X(旧Twitter)で「いいね(いいね文)」を押しただけでも法的責任はあるか

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、ネット上の誹謗中傷削除・発信者情報開示命令(IPアドレス特定)・仮処分裁判実務に基づき、プロバイダ責任制限法および最新の判例に沿ってわかりやすく解説しています。

Q X(旧Twitter)で誹謗中傷ツイートに「いいね」をしただけで発信者情報開示請求や損害賠償を請求されることはあるのでしょうか?
A 【原則として法的責任は成立しない】単に「いいね」を押しただけでは、名誉毀損やプライバシー侵害などの不法行為における責任は認められないのが原則です。
【例外的な損害賠償と弁護士相談】最高裁判所の判例で示されている通り、投稿者と同視できるような特段の事情がある場合は責任が認められるリスクがあります。自身が加害者として訴えられた場合や、誹謗中傷の被害に遭い法的措置を検討している場合は、早急に弁護士へご相談ください。

X(旧Twitter)をはじめとするSNSを利用していると、共感した投稿や面白い投稿に対して気軽に「いいね」を押すことが日常的になっています。しかし、もしその「いいね」した元の投稿が、誰かの名誉を傷つけたり、プライバシーを侵害するような内容だった場合、「自分も加害者として訴えられるのではないか」と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。

この記事では、Xの「いいね」と法的責任の有無について、近年の司法判断や裁判例を交えながら弁護士が分かりやすく解説します。

1. X(旧Twitter)の「いいね」とはどのような機能か

法的責任について解説する前に、まずはSNSにおける「いいね」の性質を整理しておきます。

Xの「いいね」ボタン(以前の「お気に入り」)は、対象の投稿に対して自分の好意や共感、あるいは「後で見返すためのブックマーク代わり」としてワンタップで意思表示ができる機能です。InstagramやTikTokなど、ほとんどの主要SNSに類似の機能が備わっています。

自分が「いいね」した履歴は、基本的に自分のアカウントの「いいね」タブから他者でも閲覧可能ですが、タイムライン上でフォロワーの画面に「〇〇さんがいいねしました」と表示されることもあります。この拡散性があるため、「いいね」が予期せぬトラブルに発展することがあるのです。

2. 「いいね」単体での法的責任の原則(原則:不成立)

結論から申し上げますと、他人の誹謗中傷ツイートに対して単に「いいね」を押したという行為だけでは、原則として民事上の損害賠償責任や刑事上の名誉毀損罪は成立しません。その理由は主に以下の通りです。

  • 意思表示の多様性: 「いいね」が持つ意味は、「内容への全面的賛同」「単なる読んだという既読のサイン」「面白い表現に対する評価」「議論の提起に対する関心」など多岐にわたります。そのため、「いいね」=「投稿内容の肯定・拡散」と一概に決めつけることはできません。
  • 表現の自由の保障: 憲法で保障された表現の自由や、他者の発言に対する関心の表明を過度に萎縮させないため、単なる賛意の表明にまで一律で法的責任を負わせることは相当ではないと考えられています。
  • 法律上の要件の不足: 名誉毀損が成立するためには、客観的な事実の適示によって社会的評価を低下させる行為が必要です。「いいね」というボタンを押す行為自体は、自ら新たな事実を主張・流布しているわけではないため、直接的な加害行為とは評価されにくいのです。

3. 裁判例における判断と例外的に責任が認められるケース

原則として責任は問われない「いいね」ですが、すべてのケースで免責されるわけではありません。近年の裁判例においては、特定の条件下において「いいね」をした側にも不法行為責任(民法第709条)が認められたケースが存在します。

最も有名な最高裁判所の判断(最高裁判所令和2年7月21日第三小法廷判決など)では、いわゆる「ライク訴訟」において、次のような基準が示されています。

  • 投稿者と一体となった誹謗中傷: 単なる共感を超えて、発信者の投稿内容を深く理解した上で、その名誉毀損行為を積極的に利用し、自らの意思として同調していると評価できる場合。
  • 社会的評価の低下の加速: そのアカウントの影響力やフォロワー数、前後の文脈に鑑みて、「いいね」を押す行為自体が被害者に対する悪質な社会的制裁や攻撃の先導とみなされる場合。

