【法的根拠と対応】動画の削除は損害の拡大を防ぐ事後措置に過ぎず、すでに発生した名誉毀損やプライバシー侵害による慰謝料の支払義務を免れるものではありません。発信者情報開示請求によって投稿者が特定された段階であれば、弁護士を通じて速やかに損害賠償請求の手続きを進めることが重要です。
Instagram(インスタグラム)やTikTok(ティックトック)などのショート動画プラットフォームやSNSにおいて、名誉毀損やプライバシー侵害、悪質なデマを含む動画を投稿してしまうトラブルが後を絶ちません。被害を受けた方が弁護士を通じて発信者情報開示請求を行い、投稿者の身元が特定された途端、慌てて「反省しているので動画を削除しました」と連絡してくるケースが見受けられます。
投稿者側としては、「動画を消せば許してもらえるのではないか」「損害賠償を免れることができるのではないか」と考えがちですが、法律上の扱いは全く異なります。ここでは、特定された投稿者が動画を削除した後にどのような賠償責任が残るのか、そして被害者が取るべき対応について詳しく解説します。
動画を削除しても過去の「不法行為責任」は消えません
インスタやTikTokで誹謗中傷やプライバシーを侵害する動画を公開した時点で、法律上の不法行為が成立します。後からどれほど反省の色を見せ、急いで動画を削除したとしても、過去に発生した権利侵害の事実が消えるわけではありません。
法律において、損害賠償請求権は「権利侵害が発生した時点」で発生します。したがって、動画の削除は「これ以上の被害の拡大を防ぐ(損害の拡大防止)」という意味では適切な事後措置ですが、すでに受けた精神的苦痛や社会的評価の低下に対する慰謝料の支払義務そのものを免除する免罪符にはならないのです。
動画削除が賠償額に与える影響
投稿者が自発的に動画を削除したという事情は、裁判や示談交渉において「全く考慮されない」わけではありません。
- 被害の拡大を最小限に食い止めようとした姿勢
- これ以上裁判や争いを長引かせないための誠実な対応
これらは、示談交渉の場や裁判所が慰謝料の金額を決定する際に、「情状酌量」の要素としてわずかに考慮される余地はあります。しかし、それはあくまで微々たる減額要素に過ぎず、「動画を消したから賠償金はゼロになる」ということは絶対にあり得ません。
特定までに要した「調査費用」も賠償の対象です
インスタやTikTokに投稿された動画の削除自体は、アプリ内の削除ボタンを押すだけであれば費用はかかりません。しかし、投稿者を特定するまでには、膨大な時間と経済的コストがかかっています。
弁護士を通じてIPアドレスの開示請求を行い、さらに氏名や住所の特定(発信者情報開示命令や訴訟)を行うためには、多くの弁護士費用や裁判費用が発生します。これらの費用は、投稿者の身勝手な不法行為によって引き起こされた損害そのものです。
そのため、投稿者が動画を削除したとしても、被害者は以下のような費用の全額または大部分を請求することができます。
- 弁護士に支払った着手金や報酬金(の一部、または相当額)
- 裁判所の手数料や郵券費用
- プロバイダ等に対する調査費用
- 精神的苦痛に対する慰謝料
「動画を消したのだから、弁護士費用までは払わなくてよいだろう」という主張は法的には通りません。
「拡散された過去」の重みを見逃さない
インスタのリール動画やTikTokのショート動画は、アルゴリズムによって短期間に爆発的に拡散(バズる)する特性を持っています。仮に投稿者が動画を削除したとしても、その間にフォロワーや他のユーザーによって画面録画(スクショ・魚拓)が保存され、別のSNSやまとめサイトに転載されているケースが多々あります。
投稿者自身が「自分のアカウントから動画を消した」だけで、インターネット上のすべての情報が消えるわけではありません。一度広がってしまったデマや誹謗中傷のデジタルタトゥーは残り続けます。したがって、被害者が被った実質的な損害は非常に大きく、高額な慰謝料請求が正当化されるケースが多いのです。
投稿者から「許してほしい」と連絡があった場合の注意点
特定された投稿者から、謝罪文とともに「反省しているので、示談にしてほしい」「分割払いにさせてほしい」あるいは「お金がないので許してほしい」といった連絡が直接、または代理人弁護士を通じて入ることがあります。
この段階で被害者自身が感情的にやり取りしたり、口約束だけで許してしまったりすると、後々トラブルになる危険性があります。
- 直接の連絡は原則として避ける
感情的な対立を生む原因になり得ます。弁護士に窓口を一本化し、冷静に対応するのが安全です。 - 示談書(合意書)を必ず書面で交わす
「今後一切連絡を取らないこと」「追加の誹謗中傷を行わないこと(守秘義務や接触禁止条項)」「違約金の定め」などを明確にした書面を作成します。 - 清算条項を入れる
「本合意書に定めるもののほか、甲および乙の間には何らの債権債務が存在しないことを確認する」という文言を入れることで、後からの追加請求や紛争の再燃を防ぎます。
まとめ
インスタやTikTokで誹謗中傷や悪質な動画を投稿し、特定された後に「反省して動画を消した」としても、それは責任逃れの手段にはなりません。過去の不法行為に対する損害賠償義務は厳然と残っており、慰謝料や特定にかかった弁護士費用を請求する権利は被害者にあります。
夕陽ヶ丘法律事務所では、SNS上の動画による誹謗中傷や風評被害の解決、特定後の損害賠償請求に至るまで、豊富な実績と専門的知見を持っています。「動画は消されたが許せない」「適正な賠償金を受け取りたい」とお悩みの方は、ぜひ一度当事務所の初回相談をご利用ください。あなたの権利を守るため、弁護士が力強くサポートいたします。