「自分は離婚している」「子どもは元妻が引き取って自分は一人で暮らしている」と言われ、それを信じて交際を始めたものの、後になってそれが真っ赤な嘘であり、実際は妻子と円満に同居する現役の既婚者だった――。
このようなケースは、単なる不倫関係にとどまらず、騙された側が被る精神的・肉体的被害が非常に大きい「独身偽装・貞操権侵害」の問題です。さらに、相手の配偶者から逆に不貞慰謝料を請求される「ダブルトラブル」に発展するケースも少なくありません。
本記事では、家族関係を巧みに偽る手口の悪質性と、裁判実務における法的評価、そして被害を受けた際に取るべき具体的な法的手続きについて詳しく解説します。
1. 「子どもは元妻が引き取った」という嘘が孕む悪質性
既婚男性が不倫や浮気を隠す際、「バツイチ」を装うことは古典的な手口ですが、そこに「子どもは元妻が引き取っている」という嘘を重ねるケースには、特有の卑劣さがあります。
独身・フリーであると信じ込ませる心理的誘導
男性は、「子どもを引き取っていない=自分には扶養義務や日常的な育児の負担がなく、時間的・経済的にも自由である」と相手に思い込ませます。これにより、女性側に「これなら交際してもトラブルにならない」「将来のパートナーとして考えられる」という安心感を与え、警戒心を解かせるのです。
実際は「本宅で家族と同居」している現実
言葉巧みに「別居している」「一人暮らし」と装いながら、実際には週末や夜間は自宅に戻り、妻や子どもと何食わぬ顔で生活を共にする。この二重生活(ダブルライフ)は、騙された側にとって、交際期間のすべてを否定されるほどの強烈な精神的ショックを与えます。
2. 裁判実務における家族関係偽装の評価と「貞操権侵害」
法律上、「誰と恋愛し、誰と肉体関係を持つか」は個人の自由(性的自由)であり、その選択を誤らせるような嘘をついて性交渉を強要した場合は、貞操権侵害としての不法行為が成立します。
民法709条に基づく損害賠償請求
裁判実務において、独身であると偽ったこと自体に加え、以下のような事情が重なると、違法性の程度が非常に高いと評価されます。
- 積極的に偽りの離婚証明や架空の一人暮らしの状況を見せたこと
- 「子どもとは別居している」と嘘をついて同居生活や結婚の期待を持たせたこと
- 長期間にわたって欺瞞(ぎまん)を続け、肉体関係を継続させたこと
このような悪質な偽装工作が行われていた場合、被害者は加害男性に対して、精神的苦痛に対する慰謝料を請求することが可能です。
3. 既婚者と知らずに交際した人が直面する「ダブルトラブル」
独身偽装交際の最大の恐怖は、被害者であるはずの自分が、相手の妻(配偶者)から突然、不貞慰謝料を請求されるリスク(ダブルトラブル)に直面することです。
配偶者からの請求に対する「過失の有無」
配偶者は「夫と不倫した女性」としてあなたに慰謝料を請求してくることがあります。この時、あなたが「本当に独身だと信じており、信じるに足りるだけの相当な理由(過失がないこと)」を証明できれば、配偶者からの慰謝料請求を拒絶できる可能性があります。
しかし、「子どもは元妻が引き取っている」という言葉を鵜呑みにしてしまい、十分な確認(戸籍謄本の確認や自宅への立ち入りなど)を怠っていたとみなされると、「注意義務違反(過失あり)」と判断され、配偶者に対して一定の慰謝料を支払わざるを得ないケースもゼロではありません。
加害男性への「求償権」の行使
もし配偶者に対して慰謝料を支払うことになってしまった場合、あるいは示談金を支払った場合、あなたは自分を騙してこのトラブルに巻き込んだ元凶である既婚男性に対して、支払った金額の全額または一部を「求償権(損害賠償請求)」として請求することができます。
4. 悪質な偽装交際に直面したときにとるべきアクション
もし、交際相手が既婚者であり、家族関係や「子どもとの別居」について嘘をついていたことが発覚した場合は、冷静かつ迅速に対応する必要があります。
証拠の確保
男性が独身であると偽っていたことの証拠(メッセージアプリのやり取り、SNSの投稿、プロフィール、誓約や発言の録音など)をしっかりと保存してください。将来の慰謝料請求や、配偶者との交渉であなた自身の身を守るための決定的な盾となります。
専門家への相談
独身偽装交際の問題は、法的な権利主張(貞操権侵害の慰謝料請求)と、配偶者からの不当な請求への防御(ダブルトラブル対策)を同時に行う高度な法務知識が求められます。予期せぬトラブルに巻き込まれた際は、男女トラブルや不貞問題に強い弁護士などの専門家に早期に相談し、適切な法的アドバイスを受けることが解決への近道となります。