目的は、経済的に破綻した誠実な債務者に生活再建の機会を与えることにあります。そのため、基本的には借入金や一般的な損害賠償金などは「免責(支払い義務の免除)」の対象となります。
しかし、社会正義の観点から、あるいは被害者保護の観点から、破産をしてもどうしても免除されない債権が破産法によって定められています。これが非免責債権と呼ばれるものです。誹謗中傷の被害者が持つ損害賠償請求権がこの非免責債権に該当するかどうかが、泣き寝入りを防ぐための最大の分岐点となります。
「悪意で加えた不法行為」に基づく損害賠償請求権の主張
破産法では、非免責債権の一つとして「故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」、そして実務上最も問題になる「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」を挙げています(破産法第253条第1項第2号および第3号)。
ここで言う「悪意」とは、単なる故意(自分の行為が不法行為になると認識していること)よりもさらに強い、「被害者に精神的・経済的な苦痛を与えてやろう、社会的に破滅させてやろうという積極的な害意」を指すものと解釈されています。
ネットの誹謗中傷において、この「悪意」が認められやすい典型的なケースには、以下のような特徴があります。
- ターゲットを個人的に逆恨みし、執拗かつ計画的に社会的信用を失墜させるための虚偽情報を大量に拡散させた場合
- 被害者の実名、自宅住所、勤務先などのプライバシー情報を晒し、嫌がらせを組織的・継続的に煽動した場合
- 業務妨害を直接の目的として、競合他社や悪意ある個人が組織的にフェイクレビューや誹謗中傷コメントを浴びせ続けた場合
上記のような悪質な動機や経緯が客観的な証拠によって裏付けられる場合、裁判所や破産管財人に対して「この損害賠償請求権は非免責債権に該当する」と強く主張していくことになります。
特定後に相手が破産した際の実務的な対抗手順
相手が破産申立てを行ったという通知(受任通知や裁判所からの通知)を受け取った場合、被害者が取るべき具体的なステップは以下の通りです。
- 破産手続開始の確認と債権者としての届出
まずは弁護士を通じて、相手がどの裁判所に自己破産の申し立てを行ったかを確認し、破産債権者としての届け出を期限内に行います。ここで権利の届出を怠ると、万が一非免責と認められなかった場合や配当が行われる場合に一切の回収ができなくなるため注意が必要です。 - 破産管財人への意見書の提出
裁判所から破産管財人が選任された場合、管財人に対して、今回の誹謗中傷がいかに悪質であったか、加害者に「悪意」があったことを示す証拠(侮辱的な投稿内容、執拗なやり取り、反省の色がないことなど)をまとめた意見書を提出します。管財人が裁判所に対して「免責不許可事由」や「非免責債権の存在」を認めるよう働きかけることが、非常に重要なポイントとなります。 - 訴訟提起や非免責確認の申し立て
すでに損害賠償請求訴訟を提起して判決を得ている場合や、これから訴訟を行う場合、あるいは破産手続きの中で非免責確認の訴えを提起するなどして、法的にお墨付きを得るための手続きを進めます。
弁護士に依頼するメリットと事前の備え
相手が自己破産を持ち出して逃げを図るケースでは、相手自身が弁護士を代理人に立てていることがほとんどです。法律の専門家を相手に、個人の被害者が対等に交渉し、「悪意の不法行為」や「非免責」を主張・立証することは極めて困難と言わざるを得ません。
夕陽ヶ丘法律事務所では、発信者情報開示請求による加害者の特定から、その後の損害賠償請求、さらには相手が万が一破産を申し立てた場合の非免責債権としての主張・管財人との交渉まで、一貫してサポートいたします。
誹謗中傷の被害に遭われた方が泣き寝入りすることのないよう、証拠の保全から法的手続きの隅々まで徹底的に戦い抜きます。相手の「破産で逃げる」という手段に屈せず、正当な権利を守り抜くために、まずは一度当事務所の弁護士にご相談ください。