相手の妻に不貞慰謝料を「うっかり一部払ってしまった」後の取り戻し

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、貞操権侵害(独身偽装被害)における不法行為責任(民法709条)、裁判例の慰謝料算定基準、および相手の妻からの不貞請求防御実務に基づきわかりやすく解説しています。

Q 既婚者であると知らずに交際していた男性から不貞慰謝料を請求され、怖くなって一部を支払ってしまいました。後から独身と偽られていたこと(貞操権侵害)が分かりましたが、すでに払ってしまったお金を取り戻すことはできますか?
A 民法上の錯誤(民法95条)に基づく意思表示の取消しや、法律上の原因がない利得としての不当利得返還請求(民法703条)を行うことで、支払った金員の返還を求められる可能性があります。ただし、相手との交渉や法的証拠の整理が必要となるため、早めに専門家や弁護士にご相談ください。

独身と偽って交際していた男性の配偶者から不当な不貞慰謝料を請求され、心理的プレッシャーから「うっかり一部を支払ってしまった」というケースは少なくありません。

本記事では、誤って支払ってしまった慰謝料を取り戻すための法律構成や、具体的な実務対応について詳しく解説します。

独身偽装交際における「不貞慰謝料請求」の矛盾

そもそも、既婚者であることを隠されて交際させられていた女性側(被害者)は、相手男性に対して貞操権侵害に基づく損害賠償請求権を持っています。

法律上、不貞行為に基づく損害賠償義務(民法709条)が発生するのは、原則として「相手が既婚者であることを知っていた(または過失により知らなかった)」場合に限られます。つまり、完全な被害者である独身女性が、夫の嘘によって不貞関係に引きずり込まれたケースでは、妻に対して慰謝料を支払う義務は本来存在しません。

それにもかかわらず、突然の通知や妻からの激しい連絡に動揺し、トラブルを早く終わらせたい一心で一部を支払ってしまうケースが後を絶ちません。

支払ったお金を取り戻すための2つの法的アプローチ

うっかり支払ってしまった金員を取り戻すためには、主に以下の2つの法的な手段を検討します。

1. 錯誤(民法95条)による取消し

法律上の「錯誤」とは、表意者が意思表示をした当時、その基礎とした事情についての認識が真実に反している状態を指します。

  • 「自分に不貞慰謝料の支払い義務がある」と誤認して支払った場合
  • その誤認が、法律行為の基礎となっていた重要な要素に関するものである場合

この要件を満たす場合、支払いの意思表示を取り消すことが可能です。取消しが有効となれば、最初から法律上の原因に基づいて支払われなかったことになります。

2. 不当利得返還請求(民法703条)

法律上の原因がないにもかかわらず他人の財産によって利益を受け、そのために人に損失を及ぼした者は、その利益を返還する義務を負います。 支払う義務がないにもかかわらず相手の妻にお金を渡した行為は、法律上の原因がないため、民法703条に基づき「不当利得」として返還を請求することができます。

返還請求を行う際の実務上のハードルと注意点

理論上は取り戻しが可能であっても、実際に相手からお金を回収するまでにはいくつかのハードルが存在します。

  • 相手が任意に返還に応じない可能性 妻側は「一度受け取ったお金なのだから返さない」と主張することが多く、話し合いだけでの解決が難しいケースが少なくありません。
  • 証拠の保全の重要性 男性が独身であると偽っていた証拠(マッチングアプリのプロフィール、独身と記載されたメッセージ、婚約を匂わせるやり取りなど)や、支払った際の振込明細書等を確実に保管しておく必要があります。

まとめ

相手の妻に不貞慰謝料をうっかり支払ってしまった場合でも、本来その支払義務がなかったことや、独身偽装による被害の事実を法的根拠に基づき適切に主張すれば、お金を取り戻せる可能性は十分にあります。泣き寝入りせず、まずは証拠を整えた上で弁護士などの専門家への相談を検討してください。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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