示談書の必須条項④:「写真・動画データの完全消去・破棄の誓約

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、貞操権侵害(独身偽装被害)における不法行為責任(民法709条)、裁判例の慰謝料算定基準、および相手の妻からの不貞請求防御実務に基づきわかりやすく解説しています。

Q 独身だと偽られて交際していた相手と別れることになりましたが、交際中に撮影された写真やプライベートな動画、性的データが手元に残されており、ネットやSNSに流出させられないかと非常に不安です。示談書でどのように対策すべきでしょうか?
A 示談書において「写真・動画データの完全消去・破棄の誓約」を法的義務として明記し、違反した場合の違約金条項を設定することが極めて有効です。単なる口約束ではなく、クラウド上のデータも含めた徹底的な消去を約束させ、将来の流出リスクを法的に封じ込める必要があります。

独身を偽った既婚者との交際トラブルや、不貞関係の解消における示談交渉において、金銭的解決(慰謝料の支払い)と並んで重要なのが「プライベートデータの完全消去」です。

特に、交際中のデート写真やプライベートな動画、いわゆる性的データ(セクシャルな画像)が相手方の端末やクラウドに残されている場合、関係解消を契機とした報復や、誤操作・ハッキングによる第三者への流出という「二次被害(ダブルトラブル)」の危険性が常に付きまといます。

本記事では、不貞トラブルや独身偽装問題における示談交渉の実務に基づき、示談書に盛り込むべき「写真・動画データの完全消去・破棄の誓約」の重要性と、実効性を持たせるための法的な書き方について詳しく解説します。

1. 独身偽装交際・不貞関係におけるデータ流出リスクの現実

独身と偽って交際していた相手(あるいは既婚者との不貞関係にあった相手)との関係が破綻したとき、相手が逆恨みや執着から、次のような行動に出るケースは決して少なくありません。

  • 交際中に撮影した写真や動画をSNSやインターネット上に投稿・公開する
  • 相手の配偶者や職場、親族に対してプライベートなデータを送りつける
  • 「ネットにばら撒かれたくなければ金を払え」と新たな金銭を要求してくる(恐喝行為)

このような被害を未然に防ぐため、示談締結のタイミングで、保有している全てのデータの完全消去を約束させることが不可欠となります。

2. 示談書に盛り込むべき「データ破棄条項」の必須要素

示談書にただ「写真や動画を消去すること」と記載するだけでは、実効性が不十分です。法的拘束力を高め、相手に心理的なプレッシャーを与えるためには、以下の要素を網羅した詳細な条文を作成する必要があります。

対象データの範囲を明確にする

スマートフォン、デジタルカメラ、PCなどの物理的端末内に保存されているデータだけでなく、クラウドストレージ、外付けハードディスク、バックアップデータなど、あらゆる媒体に存在するデータが対象であることを明確にします。

第三者への提供・開示の禁止

手元から消去するだけでなく、すでに第三者に送信・開示していないこと、および将来にわたって他者に開示・漏洩・提供しないことを誓約させます。

違反時の違約金(ペナルティ)の設定

口頭や書面での誓約だけでは、悪質な相手の場合にデータを保持し続ける可能性があります。そのため、「万が一、データを保持していたり、流出させたりした場合には、違約金として金〇〇万円を直ちに支払う」という違約金条項をセットで規定することが実務上非常に重要です。

3. 具体的な示談書条文のサンプル例

以下は、示談書における「データ破棄・流出防止条項」の一般的な文例です。実際の事案に合わせて適切に調整する必要があります。

(データ等の消去および非公開の合意) 第〇条 甲(被害者)および乙(相手方)は、本合意成立の日をもって、これまでの交際期間中に撮影、記録、作成された一切の写真、動画、音声、メッセージ履歴、その他のプライベートデータ(電磁的記録を含む)について、各自の保有するすべての端末(スマートフォン、PC、クラウドストレージ等)から完全かつ恒久的に消去・破棄するものとする。 2. 乙は、前項のデータを第三者に閲覧、送信、開示、公表等しないものとし、将来にわたっていかなる目的であってもこれを使用しないことを確約する。 3. 乙が本条の規定に違反し、データを保有し続けた場合、またはこれを外部に流出・開示させた場合には、乙は甲に対し、違約金として金〇〇万円を直ちに支払うものとする。

4. 証拠の保全と安全な交渉のための注意点

データを消去させる前に、相手が過去にどのような脅迫や嫌がらせを行ったか、あるいはどのようなデータを保有しているかの証拠(メッセージのスクリーンショット等)は、必ず事前に保全しておかなければなりません。

証拠を確保しないまま相手を刺激すると、かえってデータの隠滅や迅速な流出を誘発するリスクがあります。そのため、相手との交渉を優位に進め、確実なデータ破棄を履行させるためには、法的な専門知識に基づく慎重なアプローチが求められます。示談書の作成や交渉に不安がある場合は、専門家への相談を検討すると安心です。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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