婚活アプリや婚活パーティーなどの出会いの場において、既婚者であることを隠して独身者と偽り、親密な関係になるトラブルが後を絶ちません。単なる交際詐称にとどまらず、妊娠や中絶という取り返しのつかない事態に発展するケースも存在します。
本記事では、独身偽装による妊娠・中絶被害における法的な責任と、弁護士介入による解決の和解モデルについて詳しく解説します。
1. 独身偽装と「貞操権侵害・不法行為」の法的整理
独身であると信じ込ませて肉体関係を持つ行為は、最高裁判所の判例の趣旨に照らし、性的な自己決定権や貞操権を侵害する不法行為(民法709条)を構成します。
被害者は、相手の嘘がなければ決して交際や性交渉を行わなかったといえるため、精神的苦痛に対する慰謝料請求の正当な権利を有しています。これが「独身偽装交際・貞操権侵害」の問題の本質です。
さらに、その偽りの交際の結果として妊娠が発覚し、既婚者である男が無責任に中絶を迫ったり、結果として人工妊娠中絶手術を受けざるを得なくなったりした場合、被害者が被る肉体的・精神的ダメージは計り知れません。
妊娠・中絶を伴うケースで請求できる主な損害項目
妊娠・中絶を強いられた事案では、通常の貞操権侵害慰謝料に加え、以下の項目を総合的に算出して相手方に請求していくことになります。
- 中絶手術費用およびそれに伴う通院費・医薬品代
- 肉体的苦痛に対する慰謝料
- 精神的苦痛(貞操権侵害および中絶を強いられたこと)に対する慰謝料
- 就労不能に伴う休業損害(手術前後の安静期間など)
2. 【和解モデル事例】弁護士介入による250万円の一括和解
実際に扱った、婚活パーティーを発端とする独身偽装・妊娠中絶の和解事例をもとに、解決までのプロセスを解説します。
相談者の状況とトラブルの背景
相談者(30代女性)は、真剣な結婚を目的とした婚活パーティーで男性と出会いました。男性は「独身、メーカー勤務、一人暮らし」と自称し、誠実な態度でアプローチしてきたため、女性は結婚を前提に交際を開始しました。
交際から数ヶ月後、女性の妊娠が判明しました。しかし、それを告げた途端に男性の態度が急変。「実は妻と子どもがいる。家庭を壊すわけにはいかないから、産むなら認知もサポートもできない、堕ろしてほしい」と一方的に告げられ、連絡がつきにくくなりました。
その後の調査により、男性は最初から既婚者であり、偽りのプロフィールで婚活パーティーに参加していたことが発覚したため、女性は絶望と怒りの中で法的相談に至りました。
弁護士による受任と法的アプローチ
- 証拠の保全と特定: 婚活パーティーの参加規約、LINEやメールのやり取り、妊娠確定の診断書、中絶手術の領収書、処方された薬の明細などを迅速に収集・保全。
- 内容証明郵便の送付: 独身偽装による貞操権侵害、および妊娠・中絶強要に伴う不法行為に基づき、慰謝料および損害賠償金の総額として高額な金員の請求通知を男性の自宅および勤務先へ送付。
- 交渉の主導: 男性の弁護士または本人からの連絡に対し、一切の言い逃れを許さない法的根拠を示して交渉を展開。
結果:250万円の一括和解成立
裁判上の訴訟手続きに移行する前に、相手方男性側から「早期解決および家族や職場への発覚回避」を望む申し出がありました。
数回にわたる協議の末、以下の条件で示談(和解)が成立しました。
- 和解金総額:250万円
- 支払方法:一括払い(指定期日内での振込)
- 清算条項:今後一切の連絡・接触を禁止する条項(接近禁止条項)、および違約金条項の明記
このように、弁護士が代理人として交渉の前面に立つことで、精神的な負担を最小限に抑えつつ、妥協のない高額な和解金を早期に引き出すことが可能となりました。
3. 泣き寝入りしないために!被害者が今すぐ行うべき行動
独身偽装や妊娠・中絶トラブルに巻き込まれた際、ショックのあまり相手と連絡を絶ってしまったり、相手の言葉を信じて泣き寝入りしたりしてしまう方が少なくありません。しかし、適正な権利を取り戻すためには、冷静かつ確実な証拠の確保が必要です。
以下のポイントを参考に、行動を起こしてください。
- 独身を証明するやり取りの保存: マッチングアプリのプロフィール画面、婚活パーティーの案内、LINE等で「独身である」と発言しているメッセージのスクリーンショットを保存する。
- 妊娠・中絶に関する証拠の確保: 妊娠検査薬の結果、産婦人科の診断書、エコー写真、手術の同意書、領収書、通院記録などを残しておく。
- 相手の身元情報の収集: 相手の氏名、住所、勤務先、電話番号、車のナンバーなどが分かるものを整理しておく。
- 個人での直接交渉を避ける: 既婚者である相手やその家族と直接連絡を取り合っても、言った・言わないの水掛け論になり、証拠隠滅を図られる危険性があります。
4. 既婚者トラブル・ダブルトラブルへの法的備え
なお、既婚者である男性側から「妻にバレたからお前も慰謝料を払え」と逆上されたり、相手の配偶者から逆に不貞慰謝料を請求される「ダブルトラブル」に発展するケースも存在します。
しかし、被害者側が「相手が独身であると騙されていた(過失がない)」場合、不貞行為の要件である故意や過失が欠如するため、配偶者からの慰謝料請求は法的に退けられるべきケースがほとんどです。
法律の専門家である弁護士に早期に相談することで、不当な請求から身を守りながら、ご自身の権利を最大限に主張することができます。
5. まとめ
婚活パーティーやマッチングアプリにおける独身偽装、そしてそれに伴う妊娠・中絶被害は、個人の尊厳を深く踏みにじる悪質な不法行為です。被害者が一人で抱え込み、泣き寝入りする必要は一切ありません。
証拠を適切に保全した上で法的アプローチを行うことにより、慰謝料や中絶費用の請求、さらには高額な和解金の獲得が十分に期待できます。理不尽な被害に直面した際は、早めに弁護士などの専門家へ相談し、正当な権利を取り戻すための第一歩を踏み出してください。