独身と偽って交際・性交渉を重ねた既婚男性に対し、貞操権侵害や不貞行為に基づく慰謝料を請求している最中、突然その親(加害者の親)から「息子に代わって話をさせてほしい」「お金は自分が払うから勘弁してくれ」と介入を受けるケースがあります。
大人同士の問題であるはずなのに、なぜ親が出てくるのかと戸惑う方も少なくありません。しかし、実務上、加害者の親が経済的な肩代わりを求めて交渉の矢面に立つケースは珍しくありません。
1. 加害者の親が示談交渉に介入してくる背景
既婚男性が独身を偽っていたことが発覚し、被害者から高額な慰謝料を請求されたり、法的措置を匂わされたりした際、男性自身が自分の配偶者(妻)や親に知られることを恐れ、あるいは自分一人では解決できずに親へ泣きつくケースが多々あります。
親側としては、以下のような心理や目的から介入してきます。
- 息子の家庭や社会的信用を守りたい(妻や職場に知られたくない)
- 被害者からの激しい追及から息子を救い出したい
- 自分たちの蓄えや援助で一括払いし、一刻も早く問題を終わらせたい
親が弁済の意思を示していること自体は、回収の確実性を高める意味では一概にマイナスとは言えません。しかし、法的な手続きや契約の観点から、親の介入には十分な警戒が必要です。
2. 親との示談における重大な法的リスク
加害者の親と直接交渉を進める際には、以下のようなリスクに注意しなければなりません。
加害者本人が責任を免れる口実になりかねない
親が全額を支払うことで、加害者本人が「親が勝手にやったこと」「自分はもう関係ない」と責任逃れをする姿勢を見せる場合があります。しかし、不法行為(民法709条)を行った当事者はあくまで既婚男性本人であり、貞操権侵害や不貞の主たる責任者は彼自身です。
接触禁止や誓約事項が不十分になるおそれ
親が介入する場合、「お金を払うのだから、もうこれ以上は息子に連絡しないでくれ」と、被害者側の平穏や権利を守るための条件(再び連絡を取らない、口外しない等の誓約)がおろそかにされがちです。
3. 親の介入を正しく受け入れ、安全に解決するための4つのポイント
加害者の親から示談の申し出があった場合、感情的に突っぱねる必要はありませんが、以下の条件をクリアした形で示談を進めることが不可欠です。
① 支払者は親であっても、示談書の当事者には必ず加害者本人を含める
お金を親が出す場合であっても、示談書の当事者(債務者)には既婚男性本人を必ず記載します。親はあくまで「連帯保証人」あるいは「第三者弁済者」として位置づけ、加害者本人が自身の行為の責任を法的に認める形にしなければなりません。
② 親からの任意立替・一括支払いの受領と精算
親が代金を支払う場合、その資金の出所や振込名義を確認します。親の口座から被害者指定の口座へ直接振り込んでもらうのが最も安全です。後から「親が勝手に支払わされた」「脅されて払った」などと主張されないよう、親自身の署名捺印が入った同意書も取得しておくと万全です。
③ 加害者本人の自筆による誓約・示談書への調印
金銭の支払いだけでなく、以下の事項を加害者本人の署名・捺印(できれば実印と印鑑登録証明書)付きの示談書に明記させます。
- 独身と偽って交際し、精神的苦痛を与えたことの事実確認
- 被害者に対する謝罪の意思
- 今後一切の接触(連絡、SNSの閲覧、接近など)の禁止
- 違約金条項(万が一接触した場合のペナルティ)の設置
- 清算条項(本示談書に定める以外に、何ら債権債務が存在しないことの確認)
④ 弁護士を通じた書面での合意形成
親が間に入ると、口頭での約束や感情的な言い争いに発展しやすくなります。被害者ご自身が直接対応すると精神的な負担も大きいため、弁護士を代理人として立て、書面ベースで厳格に条件を詰めることを強くおすすめします。
まとめ:親の介入はチャンスと捉えつつ、法的に不備のない示談書を
既婚男性の親が示談に介入してきた場合、それは「資力がある親から確実にお金回収できるチャンス」であると同時に、「本人不在の曖昧な解決に誘導されるリスク」の表裏一体です。
お金を払ってもらうことだけに気を取られ、加害者本人の反省や今後の接触禁止条項を見落としてしまうと、将来的に再びトラブルに巻き込まれる原因となります。親が間に入る複雑な事案において、被害者が主導権を握り、法的に有効な合意書を締結するためには、初期段階からの法的アプローチが不可欠です。