【民事上の損害賠償と弁護士への相談】未成年自身に資力がない場合でも、監督義務を果たしていなかった親権者等の保護者に対して損害賠償請求を行うことが可能です。泣き寝入りせず、まずは弁護士を通じて発信者情報開示請求や示談交渉を進めることが重要です。
インターネット上の掲示板やSNSで執拗な誹謗中傷を受けた被害者が、発信者情報開示請求などを経て特定を進めたところ、加害者が中学生や高校生といった「未成年(少年)」であったというケースが近年増加しています。
「相手が子供だから、警察に行っても意味がないのではないか」「慰謝料を請求したくても親に支払ってもらえるのか」といった不安を抱える被害者の方は少なくありません。
結論からお伝えすると、加害者が未成年であっても、警察や弁護士を通じて法的な責任を追及することは十分に可能です。ただし、成人とは異なる独自の法的手続きやルールが存在します。
この記事では、未成年者がネット中傷の加害者となった場合にどのような法的手続きが進められるのか、家庭裁判所の役割、保護処分の内容、そして被害者が泣き寝入りせずに損害賠償を請求するためのポイントについて詳しく解説します。
ネット中傷の加害者が未成年だった場合の基本的な法的責任
インターネット上で特定個人への誹謗中傷、プライバシーの侵害、脅迫、あるいは業務妨害などに該当する書き込みを行った場合、それは立派な違法行為です。加害者が未成年であっても、その法的責任が免除されるわけではありません。
未成年が加害者となった場合、大きく分けて刑事上の責任(更生を目的とした少年法の手続き)と、民事上の責任(被害者に対する損害賠償義務)の2つの側面から責任を追及していくことになります。
大人であれば逮捕されて刑事裁判にかけられ、前科がつくような悪質な書き込みであっても、少年法が適用される年齢(14歳以上など)の未成年者の場合は、原則として家庭裁判所において更生のための審判を受けることになります。
警察への刑事告訴と「家裁送致」の流れ
ネット中傷の証拠を集め、警察に被害届や刑事告訴を提出すると、捜査機関によって加害者の特定が進められます。加害者が中高生などの未成年であると判明した場合、事件は次のような流れで処理されます。
- 警察による捜査と書類送検:加害者が特定されると、警察が取り調べなどの捜査を行います。犯罪行為が認められれば、事件は検察庁へ送られます(書類送検)。
- 家庭裁判所への送致(家裁送致):検察官から、事件は原則として家庭裁判所に送られます。これを「家裁送致」と呼びます。未成年者の事件は、刑罰を与えることを目的とした通常の刑事裁判ではなく、家庭裁判所が非行の背景や再犯防止に向けた調査を行うためです。
- 家庭裁判所の調査と審判:家庭裁判所の調査官が、少年の家庭環境や交友関係、なぜこのようなネット中傷に至ったのかの動機などを詳しく調べます。その上で、裁判官が審判を行い、どのような処分を下すかを決定します。
なお、14歳未満の触法少年であっても児童相談所等を通じた指導や家庭裁判所の審判対象となる場合があります。また、重大な犯罪や極めて悪質なケースでは、検察官送致(逆送)されて成人と同じ刑事裁判を受ける例外的なケースも存在します。
家庭裁判所で行われる「保護処分」の種類
家庭裁判所の審判によって下される処分を「保護処分」と呼びます。これは刑罰ではなく、少年の健全な育成と再犯防止を目的としたものです。主な保護処分には以下のようなものがあります。
- 保護観察:少年を自宅に帰した状態で、保護観察所の指導員やボランティア(保護司)の指導・監督を受けさせる処分です。定期的な面談や生活態度の改善が求められます。
- 児童自立支援施設・児童養護施設送致:家庭環境に問題がある場合や、施設での生活指導が必要と判断された場合に送致されます。
- 少年院送致:比較的重い非行を行った場合や、他の処分では更生が難しいと判断された場合に、少年院に収容して矯正教育を受けさせる処分です。
このように、加害者が未成年であっても、警察や家庭裁判所が介入することで、法的なペナルティと社会的制裁を受けることになります。被害者にとっても、加害者が自身の行為の重大さを直視する契機となります。
親権者(保護者)に対する民事上の損害賠償請求
刑事手続きや家庭裁判所の処分とは別に、被害者が最も関心を持つのは「慰謝料や弁護士費用の請求ができるのか」という点でしょう。
中高生などの未成年者は、一般的に自分自身で十分な収入や財産を持っていないことがほとんどです。そのため、未成年者本人に対して慰謝料を請求しても、実際にお金を回収することが難しい場合があります。
そこで重要となるのが、民法第714条に基づく親権者(保護者)への損害賠償請求です。
- 監督義務者の責任:未成年者が他人に損害を加えた場合において、その未成年者に責任を弁識する能力(責任能力)があるときは、原則としてその未成年者自身が賠償責任を負います。しかし、中高生程度の年齢であれば通常は責任能力が認められるため、本人に賠償責任が発生します。
- 親の責任(監督義務違反・監護義務):その上で、親権者(保護者)が日頃の監督義務を怠っていた場合や、子供の危険なネット利用を放置していた場合などには、親権者に対しても民法上の責任(または民法709条の一般不法行為責任)を追及できるケースが多くあります。
- 実務上の交渉:実際の示談交渉や損害賠償請求では、加害者の親(保護者)が代理人として交渉の場に出てくることが一般的です。親御さんが事の重大さを理解し、被害者に対して謝罪と損害賠償金の支払い(示談金の履行)を行うことで解決に至るケースが多数を占めます。
もし親御さんが「うちの子がやったことではない」「責任はない」と支払いを拒否する場合や、誠意ある対応を見せない場合は、弁護士を通じて損害賠償請求訴訟(民事裁判)を提起し、法的強制力を持って親権者の財産等から回収を図ることも検討します。
ネット中傷の加害者が未成年だった場合の留意点
加害者が未成年である場合、特有の注意点が存在します。
一つ目は、証拠の保全と迅速な対応の重要性です。未成年者は、親にバレることを恐れて書き込みを急に削除したり、アカウントを消去したりする傾向が強くあります。削除されてしまうと証拠隠滅につながるため、発信者情報開示請求や証拠保全を迅速に行う必要があります。
二つ目は、学校やプライバシーへの配慮です。加害者が未成年であっても、相手の学校名や実名をインターネット上で晒す行為(特定・私的制裁)は、名誉毀損やプライバシー侵害、あるいは脅迫に該当し、今度は被害者が加害者になってしまうリスクがあります。法的手続きや示談交渉は、必ず弁護士などの専門家を通じて法的な枠組みの中で進めることが不可欠です。
まとめ
ネット中傷の加害者が中高生などの未成年であった場合、刑事裁判ではなく家庭裁判所による「家裁送致」や「保護処分」といった少年法特有の手続きが進められます。
「子供だから許される」ということは決してなく、警察の捜査を経て社会的・教育的な指導が行われます。また、被害者側としては、未成年者本人だけでなく、その監督責任を負う親権者に対して損害賠償請求を行うことが可能です。
当事務所では、加害者が未成年である案件を含め、ネット誹謗中傷・風評被害に関する数多くの解決実績がございます。泣き寝入りせず、適正な法的手続きを通じて平穏な日常を取り戻すために、まずは一度ご相談ください。