公正証書の「正本・謄本」の厳重保管と執行文付与の手続き

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、貞操権侵害(独身偽装被害)における不法行為責任(民法709条)、裁判例の慰謝料算定基準、および相手の妻からの不貞請求防御実務に基づきわかりやすく解説しています。

Q 公正証書を作れば、すぐに相手の給与を差し押さえることができますか?
A 公正証書があるだけでは、すぐに強制執行はできません。支払いが滞った場合、公証役場で「執行文付与」や「送達証明書」の取得手続きを行い、これらを債務名義の正本に添えて裁判所に強制執行を申し立てる必要があります。

1. 公正証書の「正本」と「謄本」の基本と厳重保管

公証役場で公正証書を作成すると、原則として債権者(お金を受け取る側)には「正本」または「謄本」が交付されます。

正本と謄本の違い

  • 正本(せいほん): 公正証書の原本と同じ効力を持ち、強制執行を行うために必要不可欠な書類です。
  • 謄本(とうほん): 本文の内容を証明する写しですが、これ自体で強制執行を申し立てることは原則としてできません。

正本の厳重保管が絶対に必要な理由

強制執行認諾文言付き公正証書の「正本」は、裁判所での強制執行手続きにおいて、いわば「金券」のような絶対的な効力を持ちます。

  • 紛失した場合、簡単に再交付を受けることはできず、公証役場や相手方との間で複雑な再発行手続きが必要になります。
  • 悪意ある債務者に正本を奪われたり、破損されたりすると、権利の実現が著しく困難になります。

そのため、正本は自宅の目立つ場所ではなく、貸金庫や鍵付きの安全な場所で厳重に保管してください。

2. 慰謝料の未払いが発生したときの手続きの流れ

独身偽装交際や不貞問題の慰謝料について、相手方が約束通りに支払いを怠った場合、以下のステップで強制執行の準備を進めます。

手続きの流れ

  1. 支払催告・催告書の送付
    • 期限に遅れた場合、まずは弁護士名義などで催告書を送り、任意の支払いを促します。
  2. 公証役場への出頭・申請
    • 任意の支払いが期待できない場合、公正証書を作成した公証役場へ赴き、執行文付与および送達証明書の交付申請を行います。
  3. 裁判所への強制執行(差し押さえ)申立て
    • 執行文が付与された正本、送達証明書、その他の必要書類を揃えて、相手方の勤務先や預貯金口座を管轄する地方裁判所に強制執行を申し立てます。

3. 強制執行の必須要件:「執行文付与」とは

「執行文(しっこうぶん)」とは、債務名義(この場合は公正証書)に基づいて強制執行を実施することを公的に証明する文言のことです。

なぜ執行文が必要なのか?

公正証書に強制執行認諾文言が記載されていても、「本当に相手が支払いを怠ったのか」を公証人が確認した上でなければ、裁判所は強制執行をスタートさせることができません。

  • 執行文付与の申請先: 原則として、その公正証書を作成・保管している公証役場です。
  • 必要書類: 公正証書の正本、申請人の本人確認書類、代理人が行く場合は委任状などが必要です。

4. もう一つの必須書類:「送達証明書」の取得

執行文の付与と並んで強制執行に不可欠なのが「送達証明書(そたつしょうめいしょ)」です。

送達証明書とは

作成された公正証書が、確実に相手方(債務者)に届いた(送達された)ことを証明する書類です。

  • 法律上、公正証書の内容は、相手に正式に届いていることが客観的に証明されなければ、それを根拠に財産を差し押さえることはできません。
  • 公正証書作成時に同時に送達手続きを済ませている場合もありますが、後から追加で証明書の交付申請が必要になるケースも多いため、公証役場からの指示を仰ぎましょう。

まとめ:公正証書の効力を確実に発揮させるために

公正証書(強制執行認諾文言付き)は、裁判を経ずに強制執行を行える強力な法的ツールですが、それは「正本が手元にあり、適正な管理と適切な執行手続きを踏んでいること」が大前提となります。

正本の紛失リスクに備えた厳重な保管を徹底することはもちろんのこと、実際に支払いが滞った際には、慌てずに公証役場での「執行文付与」および「送達証明書」の取得手続きを進めてください。手続きに不安がある場合や、相手が連絡を無視して財産隠しを図る兆候がある場合は、速やかに法的専門家へ相談し、確実な債権回収を目指すことが重要です。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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