独身を装って交際し、その後トラブルになった相手から「自分は精神科に通院しており、責任能力がないから慰謝料は払えない」と主張されるケースがあります。被害に遭われた方からすれば、非常に理不尽に感じる主張でしょう。
精神科への通院だけで責任は免除されない
結論から申し上げますと、単に精神科に通院しているという事実だけで、直ちに民法上の不法行為責任が免除されることはありません。
民法第713条では、精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態であった者は、賠償責任を負わないと定めています。しかし、ここで言う「責任能力」とは、非常に厳格な判断基準が求められます。
以下の要素が揃っている場合、相手の主張が認められる可能性は極めて低いと言えます。
- 普段通りに仕事をして社会生活を営んでいること
- 独身であると偽るために、計画的な嘘や隠蔽工作を行っていること
- 交際中、日常会話やデートの計画など、正常な判断に基づいて行動していること
相手が社会生活を送っている以上、少なくとも「善悪の判断」や「自分の行為が他人にどのような影響を与えるか」を理解する能力はあるとみなされるのが一般的です。
相手が「責任能力」を主張する意図とは
相手が「自分は責任能力がない」と主張する主な目的は、法的責任の回避ではなく、被害者を不安にさせ、交渉を諦めさせようとする心理的揺さぶりにあることが多いです。
「病気だから仕方がない」という論理にすり替えることで、被害者の追及をかわそうとする防御反応の一種です。しかし、法的には、騙されていた側が被った貞操権侵害という精神的苦痛は、相手の病歴とは切り離して評価されるべき問題です。
被害者がとるべき対応
もし相手からこのような主張をされた場合、以下の点に留意して対応することをお勧めします。
- 相手の主張に動揺せず、冷静に事実関係を整理する
- 相手が日常的に社会生活を送っていた証拠(仕事の内容、SNSでのやり取り、知人との交流など)を記録しておく
- 相手の主張を鵜呑みにせず、専門家に相談して法的な論理構成を構築する
単なる通院の事実と、不法行為の責任能力の有無は別問題です。もし相手が本当に「責任能力がない」状態であれば、そもそも独身を装って交際するという複雑な行為自体が困難であるはずです。相手の不当な言い分に惑わされず、客観的な証拠を揃えて毅然とした対応を行いましょう。