既婚男性が「性病感染の事実を隠して性的関係を重ねていた」悪質性

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、貞操権侵害(独身偽装被害)における不法行為責任(民法709条)、裁判例の慰謝料算定基準、および相手の妻からの不貞請求防御実務に基づきわかりやすく解説しています。

Q 既婚であることを隠されていた上に、相手から性病をうつされました。どのような法的責任を問えますか?
A 独身と偽って交際・性交渉を行ったこと自体が貞操権侵害(不法行為)に該当します。さらに、感染の事実を知りながら秘匿して性交渉を行った場合、心身に対する重大な加害行為とみなされ、通常の不貞慰謝料や貞操権侵害の慰謝料とは別に、高額な損害賠償請求が認められる可能性が極めて高くなります。

独身と偽って交際関係を結ぶだけでも重大な法的責任(貞操権侵害)が生じますが、そこに「性病感染の事実の隠蔽」という悪質な加害行為が重なるケースが増加しています。

独身偽装の被害に遭っただけでなく、相手の男性から性病を感染させられたという深刻なご相談は後を絶ちません。

1. 独身偽装と性病隠しが重なる「悪質性」の法的評価

民法709条は、故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した者に損害賠償責任を課しています。

恋愛関係において、相手が独身であると信じ込ませて性的関係を結ぶ行為は、性的自己決定権や貞操権を侵害する不法行為です。これに加えて性病の感染隠しが行われた場合、以下のような理由から加害の悪質性が極めて高いと評価されます。

  • 相手の身体的健康権および生命に対する重大な脅威を与えている点
  • 感染の危険性を認識していながら、自己保身のためにリスクを一方的に押し付けている点
  • 精神的苦痛にとどまらず、肉体的な苦痛や長期的な治療負担を強いている点

裁判実務においても、単なる不倫関係におけるトラブルとは異なり、加害者の欺瞞性と加害行為の危険性が著しいケースでは、慰謝料の算定において大きくプラスに働く傾向があります。

2. 貞操権侵害と性病感染における損害賠償の構成

性病感染を伴う独身偽装交際において、被害者が請求できる損害賠償(慰謝料)の項目は多岐にわたります。主な請求項目は以下の通りです。

  • 貞操権侵害・精神的苦痛に対する慰謝料 独身と偽られ、欺かれて性的関係を強いられたことに対する精神的損害への賠償です。

  • 身体的・精神的苦痛に対する追加慰謝料 性病に感染したという肉体的苦痛、治療期間中の恐怖や精神的負担に対する賠償です。

  • 治療費および関連費用 病院での検査費用、投薬治療費、通院交通費など、感染症治療のために直接必要となった実費です。

  • 弁護士費用 悪質な加害者に対して適正な解決を図るため、弁護士を代理人として交渉・訴訟提起した場合、その費用の一部を加害者に請求することが認められるケースがあります。

パラリーガル笠原のワンポイントアドバイス

性病の感染事実を立証するためには、医療機関での検査結果(診断書やカルテ)が不可欠です。「相手からうつされた可能性がある」と感じたら、まずは速やかに専門医を受診し、医師に対して経緯を正確に伝えた上で診断書を取得してください。また、相手とのやり取り(LINEやメールなど)で感染について言及している部分や、独身であると偽っていた証拠の保全も極めて重要です。

3. 高額慰謝料が認められやすいモデルケースと証拠の重要性

すべてのケースが一律で高額化するわけではありませんが、以下のような要素が揃っている場合、高額な慰謝料が認められるモデルケースとなります。

  • 医師の診断により、感染経路が明確に相手からのものであると推認できる場合
  • 相手が自身の感染をあらかじめ知っていた(または強く疑っていた)ことがメッセージ等の客観的証拠から裏付けられる場合
  • 感染が判明した後も、相手が誠実な対応をせず、隠蔽や責任転嫁を図った場合

証拠集めのポイント

加害者側が「感染の事実を知らなかった」「自分もうつされた被害者である」などと虚偽の主張をして責任逃れを図るケースが後を絶ちません。そのため、以下のような証拠を早い段階で確保することが肝心です。

  • 医療機関が発行する診断書、検査結果通知書
  • 相手が独身であると偽っていたことを示す証拠(マッチングアプリのプロフィール、会話の録音、メッセージ履歴)
  • 性病に関する相手とのやり取り(「病気をうつされた」という追及に対し、相手が認める発言や動揺している様子が分かるテキスト等)

4. 既婚者からの不当な逆請求(ダブルトラブル)への警戒

このような複雑な事案において注意しなければならないのが、いわゆる「ダブルトラブル」です。

加害者の既婚男性の配偶者から、「夫を誘惑した」「不貞行為によって平穏な家庭を壊された」として、逆に高額な不貞慰謝料を請求されるという二次被害が発生することがあります。

しかし、被害者側は「独身であると騙されて交際させられていた(=貞操権の被害者)」のであり、既婚者であることを知っていて積極的に不倫関係に及んだわけではありません。

不貞慰謝料の請求において「故意または過失(既婚者であることの認識)」は成立要件の核心であり、巧妙に独身を装われていた場合には、配偶者からの請求を法的に退けられる、あるいは減額できる可能性が高くなります。

性病隠しという悪質な加害を受けながら、さらに配偶者からの理不尽な請求に悩まされるケースでは、ご自身だけで対応せず、専門的な法的知識を持つ弁護士に速やかに相談することが不可欠です。

5. まとめ:泣き寝入りせず、専門弁護士にご相談ください

既婚男性が独身と偽り、さらに性病感染のリスクを隠して性的関係を重ねる行為は、個人の尊厳を踏みにじる許されざる不法行為です。肉体的・精神的な苦痛を受けた被害者が、泣き寝入りする必要は一切ありません。

「自分が騙されていたショックで誰にも相談できない」「相手から脅されている」「性病の治療費や精神的苦痛の補償を求めたい」とお悩みの方は、一人で抱え込んだりせず専門の弁護士までご相談ください。法的な証拠の固め方から相手方との交渉・請求まで、的確なサポートを受けることで正当な権利を取り戻すことができます。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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