独身だと信じ込んで交際を重ねていたところ、実は既婚者だったという事実が発覚し、さらにその配偶者(妻)から高額な不貞慰謝料を請求されるという「ダブルトラブル」に巻き込まれる方が後を絶ちません。
このような状況において、相手の妻から「誠意を見せるために公正証書を作成しろ」「給与の差押えができるようにすぐに公証役場に行こう」と強く迫られるケースが多々あります。
独身偽装による不貞トラブルにおいては、このような理不尽な要求に怯えてしまう相談者様が数多くいらっしゃいます。本記事では、法律の専門的知見を交えながら、相手の妻から「公正証書での支払い」を要求された際になぜ絶対に拒絶すべきなのか、そしてどのように法的な争いへ切り替えるべきかを詳しく解説します。
1. 相手の妻が「公正証書」を急かす本当の理由
不貞慰謝料の請求において、相手の妻が執拗に公正証書(特に強制執行認諾文言付き公正証書)の作成を急ぐのには、明確な戦略的理由があります。
裁判という正規の手続きを回避したい
通常、金銭の支払いを強制的に回収するには、民事訴訟を起こして勝訴判決を得るか、調停・裁判上の和解を経る必要があります。しかし、相手の妻側からすれば、裁判には時間も弁護士費用もかかります。そのため、任意の合意という名目で相手を心理的に追い詰め、手っ取り早く法的拘束力のある書面を手に入れたいのです。
一度締結すると「覆すこと」が極めて困難になる
公正証書、とりわけ「強制執行認諾文言(裁判をせずに直ちに差押えを受けることに合意する文言)」が記載された文書は、法的にお墨付きを得た強力な証拠となります。一度これに署名・押印してしまうと、後から「騙されて交際させられていた」「金額が不当に高額だ」と主張しても、裁判所での覆しが極めて困難になります。
2. 独身偽装被害者が公正証書を絶対に拒絶すべき理由
ご自身が「相手は独身だと言っていた」「結婚している事実を隠されて騙されていた」という被害者側である場合、配偶者からの慰謝料請求に対して無条件で応じる義務は本来ありません。以下の理由から、安易な公正証書の作成は絶対に拒絶すべきです。
支払義務の有無や金額が法的に確定していない
不貞行為(不法行為:民法709条)に基づく損害賠償責任において、加害側とされる人物が本当に責任を負うべきか、また請求された金額が妥当であるかは、双方の事情(婚姻関係の破綻状況、欺瞞の悪質性、交際の経緯など)を総合的に考慮して判断されるべきものです。相手のペースで一方的に作られた金額や条件を呑む必要はありません。
逆転の法的主張(貞操権侵害の損害賠償請求)の可能性を潰してしまう
独身を偽って性交渉を伴う交際を強いた相手(不倫相手の男性・女性)に対しては、逆に「貞操権侵害」や「不法行為」として精神的苦痛に対する損害賠償(慰謝料)を請求できる可能性があります。相手の妻と安易に公正証書を交わしてしまうと、ご自身の正当な法的権利の行使が著しく制限されるおそれがあります。
3. 公正証書要求を拒絶し、法的争いへ正当に切り替えるステップ
相手の妻から強硬な態度で公正証書への調印を迫られたときは、感情的に言い返すのではなく、冷静かつ毅然とした態度で法的枠組みへと移行させることが重要です。
ステップ1:その場での即答や書面への署名を一切避ける
「仕事の都合がある」「一度内容を持ち帰って検討する」と伝え、その場での署名・捺印、公証役場への同行の約束は絶対に避けてください。脅すような文言を言われても、その場で応じる必要はありません。
ステップ2:弁護士を代理人として選任する
相手の妻本人との直接のやり取りは、精神的にも大きな負担となり、言質を取られるリスクがあります。弁護士に代理人として介入してもらうことで、連絡の窓口を一本化することができます。
ステップ3:法的な妥当性に基づいた交渉・対抗措置への移行
公正証書の要求を一旦保留・拒絶した上で、そもそも相手の婚姻関係がその時点でどうなっていたのか、自分がどれほど深く騙されていたのかという事実関係を整理します。その上で、相手妻からの過大な請求に対する減額交渉や、逆に騙した張本人に対する責任追及を含めた総合的な解決を目指します。
まとめ:理不尽な要求には一人で悩まず、弁護士にご相談を
相手の妻から「公正証書での支払いをしろ」と強く迫られると、法的な強制力を恐れてパニックになってしまうお気持ちは痛いほど分かります。
しかし、ご自身もまた「独身偽装」という悪質な欺瞞行為の被害者である場合、相手のペースに流されて不当な公正証書にサインしてしまうことは、将来にわたって取り返しのつかない不利益を残すことになります。
強制執行権を与える公正証書への要求はきっぱりと拒絶し、法的根拠に基づいた適切な防御と解決策を選択しましょう。独身偽装による不貞トラブルや、そこから派生するダブルトラブル(不貞慰謝料請求と貞操権侵害)でお悩みの場合は、早い段階で弁護士等の専門家へご相談ください。