独身と偽って交際を重ね、肉体関係を持った相手から「実は既婚者だった」と告げられただけでも計り知れない精神的苦痛を受けるものです。さらにその際、「君を失いたくなかった」「傷つけたくないと配慮した結果だ」などと責任転嫁するような言い訳をされた場合、怒りと絶望はさらに深まることでしょう。
本記事では、加害者が口にする「傷つけたくなかった」という言い訳の法的評価と、それに対抗して正当な示談金を獲得するための実務的なアプローチについて詳しく解説します。
1. 「傷つけたくなかった」という言い訳の法的本質
不倫や独身偽装のトラブルにおいて、加害者はしばしば自身の行為を正当化しようと耳当たりの良い言葉を使います。しかし、法的な観点から見ると、これらの言葉の本質は明確です。
貞操権侵害における「自己決定権」の剥奪
婚姻関係にあることを隠して交際を申し入れ、性交渉に及ぶ行為は、相手が「独身者であるならば交際・性交渉を選択しなかった」という重大な自己決定権を奪う行為です。 最高裁判所の判例実務においても、性的な事項に関して真実を知らされていれば選択しなかったであろう決断を強いられた場合、それは法的に保護される利益の侵害(不法行為)とみなされます。
加害者の論理の破綻
「傷つけたくなかったから言わなかった」という主張は、論理的に完全に破綻しています。本当に相手を尊重し、傷つけたくないのであれば、最初から既婚者としての関係を持たない選択をするか、あるいは早期に真実を告げて関係を解消すべきだからです。 事実を隠し続けた動機は、配偶者との離婚リスクを避けて自身の性的な欲求や都合の良い関係を維持したいという自分勝手な動機(自己保身)に他なりません。
2. 許されない言い訳にどう立ち向かうか:法的責任の追求
加害者が責任逃れの姿勢を見せる場合、感情的に言い争うのではなく、冷静かつ厳格に法的責任を突きつける必要があります。
証拠の早期確保
口頭での言い訳や謝罪は、後になってから「言っていない」「脅されて無理やり言わされた」と翻意される危険性があります。以下のような客観的な証拠を可能な限り確保することが重要です。
- 独身と偽っていたことが確認できるLINEやメールのやり取り
- 既婚者である事実を自認している音声データやメッセージ
- ホテルへの出入り履歴や交際期間を示す記録
内容証明郵便による法的通知の送付
口頭での誠意のない謝罪や言い訳を封じるため、弁護士名義で内容証明郵便を送付します。この書面において、貞操権侵害に基づく損害賠償請求(慰謝料請求)の意思を明確にし、法的根拠に基づいた金銭賠償を求めます。
- 既婚隠しの事実と期間の特定
- 貞操権侵害(民法709条)に基づく不法行為の指摘
- 慰謝料の金額提示と支払期限の設定
3. 示談金の獲得とダブルトラブルへの備え
独身偽装交際の被害者が直面する問題として、相手の配偶者から逆に不貞慰謝料を請求されるというダブルトラブル(二重の被害)があります。
被害者であっても配偶者から訴えられるリスク
日本の裁判実務では、「相手が独身だと信じ込まされていた(過失がない)」という事情が証明できれば、配偶者に対する不貞慰謝料の支払義務は免除されるのが原則です。しかし、配偶者側が納得せず、強硬に請求を行ってくるケースは少なくありません。
示談交渉における包括的解決の重要性
独身偽装の相手方と示談を行う際には、単に慰謝料を受け取るだけでなく、将来的なリスクを見据えた条項を盛り込むことが極めて重要です。
- 清算条項の確約: 今回の件に関して、今後一切の金銭的・法的請求を行わないことの相互確認。
- 配偶者からの請求に対する防衛策: 相手方が自身の配偶者に対して事情を説明し、相談者に対してこれ以上の不当な連絡や請求をさせない旨の合意。
これらを個人の話し合いだけで解決しようとすると、加害者が口裏を合わせたり、不十分な合意書を交わしてしまったりして後から追加のトラブルに巻き込まれる危険性があります。
4. 独身偽装の言い訳を打破し、適正な解決を目指すために
相手から発せられる「傷つけたくなかった」という言葉は、加害者が自らの責任から逃れるための欺瞞にすぎません。法的な真実関係は、被害者が受けた精神的苦痛と貞操権の侵害という客観的事実に基づき判断されます。
独身偽装交際の被害において泣き寝入りをせず、正当な慰謝料の獲得や将来のトラブル回避を実現するためには、早期に法的なアプローチを検討することが極めて有効です。不誠実な言い訳に惑わされず、確かな証拠と法的根拠をもって毅然とした対応を進めましょう。