独身と偽って交際を重ねられた末の不貞慰謝料請求や、泥沼化したトラブルにおいて、いざ示談が成立した後の「お金のやり取り」は非常に重要です。
示談書における「振込手数料」を見落としてはいけない理由
不貞慰謝料の請求や、独身偽装による貞操権侵害の示談交渉では、一括払いが難しいケースにおいて「分割払い」の合意を結ぶことが多々あります。毎月数万円ずつ長期間にわたって支払われる場合、細かい条件の不備が後々の大きなストレスに繋がりかねません。
特に「振込手数料」の負担を曖昧にしたまま示談書を締結してしまうと、以下のような問題が発生します。
1. 毎月の微小な未払い・差し引きの発生
例えば、毎月の示談金が3万円と取り決めたにもかかわらず、加害者が勝手に振込手数料(数百円)を差し引いて「29,750円」だけを振り込んでくるケースがあります。これが数ヶ月、数年に及ぶと、総額で大きな未払い金が生じることになります。
2. 債務不履行(期限の利益喪失)をめぐる争い
「約束の金額を全額支払っていない」として、債権者側が期限の利益喪失(分割払いの権利を失わせ、残額を一括請求すること)を主張しようとしても、示談書に振込手数料の負担者が明記されていないと、法的な主張が弱くなってしまうリスクがあります。
民法の原則と示談書への明記の必要性
法律論として、民法485条では「弁済の費用についての負担」について以下のように定めています。
- 弁済の費用について特別の意思表示がないときは、弁済の費用は、債務者の負担とする。
つまり、原則として振込手数料などの送金コストは債務者(お金を支払う加害者)の負担です。しかし、裁判手続を経ない示談交渉の場においては、当事者間の認識のズレや「言った・言わない」のトラブルをあらかじめ防止するため、あえて書面に明文化しておくことが実務上の鉄則となります。
示談書への具体的な条項文例
示談書を作成・リーガルチェックする際には、以下のような明確な条項を挿入することが一般的です。
振込手数料負担条項の文例
「加害者は、本条に基づく金員を支払うにあたり、指定口座への送金にかかる一切の振込手数料を負担するものとする。」
また、分割払いの場合は、以下のように組み合わせることで、より実効性を高めることができます。
「加害者は、被害者に対し、第1項の慰謝料として金〇〇万円を支払い、これを以下の方法により分割して支払う。
- 第1回目支払期日:2026年〇月〇日までに金〇〇万円
- 第2回目以降:2026年〇月〇日を初回とし、以降毎月末日までに金〇万円ずつ、別記指定口座に振り込んで支払う(以下略) 前項の金員を振り込む際の振込手数料は、すべて加害者の負担とする。」
このように明記することで、加害者側が「手数料分を引いて支払う」という逃げ道を完全に断つことができます。
分割払いや示談書作成における注意点
独身偽装交際や不貞慰謝料の示談においては、振込手数料のほかにも細心の注意を払うべきポイントがあります。
口座情報の開示とプライバシー
被害者側が自身のメイン口座を知られたくない場合、ネット銀行の口座を指定したり、一時的な受取口座を活用したりする工夫も有効です。
公正証書の活用
相手の資力に不安がある場合や、将来的な不払いを確実に防止したい場合は、単なる私家版の示談書ではなく、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成することをお勧めします。公正証書の中でも、金銭債務の履行方法や手数料の負担について明確に定めておくことで、万が一の不払いの際に裁判を起こすことなく直ちに差し押さえ等の強制執行に移ることができます。
まとめ:細部まで隙のない示談書作成がトラブルを防ぐ
示談金・分割金の送金における「振込手数料」のような細かい条件こそ、示談書のクオリティを左右する重要なポイントです。インターネット上のテンプレートをそのまま流用してしまうと、こうした実務的な落とし穴を見落とし、後々泣き寝入りする結果になりかねません。万全な形で示談を成立させるためには、法律上の規定や将来の回収リスクを見据えた正確な条項設計が不可欠です。