Q:相手が「自己破産する」と言って慰謝料から逃げようとしています。

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、貞操権侵害(独身偽装被害)における不法行為責任(民法709条)、裁判例の慰謝料算定基準、および相手の妻からの不貞請求防御実務に基づきわかりやすく解説しています。

Q 独身だと嘘をつかれて交際し、慰謝料を請求したら相手に「自己破産するから1円も払わない」と言われました。本当に破産されたら慰謝料は諦めるしかないのでしょうか?
A 【破産実務における原則免責と管財人への届出】破産法上、一般的な不貞や貞操権侵害の慰謝料は原則として「破産債権」となり、免責許可決定により支払い義務が免除されます(※積極的な加害意図がない限り、破産法253条1項2号の「悪意の不法行為」には原則該当しないのが実務通説です)。ただし、直ちに諦める必要はありません。まずは相手の「自己破産する」という言葉が単なる脅し(ハッタリ)でないかを見極め、実際に破産が申し立てられた場合は速やかに破産管財人へ破産債権の届出を行い、破産財団から配当金を受領する手続きを取ることが重要です。また、当初から計画的に金銭や肉体を騙し取るなど極めて悪質な詐欺的欺罔が立証できる事案では、非免責債権として争う余地も残されています。
【弁護士による早期対応とダブルトラブル防衛】相手が破産直前に資産を隠蔽していないかを管財人に調査させることや、相手の配偶者から不貞慰謝料を逆請求される二次被害(ダブルトラブル)を法的に防ぐためにも、男女問題と破産実務に精通した弁護士へ早急に相談することを強く推奨します。

相談者様の中には、相手から「破産するぞ」と脅されたり、実際に破産申立ての準備をちらつかされたりして、泣き寝入りを余儀なくされそうになる方が少なくありません。

本記事では、加害者が「自己破産」を持ち出して慰謝料の支払いを免れようとするケースについて、破産法と裁判実務に基づいた正確なアプローチを解説します。

1. 自己破産をすればすべての借金・慰謝料は消えるのか?

破産法では、経済的に破綻した人が人生を再スタートできるよう、原則としてすべての債務の支払いを免除する「免責許可」という制度が用意されています。

しかし、社会的な正義や被害者救済の観点から、例外的に免責されないが定められています。

非免責債権の主なもの

  • 租税等の請求権
  • 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(破産法253条1項2号)
  • 故意または重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(同項3号)
  • 養育費や婚姻費用などの扶養義務に係る債権(同項4号)

2. 不貞・貞操権侵害の慰謝料は「悪意の不法行為」になるのか?

インターネット上の一部では「不倫や独身偽装は不法行為だから、破産しても絶対にチャラにならない」と書かれていることがありますが、これはです。

法律用語としての「悪意」とは、単なる「既婚者と知っていた(故意)」という意味ではなく、を指すと厳格に解釈されています(最高裁判例・確立した通説)。

原則として免責対象となる理由

通常の独身偽装交際において、「相手の人生を破滅させてやろう」という積極的な害意を持って近づいたと客観的に立証することは極めて困難です。そのため、裁判実務上、貞操権侵害や不貞慰謝料はのが通説・確立した実務の現実です。

例外的に非免責が認められ得る悪質なケース

一方で、以下のような極端な悪質性や欺罔行為が存在し、実質的な詐欺や精神的加害が立証できる場合には、例外的に「悪意の不法行為」として非免責を主張できる余地があります。

  • 身分証明書や独身証明書を偽造・行使して計画的に騙していた場合
  • 結婚を装って多額の金銭を騙し取り、最初から返済するつもりがなかった場合(結婚詐欺)
  • 既婚発覚後も脅迫や執拗な嫌がらせを行い、被害者の精神や生活を徹底的に破壊した場合

3. 相手が本当に自己破産の手続きを始めた場合の現実的対処法

相手が実際に弁護士を代理人に立てて自己破産の手続きを開始した場合、感情的に反発するのではなく、法的手続きを正確に進めることが重要です。

① 破産管財人への速やかな債権届出と配当受領

相手に破産手続開始決定が出た場合、裁判所が定めた期間内に「破産債権届出書」を提出します。破産管財人が相手の資産(預貯金、不動産、保険解約返戻金等)を調査・換価し、配当が行われる場合、届出を行っていれば正規の配当金を受け取ることができます。届出を怠ると、受領できたはずの配当金すらゼロになってしまいます。

② 破産管財人への情報提供と財産隠しの追及

加害者が支払いを免れるため、破産直前に親族へ現金を移動したり、資産を隠蔽したりしている場合、破産法上のに該当します。加害者の浪費や隠し財産に関する客観的な情報を破産管財人へ提供することで、管財人の詳細な調査を促し、不当な免責を阻止するよう働きかけます。

③ 相手配偶者からの不貞逆請求(ダブルトラブル)への備え

相手男性が破産によって支払いを免れてしまうと、相手の配偶者(妻)からの不貞慰謝料請求の矛先がすべてあなただけに集中してしまう危険性があります。自分が「過失なく独身だと信じていた(無過失)」証拠を整え、相手配偶者からの請求を法的に遮断する防御策を同時に講じる必要があります。

4. 「破産する」という言葉を脅し文句にする加害者の心理

多くのケースにおいて、加害者が口にする「自己破産するから払えない」という言葉は、本気で破産手続きの準備をしているというよりも、であることが少なくありません。

実際に自己破産をするには、裁判所に納める予納金や弁護士費用など数十万円単位のまとまった現金が必要であり、官報に名前が載る社会的デメリットや、一定の財産(マイホームや車など)を失うペナルティを伴います。そのため、安易に「破産」という言葉を口にする加害者が後を絶ちません。

このような相手のハッタリに屈して安易に請求を諦めてしまうと、本来得られるはずだった正当な賠償金を失うことになってしまいます。

5. まとめ:相手のハッタリに惑わされず冷静な法的対応を

相手が「自己破産する」と主張してきたとしても、原則として免責される実務の現実を直視しつつ、債権届出による配当金の回収や財産隠しの追及、そして相手配偶者からの逆請求に対する防衛を同時に進めることが極めて重要です。

破産手続きと男女トラブルが交錯する事案は高度な法律判断が求められます。一人で悩まず、男女トラブルと破産実務に精通した弁護士へお早めにご相談ください。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、交通事故の賠償問題をはじめ、事業者様を狙う求人広告詐欺の被害救済やオフィス・テナント等の原状回復トラブルなど、不測の事態に直面した皆様の精神的・経済的なご負担を少しでも和らげ、正当な権利の実現と円満な解決へと導くためのサポートを徹底して行っています。

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