独身と偽って交際・性交渉を繰り返した相手に対して貞操権侵害に基づく損害賠償を請求しようとした矢先、相手が音信不通になり、さらには「夜逃げ」のように引っ越してしまうケースは少なくありません。
内容証明郵便を送ろうにも、宛先の住所にすでに住んでおらず返送されてしまうと、法的な手続きを進める上で大きな壁となります。
この記事では、相手が引っ越しや夜逃げによって行方不明になった際、住民票の除票や戸籍の附票を活用して現住所を特定する方法について詳しく解説します。
独身偽装のトラブルと「行方不明」の壁
既婚者であることを隠して独身と偽り、深い関係を結ぶ行為は、性的な自己決定権を侵害する不法行為(民法709条)に該当します。これがいわゆる貞操権侵害や独身偽装交際の問題です。
こうした問題が発覚し、被害者側が弁護士を通じて慰謝料請求や話し合いの場を設けようとすると、加害者は責任逃れのために以下のような行動に出ることがあります。
- 突然LINEや電話番号を変えて連絡を絶つ
- 自宅を引き払い、どこへ行ったか分からないようにする
- 職場すらも退職して行方をくらます
このように相手が姿を消してしまうと、裁判を起こすための訴状の送達先(宛先)が分からなくなり、泣き寝入りせざるを得ないと絶望してしまう方がいらっしゃいます。しかし、法律上、正当な理由がある債権者や被害者は、公的な書類を用いて相手の居所を突き止める法的な手段が用意されています。
「住民票の除票」とは何か?
相手の新しい住所を特定する上で最も強力な手がかりとなるのが、住民票の除票です。
住民票は、市区町村に登録されている居住者の記録ですが、引っ越し(転出)をしたり死亡したりしてその自治体の住民でなくなった場合、その住民票は「除票」という保管書類になります。
住民票の除票には、以下の重要な情報が記載されています。
- これまでの住所
- 転出先の住所(新しい住所地)
- 転出した年月日
つまり、相手が以前住んでいたアパートやマンションの管轄役所に対して「住民票の除票」を請求することで、「どこへ引っ越したのか(転居先の市区町村および新しい住所)」を判明させることが可能になります。
ただし、住民票の除票の保存期間は原則として消除された日から5年間と法律で定められています。あまりに時間が経過しすぎるとデータが破棄されてしまうため、相手が引っ越したことが分かったら、速やかに動くことが重要です。
弁護士職権請求による確実な住所特定
「それなら自分で前の役所に行って住民票の除票を取ればいいのでは?」と思われるかもしれませんが、プライバシー保護の観点から、第三者が他人の住民票を勝手に取得することは原則として禁止されています。
被害者ご本人が単独で相手の除票を取得しようとしても、利害関係の証明や正当性の判断が厳格に審査され、役所から開示を拒否されるケースが多々あります。
ここで絶大な効力を発揮するのが、弁護士法第23条の2に基づく「弁護士職権請求」です。
弁護士は、受任している事件の調査のために必要であると認められる場合、所属する弁護士会を通じて関係機関に照会を行う権限を持っています。
- 弁護士が代理人として介入することで、法的な正当性が明確になります。
- 旧住所地の役所に対して、住民票の除票や戸籍の附票の開示請求をスムーズに行うことができます。
- 相手が住民票を異動させずに夜逃げしている場合でも、戸籍の附票(本籍地における住所の履歴)を辿ることで、住民票の動きを追跡する道が開けます。
個人では行き詰まってしまう調査であっても、法律専門職の権限を活用すれば、高い確率で相手の居所を絞り込むことができます。
住民票追跡から法的責任追及までの流れ
相手の新しい住所が判明した後は、速やかに以下のステップへ移行します。
- 内容証明郵便の送達 特定された新住所宛てに、弁護士名義で慰謝料請求書(内容証明郵便)を発送します。これにより、相手に対して法的責任を免れることはできないという強いプレッシャーを与えることができます。
- 示談交渉の実施 多くの場合、住所を特定されたショックや裁判を回避したいという心理から、代理人弁護士を通じて示談交渉のテーブルにつくことになります。
- 法的措置(訴訟・支払督促など)の検討 相手が交渉に応じない、あるいは不誠実な対応を続ける場合は、判明した現住所を管轄する裁判所に損害賠償請求訴訟を提起します。裁判所からの訴状は新住所へ特別送達されるため、相手が受け取らざるを得ない状況を作り出すことができます。
住民票の追跡と法的アプローチについてのまとめ
独身偽装交際や貞操権侵害の被害に遭った上、相手が夜逃げや突然の引っ越しによって音信不通になると、泣き寝入りしたくなる心理が働くのは無理もありません。しかし、連絡が取れなくなった相手であっても、住民票の除票や戸籍の附票を用いた弁護士の職権請求を活用すれば、現住所を特定できる可能性は十分にあります。
住所の特定は、内容証明郵便の送達や民事訴訟提起の前提となる極めて重要なプロセスです。「相手の行方が分からないから」と諦めてしまう前に、まずは法的手段に精通した弁護士へ相談し、確実な居所特定と慰謝料請求への第一歩を踏み出してください。