独身と偽られたり、「すぐに離婚する」という言葉を信じ込まされたりして既婚男性と交際を続け、心身ともに深い傷を負う方が後を絶ちません。中には、「〇月までに絶対に離婚する」という内容の誓約書や合意書を男性に書かせているケースも見受けられます。
今回は、「離婚の約束を破られた」「誓約書があるのに離婚してくれない」という問題について、法的観点から分かりやすく解説します。
1. 「離婚する」という誓約書の法的効力と限界
まず理解しておかなければならないのは、日本の民法および裁判実務における「離婚契約」の性質です。
離婚の強制はできない
どれほど詳細な誓約書であっても、「〇月までに必ず離婚する」という約束を法的に強制力をもって実現させることはできません。離婚は当事者の自由な意思決定に基づくものであり、裁判所が「誓約書があるから強制的に離婚させなさい」という判決を下すことはないためです。
公序良俗違反となる可能性
また、夫婦の一方が第三者との間で「配偶者と離婚する」と約束する行為自体について、最高裁判所の判例等では、夫婦関係の維持や婚姻の法的安定性を害するものとして、その法的強制力を否定する傾向があります。つまり、「離婚する義務の履行」を直接求めて訴訟を起こしても、裁判所に勝訴することは極めて困難です。
2. それでも誓約書が持つ大きな証拠価値
では、誓約書は何の意味も持たないのでしょうか。決してそうではありません。アプローチを変えることで、金銭的な賠償(慰謝料請求)の強力な武器になります。
貞操権侵害や不法行為の立証
民法709条に基づく不法行為責任を追及する際、誓約書の存在は以下のような重要な事実を証明する証拠となります。
- 相手が自らの意思で「離婚する」と約束し、それを条件あるいは前提として関係を継続させていたこと
- あなたがその言葉を信じるよう巧妙に誘導されていたこと(欺罔行為)
- 結果として、あなたの性的自由や人格的利益(貞操権)が侵害されたこと
独身偽装交際や、不誠実な結婚詐欺的アプローチにおいて、相手が「独身である」「すぐに離婚する」と偽って関係を持った場合、それは法的な不法行為にあたります。誓約書はその事実を裏付ける動かぬ証拠となり得ます。
3. 既婚男性に請求できる損害賠償の項目
「〇月までに離婚する」という約束を反故にされた場合、以下のような損害に対する賠償を請求できる可能性があります。
- 精神的苦痛に対する慰謝料: 騙されて交際させられたこと、期待を裏切られたことに対する精神的損害。
- 弁護士費用等の実費: 法的手段を取らざるを得なかったことに伴う損害。
なお、あなた自身が最初から相手が既婚者であることを知っていた(悪意または重過失があった)場合、相手の配偶者から逆に不貞慰謝料を請求される「ダブルトラブル」に発展するリスクもあります。そのため、ご自身の立場や交際の経緯を正確に整理することが不可欠です。
4. トラブルを防ぎ、適正な解決を図るためのステップ
ご自身で相手に連絡を取り、「誓約書を破ったから金を払え」などと詰め寄ると、かえって話がこじれたり、相手の配偶者に秘密が露見して泥沼化したりする恐れがあります。冷静かつ法的に有効なステップを踏むことが重要です。
証拠の保全
誓約書の原本はもちろんのこと、LINEやメールのやり取り、音声データ、共通の知人の証言など、「離婚する」「すぐ一緒になる」と言われて交際を継続していた客観的証拠をすべて保存しておきましょう。
専門家への相談
法的書類作成や男女トラブルに精通した専門家・弁護士へご相談ください。状況に応じた最適な解決プラン(内容証明郵便の送付、示談交渉、慰謝料請求訴訟など)をご提案いたします。
まとめ
「〇月までに絶対に離婚する」という誓約書を既婚男性に書かせていた場合でも、約束通りに離婚を強制執行することは法的に不可能です。しかし、その誓約書は「離婚をほのめかして関係を継続させられた」という貞操権侵害や不法行為を立証するための極めて強力な証拠となります。誓約書の効力の限界を正しく理解した上で、感情的に詰め寄るのではなく、客観的な証拠を保全しながら法的なアプローチによる慰謝料請求を検討することが、泣き寝入りを防ぐための確実なステップとなります。