具体的にどのような状況であれば「例外」として責任が問われるのか、次の項目で詳しく見ていきましょう。

4. どんな場合に「いいね」で訴えられるリスクが生じるか

以下のような状況が重なっている場合、「いいね」を押しただけであっても、権利侵害の共同責任(共同不法行為)を問われるリスクが高まります。

著しい名誉毀損・人格権侵害の投稿に対するもの

元となる投稿が、単なる意見の対立ではなく、明らかな虚偽の事実(デマ)を用いたり、個人のプライバシーを著しく暴露したりするような、極めて悪質な内容である場合です。このような投稿に対する「いいね」は、加害行為への加担性が高いと判断されやすくなります。

継続的・組織的な嫌がらせの一環である場合

特定の一人の人物を標的にして、複数のユーザーが結託あるいは同調して執拗な攻撃(集団いじめやネットリンチ)を行っているケースです。その輪の中で「いいね」を繰り返し押す行為は、嫌がらせグループの一員として加担しているとみなされる可能性があります。

アカウントの立場や影響力が大きい場合

「いいね」を押したアカウントが、インフルエンサー、マスメディア関係者、あるいは企業や公的組織の公式アカウントである場合です。影響力を持つ者が特定の誹謗中傷投稿に「いいね」をすることは、一般ユーザーよりもはるかに強い「お墨付き」や「推奨」の意味を持ってしまうため、法的責任を問われるハードルが下がります。

5. 企業やビジネスパーソンが「いいね」で受ける実務上のリスク

個人のプライベートなSNS利用であれば、上記の例外に該当することは比較的稀ですが、企業アカウントやビジネス用のアカウントを運用している場合は話が別です。

企業が運営するアカウントや、経営者・担当者のアカウントで不適切な投稿に「いいね」をしてしまった場合、以下のような深刻な実務上のリスクが生じます。

  • 企業イメージの失墜(レピュテーションリスク): 「企業が他人の誹謗中傷に賛同している」「コンプライアンス意識が欠如している」とみなされ、SNS上で炎上する恐れがあります。
  • 不買運動や取引停止: 炎上が拡大すると、消費者からの不買運動や、取引先からの契約見直し、採用活動への悪影響など、実害に直結します。
  • 使用者責任・取締役の責任: 従業員や役員が業務に関連して不適切な「いいね」を行い、それが他人の権利侵害と認定された場合、会社側が使用者責任(民法第715条)に基づく損害賠償請求を受けるリスクもゼロではありません。

そのため、法的な責任追及を受けるかどうかの瀬戸際でなくとも、ビジネス上のリスク管理として「いいね」の取り扱いには細心の注意を払う必要があります。

6. トラブルを回避するための対策と弁護士からのアドバイス

ネット上の誹謗中傷や風評被害の当事者にならないため、また、予期せぬ法的トラブルに巻き込まれないために、日頃から以下の点に留意してSNSを利用しましょう。

  • 内容を精査してからアクションする: 感情的になっている時や、内容の真偽が定かではない投稿に対して、反射的に「いいね」やリポスト(拡散)を行わないようにする。
  • ブックマーク機能を活用する: 「後で読みたい」「保存しておきたい」という目的であれば、「いいね」ではなくXの「ブックマーク」機能を使用する。これにより、他者に誤ったシグナルを送ることを防げます。
  • ビジネスアカウントでは特に慎重に: 企業や組織のアカウントでは、個人的な感情による「いいね」を一切禁止し、公式な見解や完全に安全なコンテンツにのみ限定する運用ルール(ガイドライン)を策定する。

万が一、ご自身が発信した「いいね」や投稿に関して、身に覚えのない損害賠償請求の通知(発信者情報開示請求の意見照会書や示談書の提示など)が届いた場合は、ご自身で安易に連絡や示談をせず、インターネット上の誹謗中傷問題やデジタル空間の法務に詳しい弁護士へ速やかにご相談ください。適切な法的判断のもと、冷静に対応を進めることが最も重要です。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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