示談書の必須条項②:「口外禁止特約(守秘義務・SNS投稿禁止)

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、貞操権侵害(独身偽装被害)における不法行為責任(民法709条)、裁判例の慰謝料算定基準、および相手の妻からの不貞請求防御実務に基づきわかりやすく解説しています。

Q 独身だと騙されて交際していた相手と示談する際、ネットやSNSに今回の件を書き込まないよう約束させるにはどうすればよいですか?
A 示談書の中に「口外禁止特約(守秘義務)」および「SNS投稿等の禁止条項」を明確に盛り込むことが不可欠です。違反した際の違約金についてもあわせて定めておくことで、将来的なトラブルやプライバシーの暴露を効果的に防ぐことができます。

独身偽装交際(貞操権侵害)や不倫・不貞をめぐるトラブルにおいて、金銭的な条件(慰謝料の金額や支払い方法)と同じくらい重要なのが、将来の紛争を完全に終わらせるための「条項」の設計です。

前回の「清算条項(解決条項)」に続き、今回は示談書の必須条項の2つ目である「口外禁止特約(守秘義務・SNS投稿禁止)」について詳しく解説します。

1. なぜ「口外禁止特約」が示談書に絶対必要なのか

独身偽装や不貞問題が発覚した当事者は、強い精神的ショックや怒り、屈辱感を抱えていることが少なくありません。「世間に真実をバラしてやる」「会社の同僚や友人、家族に知らせて社会的信用を失墜させてやる」といった感情を抱くこと自体は、心情として理解できる側面もあります。

しかし、感情のままに第三者へ事実を暴露したり、SNSやネット掲示板に書き込んだりしてしまうと、新たな法的トラブル(名誉毀損罪、侮辱罪、プライバシー権侵害などによる損害賠償請求)に発展するリスクが生じます。

また、既婚者側にとっても、自身の配偶者や職場、周囲の人々に知られたくないという強いプライバシー上の利益があります。

そのため、示談書において「お互いのプライバシーを守り、今回の紛争に関する情報を一切外部に漏らさないこと」を約束させる口外禁止特約が不可欠となるのです。

2. 口外禁止特約の具体的な内容と範囲

実務上、示談書に記載する口外禁止特約(守秘義務)では、主に以下の事項を網羅します。

  • 対象となる情報の範囲(本件紛争の存在、経緯、合意内容、当事者の個人情報など一切)
  • 情報の開示を禁止する相手の範囲(友人、知人、親族、勤務先、SNSやインターネット上の不特定多数のユーザー)
  • 禁止される行為の具体例(口頭での伝達、SNSへの投稿、写真・メッセージのアップロード、ネット掲示板への書き込みなど)

特に現代においては、X(旧Twitter)やInstagramなどのSNS、匿名掲示板、あるいはマッチングアプリのコミュニティ等への書き込みトラブルが後を絶ちません。「特定の個人名を挙げていなければバレないだろう」という安易な考えで投稿したとしても、状況証拠から特定され、大きな法的責任を問われるケースがあります。

3. 実効性を高めるための「違約金条項」の重要性

「口外しない」と口約束させたり、単に条文として「口外してはならない」と書くだけでは、実効性が不十分な場合があります。人間関係のこじれや感情の昂ぶりから、約束を破って情報を漏らしてしまうケースを完全に防ぐためには、「違反した場合のペナルティ(違約金)」をあらかじめ設定しておくことが極めて有効です。

示談書における違約金条項のポイントは以下の通りです。

  • 違約金の金額設定:違反行為1回につき、あるいは発覚した場合にいくらの違約金を支払うかを具体的に明記します(例:「金〇〇万円を直ちに支払うものとする」)。
  • 損害賠償との関係:違約金条項を定めることで、実際に発生した損害(精神的苦痛や社会的信用の失墜など)の証明が困難な場合でも、一定の金銭的ペナルティをスムーズに請求できるようになります。
  • 抑止力の向上:「これを破れば多額の違約金を払うことになる」という心理的プレッシャーを与えることで、SNSへの投稿や第三者への暴露を強力に抑止します。

4. 貞操権侵害・不貞トラブルの示談における注意点

独身偽装交際の被害者(貞操権侵害を主張する側)にとっても、不貞関係にあった既婚者側にとっても、この口外禁止特約は双方を保護する盾となります。

  • 被害者側のメリット:合意した慰謝料や条件が確実に履行されるまでの間、余計な場外乱闘や相手からの逆恨み・報復を防ぎ、平穏な日常生活を取り戻すことに集中できます。
  • 既婚者側のメリット:自身の配偶者や職場に関係が露見するリスクを最小限に抑え、これ以上プライバシーが侵害されるのを防ぐことができます。

このように、口外禁止特約は片方の利益だけでなく、双方にとって「一刻も早くこの問題から解放されるため」の必須の防衛策なのです。

5. まとめ

インターネット上のひな形をそのままコピーして示談書を作成した場合、口外禁止の範囲が曖昧であったり、違約金条項の法的有効性が不十分であったりするケースが見受けられます。せっかく交わした示談書も、文言の不備によっていざという時に効力を発揮しなければ意味がありません。

独身偽装交際や不貞問題をめぐるトラブルにおいて、将来の二次被害やSNSでの拡散リスクを完全に断ち切るためには、法的に有効な要件を満たした口外禁止特約と違約金条項を正確に設計することが極めて重要です。示談書の作成や内容の点検に不安がある場合は、専門的な知見を活用して安全な解決を目指すことをお勧めします。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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