中絶後の「体調不良・休業」に伴う休業損害・収入減少分の賠償請求

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、貞操権侵害(独身偽装被害)における不法行為責任(民法709条)、裁判例の慰謝料算定基準、および相手の妻からの不貞請求防御実務に基づきわかりやすく解説しています。

Q 独身と偽って交際していた相手の子を妊娠し、やむを得ず中絶手術を受けました。術後の体調不良で仕事を数日間休まざるを得ず、給与が減ってしまったのですが、この収入減少分は相手に請求できますか?
A 結論から申し上げますと、独身偽装による貞操権侵害や不法行為に起因して中絶を余儀なくされ、それに伴って発生した休業損害(収入減少分)は、加害者に対して損害賠償として請求することが可能です。民法709条に基づき、因果関係が認められる実損害として法的請求の対象となります。

独身と偽られたモラルのない交際、そして予期せぬ妊娠と中絶手術。精神的な苦痛はもちろんのこと、肉体的なダメージやそれに伴う経済的な損失は、被害者の方にとってあまりにも大きな負担となります。

独身偽装交際・貞操権侵害や、それに付随する損害賠償請求のご相談は数多く寄せられています。本記事では、中絶後の体調不良や休業に伴う「休業損害・収入減少分の賠償請求」について、法的な考え方と実務上のポイントを解説します。

1. 中絶に伴う休業損害とは何か

人工妊娠中絶手術や、その前後のつわり・体調不良、術後の療養期間によって仕事を休んだ場合、得られるはずだった給与や収入が得られなくなります。これを法律上「休業損害(得べかりし利益の喪失)」と呼びます。

独身偽装交際において、相手が既婚者であることを隠して性的関係を持ち、その結果として妊娠・中絶に至った場合、一連の経緯は貞操権侵害および不法行為(民法709条)に該当します。中絶手術やそれに伴う身体的・精神的苦痛、そして就労不能による経済的損害は、すべてこの不法行為から派生した損害として法的に評価されます。

休業損害の対象となる期間

休業損害が認められるのは、一般的に以下の期間です。

  • 妊娠初期の著しい体調不良(つわり等)により就労が困難であった期間
  • 中絶手術の当日および医師の指示に基づく入院期間
  • 手術後の身体的回復のために必要不可欠と認められる療養期間(通常数日から1週間程度、医師の診断書等が必要となる場合が多いです)

2. 休業損害の算定方法と必要書類

休業損害を請求するためには、実際にどれだけの収入が失われたのかを客観的な証拠に基づいて証明する必要があります。職種によって算定方法が異なります。

給与所得者の場合(会社員・パート・アルバイト)

原則として、「基礎収入(日額)× 欠勤日数」で計算します。

  • 事故(不法行為)前3ヶ月間の総支給額をベースに1日あたりの収入を算出します。
  • 勤務先が発行する「休業損害証明書」や給与明細、タイムカード、源泉徴収票などが証拠となります。有給休暇を使用した分についても、労働基準法上の権利消化とは別に、実質的な損害として請求の対象に含めることが認められるケースがあります。

個人事業主・フリーランスの場合

原則として、「前年の確定申告に基づく所得を基準とした日額 × 休業日数」で計算します。

  • 売上ベースではなく、必要経費を差し引いた所得ベースで算定されます。
  • 確定申告書控、帳簿類、受注がキャンセルになったことを示すメールや契約書などが重要な証拠となります。

3. 請求における実務上の注意点と法的アプローチ

中絶に関する休業損害や慰謝料を相手に請求する際、感情的な対立からスムーズに進まないケースが少なくありません。泣き寝入りせず適正な賠償を受けるためには、以下のポイントを押さえておくことが重要です。

医師の診断書の確保

「体調が悪くて休んだ」という主観的な主張だけでは、相手やその代理人(弁護士など)に否定されるおそれがあります。「○月○日から○月○日まで自宅療養を要す」「術後のため就労不能」といった内容が記載された医師の診断書を取得しておくことが、請求の成否を分ける極めて重要なカギとなります。

因果関係の立証

既婚者であることを隠して交際していた事実(独身偽装)、避妊に関するトラブルや妊娠に至った経緯、そして中絶を選択せざるを得なかった事情と休業との間に、一連の因果関係があることを書面等で論理的に主張する必要があります。

ダブルトラブル(不貞慰謝料請求との交錯)への備え

独身偽装交際においては、実は相手に配偶者がおり、後になってから相手の配偶者から「夫(妻)を奪った」として高額な不貞慰謝料を請求されるというダブルトラブルに発展する事例が後を絶ちません。 このような状況下では、自分が被害者であるにもかかわらず加害者扱いされる矛盾が生じます。休業損害や中絶慰謝料の請求を進めると同時に、相手配偶者からの不当な請求に対する防御(求償権の行使や慰謝料減額交渉など)を総合的に組み立てる必要があります。

まとめ:中絶後の休業損害請求は正確な証拠と法的アプローチが不可欠

中絶という心身ともに大きな負担を伴う出来事に加え、体調不良による休業で収入が減少した損害は、貞操権侵害や不法行為に基づく正当な賠償請求の対象となります。適切な金額の休業損害を回収するためには、医師の診断書や給与明細などの客観的資料をもとに因果関係を明確に証明することが重要です。泣き寝入りせず、法的根拠に基づいた適切な手続きを進めていきましょう。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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