「今すぐ離婚する」「妻との離婚慰謝料の話し合いでお金が必要だ」といった言葉を信じ、相手の男性にお金を渡したり、深い関係を持ってしまったりするケースは後を絶ちません。しかし、これらがすべて巧妙な嘘であったと発覚した時、被害を受けた女性が被る精神的・金銭的ショックは計り知れません。
1. 「妻への慰謝料」を口実にする独身偽装の悪質手口
既婚者が独身と偽って交際するだけでも大きな問題ですが、そこにお金にまつわる嘘が絡む場合、手口はさらに悪質化します。
よくある典型的なパターンとしては、以下のようなものがあげられます。
- 「妻と別居中で、離婚の合意書にサインする代わりに高額な慰謝料を一括で支払う必要がある」と語り、一時的な資金援助を求めてくる。
- 「弁護士費用や裁判費用が工面できず、離婚手続きがストップしている」と泣きつき、現金を無心する。
- 「財産分与で口座が凍結されているので、生活費やホテル代を出してほしい」と金銭的負担を日常的に強いる。
これらは単なる恋愛トラブルではなく、相手の善意や結婚への期待に付け込んだ経済的詐欺的要素を含む不法行為と言えます。
2. 法的に追及できる2つの権利
独身偽装と金銭の嘘に直面した場合、被害者は主に2つの法的アプローチから責任を追及することができます。
貞操権侵害に基づく慰謝料請求
最高裁判所の判例等でも認められている通り、婚姻歴や独身であるか否かは、交際や性的関係を結ぶかどうかの判断において極めて重要な要素です。 「妻に慰謝料を払う」「すぐに離婚する」という虚偽の事実で相手を誤認させ、独身者であると信じ込ませて交際・性交渉に及んだ場合、それは個人の性的な自由や人格的利益を侵害する貞操権侵害(民法709条)に該当します。
だまし取られた金銭の返還請求
離婚慰謝料の支払い、弁護士費用、生活費などの名目で相手に渡した金銭は、その目的自体が嘘(詐欺的動機)に基づいて引き出されたものです。 法的には、法律上の原因なく他人の財産によって利益を得たとして、不当利得返還請求権(民法703条・704条)や、消費貸借契約に基づく貸金返還請求権として、全額の返還を求めることが可能です。
3. 被害者が直面する「ダブルトラブル」のリスク
こうした嘘をつく既婚男性と交際していた場合、もう一つ警戒しなければならない重大なリスクがあります。それが、「相手の妻からの不貞慰謝料請求」です。
男性が「妻とは離婚秒読みだ」「家庭は破綻している」と言っていたとしても、法的な婚姻関係が継続している限り、妻側から見れば「夫の不倫相手」とみなされてしまいます。
- 妻から突然、高額な慰謝料請求の内容証明郵便が届く。
- 男性は保身に走り、妻に対して「相手(あなた)から誘ってきた」「独身だと騙されていたとは知らなかった」と責任転嫁する。
このように、独身偽装の被害に遭った上に、妻からの慰謝料請求まで重なるケースをダブルトラブルと呼びます。この状況で泣き寝入りしないためには、男性側の嘘の証拠と、自分が騙されていた客観的な事実を冷静に証明していく必要があります。
4. 証拠の確保と法的対応の重要性
相手に対して慰謝料や金銭の返還を求め、さらに妻からの不当な請求に対抗するためには、何よりも客観的な証拠が不可欠です。
以下のような証拠が手元にあるか確認し、速やかに保存しておきましょう。
- 「妻に慰謝料を払う」「離婚する」といったやり取りが残るLINEやメールの履歴
- 金銭を振り込んだ際の銀行の振込明細、ATMの利用控え、手渡しの場合は領収書やメモ
- 相手が独身と偽っていたことを示すプロフィール(マッチングアプリの画面や名刺など)
- 音声データ(金銭を要求された際の会話や、独身だと偽っていた自白の録音)
ご自身ひとりで相手やその配偶者と交渉しようとすると、精神的な負担が大きいだけでなく、相手に言質を取られて不利な状況に追い込まれる危険性があります。「妻への慰謝料」という言葉を利用した悪質な独身偽装や金銭トラブルにお悩みの方は、早期に法律の専門家へ相談し、適切な法的措置を検討することをおすすめします。