婚活パーティー運営会社に対する「既婚者情報の照会」と弁護士照会

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、貞操権侵害(独身偽装被害)における不法行為責任(民法709条)、裁判例の慰謝料算定基準、および相手の妻からの不貞請求防御実務に基づきわかりやすく解説しています。

Q 独身と偽って婚活パーティーで知り合った相手に騙されていたことが発覚しました。相手が本名や連絡先を隠している場合、運営会社に対して身分証データや電話番号を開示してもらうことは可能ですか?
A 個人情報保護法の観点から、運営会社が個人の任意の問い合わせに対して直接情報を開示することは原則としてありません。しかし、弁護士法第23条の2に基づく「弁護士会照会(弁護士会照会制度)」等を用いることで、法的な正当理由に基づいて事業者から登録情報や身分証データの回答を得られる可能性があります。

婚活パーティーやマッチングアプリなどのプラットフォームで出会った相手が、実は既婚者であったというトラブルが後を絶ちません。独身と偽って交際や性交渉を行う行為は、民法上の貞操権侵害(不法行為)にあたり、慰謝料請求の対象となります。

しかし、相手が偽名を使っていたり、連絡先をブロックして音信不通になったりした場合、まずは「相手の正確な身元(氏名・住所)」を特定しなければ法的責任を追及することができません。

1. 独身偽装交際における「身元特定」の壁

婚活パーティーやマッチングサービスは、本来「独身証明書」や厳格な身分証明書の提出を義務付けているケースが多いですが、一部の簡易的なイベントや悪質な偽装工作を行う者によって、既婚者が独身と身分を偽って参加している実態があります。

被害に遭った方が慰謝料請求訴訟を提起したり、内容証明郵便を送付したりするためには、相手の以下の情報が必要不可欠です。

  • 正式な氏名(戸籍上の氏名)
  • 現住所(送達先)
  • 連絡先(電話番号・メールアドレス等)

相手がこれらを偽っていた場合、個人の力で特定するのは極めて困難です。ここで重要となるのが、運営会社が保持している会員登録時の身分証データやアクセスログです。

2. 運営会社(IBJ等の事業者)に対する開示のハードル

婚活パーティーの運営会社や大手結婚相談所ネットワーク(IBJ等)は、プライバシーマークや個人情報保護法を遵守しているため、利用者の個人情報を厳重に管理しています。

プライバシー保護と任意開示の限界

被害者本人や警察(民事不介入の原則により動けないことが多い)が、運営会社に対して「あの参加者の個人情報を教えてほしい」と頼んでも、個人情報保護法第27条の例外事由(本人の同意や法令に基づく場合など)に該当しない限り、運営会社が任意で個人情報を教えることはありません。情報漏洩リスクやプライバシー侵害の観点から、これは事業者のコンプライアンス上当然の対応と言えます。

そのため、法的な権限を持った正式な手続きを経る必要があります。

3. 弁護士照会(弁護士法23条照会)の活用

弁護士は、受任している事件の調査のために必要があるときは、所属する弁護士会を通じて、官公庁や企業、団体に対して必要な事項の報告を求めることができます。これが弁護士会照会制度(弁護士法第23条の2)です。

弁護士会照会で開示が期待できる情報

貞操権侵害に対する損害賠償請求訴訟の準備や、法的督促の前提として、運営会社に対して以下のような情報の照会を行います。

  • 該当するパーティーの参加記録
  • 登録時に提出された身分証明書(運転免許証やマイナンバーカード等)の写し、または記載情報の確認
  • 登録された連絡先電話番号およびメールアドレス

開示が認められるための要件

弁護士会照会を行えば無条件で情報が得られるわけではありません。以下の要件を満たしていることが審査されます。

  • 受任事件の特定性: 実際に弁護士が依頼を受けて代理人として活動していること。
  • 必要性と相当性: 不貞行為や貞操権侵害に基づく損害賠償請求を行うために、なぜその運営会社が持つ情報が不可欠であるのかが論理的に説明できること。

運営会社や弁護士会による審査の結果、不法行為の被害救済という公益性と必要性が認められた場合、事業者から回答が得られるケースがあります。

4. 証拠保全と時効についての留意点

弁護士会照会やその後の法的手続きをスムーズに進めるためには、手元にある証拠の保全が極めて重要です。

確保すべき証拠の例

  • 婚活パーティーの参加申し込み完了メール、予約画面のスクリーンショット
  • 当時のやり取りが残るメッセージアプリの履歴(相手のID、アイコン、発言内容)
  • 既婚者であることを示す証拠(戸籍謄本、配偶者からの連絡、自白の音声やメッセージ)
  • 支払いに使用したクレジットカードの明細(運営会社名や決済名義が記載されているもの)

損害賠償請求の消滅時効

民法上の不法行為による損害賠償請求権は、被害者および加害者(既婚者であること、および騙されていたこと)を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法第724条)。また、不法行為の時から20年が経過した場合も同様です。

時間が経過するほど、運営会社側のデータ保存期間(法令や社内規定に基づく保存期間)を過ぎてしまい、データが消去されてしまうリスクが高まります。身分偽装が発覚した場合は、速やかに専門家へ相談することをお勧めします。

5. まとめ

婚活パーティーで独身を偽る悪質な行為は、多大な精神的苦痛を伴う貞操権侵害であり、法的な損害賠償責任を追及することが可能です。相手が連絡先を絶って音信不通であったり、偽名を用いていたりする場合であっても、弁護士を通じた法的手続きを活用することで、運営会社が保持する身分証データや連絡先情報の開示に向けた道筋を開くことができます。

データやログの保存期間には限りがあり、時効の制限も存在するため、独身偽装の被害に気づいた際は迅速に証拠を保全し、法的対応を検討することが重要です。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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