独身と偽って交際したトラブル(貞操権侵害)や、不貞行為に関する慰謝料請求において、当事者間で示談書を交わすケースは少なくありません。しかし、口頭や簡単な約束だけでは、「また連絡が来るのではないか」「周囲に秘密をばらされるのではないか」という不安が残ります。
今回は、示談の実効性を担保するために極めて重要な「誓約違反時の違約金特約」について、法的観点と実務上のポイントを詳しく解説します。
なぜ「違約金特約」を示談書に盛り込む必要があるのか
不貞問題や独身偽装の解決において結ばれる示談書では、主に以下のような「不作為義務(何かをしない義務)」が設定されます。
- 今後一切の接触(連絡、SNSの閲覧・送信、接近など)の禁止
- 本件に関する秘密保持(口外禁止)
しかし、これらの義務を定めただけでは、万が一相手が約束を破った場合、被害者側は「改めて裁判を起こし、実際に被った損害額を立証・請求する」という大きな負担を負わなければなりません。損害賠償請求訴訟は時間も費用も精神的負担も伴うため、実質的に泣き寝入りせざるを得ない状況に追い込まれるおそれがあります。
そこであらかじめ違約金特約を設定しておくことにより、違反行為が発覚した時点で、損害の発生やその額を証明する手間を省き、あらかじめ合意したペナルティ金額を即座に請求できるようになります。
違約金特約の具体的な設定相場と記載内容
違約金の金額については、契約自由の原則により当事者間で自由に決めることができますが、実務上は1回につき100万円から300万円程度に設定されるケースが一般的です。
違約金特約の主な項目例
- 接触禁止条項の違反: 直接会う、電話、メール、LINE、SNS等による連絡のほか、勤務先や自宅周辺への接近も対象とします。
- 口外禁止条項の違反: 本件に関する事実やプライバシーを第三者(SNS上での不特定多数への暴露を含む)に漏洩した場合に適用します。
- 請求の仕組み: 「何人の違反行為であっても、1回発見されるごとに金〇〇万円を違約金として直ちに支払うものとする」といった明確な文言を記載します。
あまりにも高額すぎる違約金(例:1回につき1億円など)は、公序良俗(民法第90条)に反して無効と判断されるリスクがあるため、裁判実務の相場を踏まえた現実的な金額設定が不可欠です。
強制執行受諾文言付き公正証書の活用
違約金特約の効果を最大限に高めるためには、単に示談書(私文書)を交わすだけでなく、公正証書の形で作成することが強く推奨されます。
公正証書の中に「金銭債務の不履行があった場合には、直ちに強制執行に服する」という旨の強制執行受諾文言を記載しておくことで、万が一相手が違約金を支払わない場合であっても、裁判の判決を待たずに、即座に預貯金や給与の差し押さえといった強制執行の手続きに移ることができます。
これにより、相手に対して「約束を破れば確実に財産的なペナルティを受ける」という強烈な抑止力を与えることが可能になります。
誓約違反時の違約金特約を確実に機能させるために
示談書の作成や違約金特約の設計は、法的な有効性や将来の紛争予防を考慮して慎重に行う必要があります。自己流で作成した不十分な示談書では、いざというときに法的効力を発揮できないおそれがあります。
接触禁止や口外禁止の約束を形骸化させず、実効性のある形で示談をまとめるためには、法的な観点を踏まえた正確な書面作成が不可欠です。不安がある場合は、専門的な知見を活用しながら慎重に手続きを進めることを検討してください。