独身であると偽って交際を迫られ、性的関係を持たされた挙句、性感染症(性病)までうつされてしまう――。これは精神的・肉体的に計り知れない苦痛を伴う極めて悪質なケースです。
さらに、その男性が既婚者であったことが発覚し、今度は相手の妻から高額な不貞慰謝料を請求されるという「ダブルトラブル」に巻き込まれる女性が後を絶ちません。
今回は、性感染症の被害を受けた女性が、不倫夫に対して持つ損害賠償請求権と、妻からの請求に対する求償権の考え方について詳しく解説します。
1. 独身偽装と性感染症の感染は重大な法的責任を伴う
独身と偽って交際・性交渉を行う行為は、民法上の貞操権侵害(または不法行為)に該当します。人は誰しも、結婚している相手とは性的関係を持たない自由(自己決定権)を有しており、これを欺いて関係を強いる行為は違法と評価されます。
さらに、不衛生な状態や感染の事実を知りながら性交渉を行い、性感染症をうつした場合は、貞操権侵害に加えて、身体的・健康上の被害に対する損害賠償請求(治療費、慰謝料など)の対象となります。
不倫夫に対して請求できる主な損害
- 貞操権侵害に対する慰謝料
- 性感染症の治療費および通院交通費
- 性感染症に罹患したことによる精神的苦痛に対する慰謝料
2. 妻からの不貞慰謝料請求と「共同不法行為」の構図
被害女性が「騙された被害者」である一方で、法的な観点から見ると、既婚者と性交渉を行ったという事実自体をとらえて、相手の妻から共同不法行為に基づく損害賠償(不貞慰謝料)を請求されるケースが存在します。
ここで女性側としては、以下のような疑問や不満を抱くのが当然です。
- 「そもそも私だって独身だと騙された被害者なのに、なぜ妻からお金を払わされなければならないのか」
- 「性病をうつされたり人生を狂わされたりした損害を、あの男(夫)から回収したい」
妻からの請求に対する「相殺」の可否
裁判実務において、妻が請求する「婚姻共同生活の平和を維持する権利の侵害(不貞慰謝料)」と、夫が女性に対して行った「独身偽装・性感染症感染等の不法行為」は、被害を受ける主体や法的性質が必ずしも一致しないため、妻からの請求に対して、夫に対する損害賠償債権を自動債権として直接「相殺」することは原則として認められません。
しかし、ここで重要となるのが求償権(きゅうじょうけん)の概念です。
3. 求償権を活用した経済的負担の適正化
不倫(不貞行為)は、夫と交際相手(女性)の共同不法行為とみなされます。どちらか一方が被害者(妻)に対して全額の慰謝料を支払った場合、支払った人はもう一人の加害パートナー(この場合は不倫夫)に対して、自分の負担割合分(通常は2分の1)のお金を請求する権利(求償権)を持ちます。
今回のケースでは、以下のステップで法的な整理と回収を図ることが重要です。
- 妻への対応: 不倫に至った経緯において、男性側が独身であると巧妙に偽っていたこと(詐術や脅迫的な要素、被害の大きさ)を主張・立証し、妻からの請求額の大幅な減額や、場合によっては請求断念に向けた示談交渉を行います。
- 夫への求償および損害賠償請求: 妻へ支払った(あるいは支払うことになった)慰謝料のうち、夫が本来負担すべき割合分について、夫に対して求償権を行使します。さらに、独身偽装や性感染症の被害に関する損害賠償請求を夫に対して突きつけます。
このように、全体的な損害と負担をトータルで算定し、弁護士を代理人として交渉することで、理不尽な泣き寝入りを防ぐことが可能です。
まとめ:悪質なダブルトラブルを解決するために
独身偽装交際、性感染症の被害、そして相手の妻からの高額請求が同時に降りかかると、一人で冷静に対処することは極めて困難です。ご自身の精神的・肉体的な傷を無視して、相手のペースで話が進んでしまうことだけは絶対に避けなければなりません。
性病をうつされたにもかかわらず不貞慰謝料を請求されるような理不尽な状況においては、貞操権侵害に基づく損害賠償請求や求償権の主張を適切に行うことが、被害を回復するための重要なカギとなります。泣き寝入りせず、専門的な法的手続きを検討してみてください。