相手が「海外在住・海外赴任」の場合の日本国内の身元特定と国際郵便

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、貞操権侵害(独身偽装被害)における不法行為責任(民法709条)、裁判例の慰謝料算定基準、および相手の妻からの不貞請求防御実務に基づきわかりやすく解説しています。

Q 独身だと偽られて交際していた相手が、突然「海外赴任になった」と言い残して連絡が取れなくなりました。相手は現在海外にいますが、日本国内から貞操権侵害や不貞行為の慰謝料を請求することは可能ですか?
A 結論から申し上げますと、海外在住の相手に対しても日本国内から法的請求を行うことは可能です。まずは日本国内に残る前住所や実家を手がかりに身元を特定し、内容証明郵便や裁判上の手続き(外務省を経由した国際送達など)を進めることになります。泣き寝入りせず、専門家にご相談ください。

独身を偽って交際・性交渉を行った相手(貞操権侵害)や、既婚者との間でトラブルになった際、相手が「海外転勤」や「海外赴任」を理由に国外へ去ってしまうケースがあります。

「海外にいるから、もう連絡も取れないし請求もできないだろう」と諦めてしまう方が少なくありませんが、法律上は適切な手順を踏むことで海外在住者に対しても責任を追及することができます。

1. 海外在住の相手に対する法的請求の基本原則

不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償請求権は、加害者が日本国内にいようが海外にいようが消滅するわけではありません。

国際私法(法の適用に関する通則法)や民事訴訟法の観点から、日本国内で不法行為が行われた場合や、当事者間に密接な関連がある場合には、日本の裁判所に管轄権が認められるケースが多くあります。

しかし、実務上最大の問題となるのは「相手の現在の居所(海外の住所)が正確に分からない」「書類をどのように送達すればよいか分からない」という点です。

2. 日本国内の手がかりから身元・新住所を特定するアプローチ

海外へ出国してしまった相手であっても、日本国内での生活基盤や家族関係を手がかりに、現在の居所を割り出すための調査を行うことが可能です。

国内の実家や前住所の活用

相手が海外赴任や留学であっても、日本国内の実家や住民票上の前住所、あるいは勤務先の日本法人(本社・支社)が把握されている場合があります。

弁護士会照会(弁護士法第23条の2に基づく照会)などを活用することで、相手の動向や国内の連絡先に関する情報を合法的に取得できるケースがあります。

勤務先(国内法人)へのアプローチ

相手が企業の海外赴任者である場合、日本の雇用主(企業)は従業員の海外における連絡先や赴任先を把握していることが一般的です。

直接の個人情報はプライバシーの観点から容易に開示されない場合でも、弁護士を通じた正式な書面による照会や、損害賠償請求を前提とした交渉の中で、連絡先が判明する道が開けることがあります。

3. 海外への請求・通知方法(国際郵便から裁判上の送達まで)

相手の海外の住所や居所が判明した場合、具体的にどのように請求の意思表示や法的文書を届けるのでしょうか。主な手法は以下の通りです。

国際郵便(内容証明郵便の活用と限界)

日本国内から海外に向けて、相手の正確な海外住所宛に文書を送付します。

  • 日本郵便のEMS(国際スピード郵便)や書留を利用し、追跡可能な形で送付します。
  • 日本国内の「内容証明郵便」の効力は国外の相手には直接及ばないものの、請求書や通知書を海外の現住所に配達証明付きで送り、到達した事実(受領の事実)を証拠として残すことが極めて重要です。

裁判上の「国際送達」制度

示談交渉に応じず、相手の海外住所が判明している状態で裁判(損害賠償請求訴訟)を提起する場合、裁判所の文書を海外にいる被告に届けるために「国際送達」の手続きを利用します。

  • 外務省を経由する方法: 民事訴訟法に基づき、日本の裁判所から外務省を経由して現地の日本大使館・領事館を通じて相手に書類が送達されます。
  • 郵便送達(条約に基づく方法): 一部の国との間では、郵便による送達が認められています。

国際送達は、通常の国内での裁判に比べて数ヶ月から半年程度の時間がかかる傾向がありますが、正当な法的手続きとして確実に相手にプレッシャーを与えることができます。

4. ダブルトラブル(不貞慰謝料請求と貞操権侵害)における注意点

海外赴任者とのトラブルにおいては、以下のような「ダブルトラブル」の様相を呈することがあります。

  • 相手の配偶者から「夫(妻)を奪った」として、逆にこちらが不貞慰謝料を請求されるリスク。
  • 自身が独身だと聞いて交際していたが、実は相手に配偶者がおり、その配偶者も巻き込んだ複雑な紛争に発展するケース。

相手が海外に逃げたからといって安易に連絡を絶ったり、感情的なSNSでの暴露などを行ったりすると、名誉毀損やプライバシー侵害で逆に訴えられるリスクが高まります。

正確な証拠を保全し、冷静かつ戦略的に法的手続きを踏むことが、ご自身を守るための最大の防御となります。

5. 海外在住者との男女トラブルを解決するためのまとめ

相手が海外在住・海外赴任中である場合の法的請求は、国内の調査能力だけでなく、国際的な送達手続きや複雑な管轄問題が絡むため、個人の力のみで進行することは極めて困難です。

「海外にいるから泣き寝入りするしかない」と諦めてしまう前に、まずは日本国内に残る足取りや勤務先情報などの手がかりを整理し、専門的な法的手続きを見据えた戦略を立てることが解決への第一歩となります。正確な事実関係と証拠に基づき、冷静かつ確実なアプローチを進めましょう。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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