独身と聞かされていた男性と交際していたところ、ある日突然、その妻から高額な慰謝料請求書が届く――。これは、当事務所でも非常に多くご相談いただく「独身偽装交際(貞操権侵害)に絡むダブルトラブル」の典型例です。
不倫関係の主導権を握っていたのは既婚男性であるにもかかわらず、なぜか被害者であるはずの女性側が妻からターゲットにされてしまうケースは後を絶ちません。こうした状況において、不倫夫が自らの責任を認め、妻へ支払う示談金を「自分が代わりに立て替えて支払う(代納)」という提案をしてくることがあります。
独身偽装交際と妻からの不貞慰謝料請求の矛盾
独身偽装を見抜けずに交際関係を持った女性にとって、相手が既婚者であったという事実は青天のへきれきです。民法上の不法行為(民法709条)に基づく不貞慰謝料の請求において、相手が既婚者であることを知らず、知らなかったことに過失がない場合、原則として妻に対する不貞慰謝料の支払い義務は生じないと解されています。
しかし、それを立証する手間や、妻側が「知らなかったはずがない」と激しい感情をぶつけてくるプレッシャーから、精神的に追い詰められてしまう方が少なくありません。
そんな中、妻から直接連絡を受けた不倫夫が、自分の嘘が原因で迷惑をかけた手前、「妻への慰謝料は自分がすべて払うから、君(交際相手の女性)は1円も払わなくていい」と申し出てくるケースがあります。
不倫夫による「代納」とは何か?
「代納(だいのう)」とは、文字通り本来は債務者本人(この場合は独身と騙されていた女性)が支払うべき金銭を、第三者である不倫夫が代わりに支払う仕組みです。
法律上、金銭の支払いは第三者が行うことも原則として認められています(民法474条)。したがって、不倫夫が自分の財布から妻に対して慰謝料を振り込むこと自体は法的に何ら問題ありません。
しかし、これを口約束や、当事者間だけの曖昧なLINEのやり取りだけで済ませてしまうと、後々取り返しのつかないトラブルに発展する危険性があります。
口約束が招く最悪のシナリオ
- 夫が「払った」と嘘をつき、実際には妻に支払われていなかったため、妻から再度あなたへ督促が来る
- 夫が妻へ支払った後、夫婦間で何らかのトラブルがあった際に、妻があなたに対して「あの支払いは無効だ」と改めて請求を仕掛けてくる
- 夫が支払った分について、後日あなたに対して「肩代わりしたのだから返してほしい(求償権の行使)」と要求してくる
このようなリスクを完全に排除するためには、法的拘束力を持った「三者間示談書」の締結が不可欠となります。
安全に解決するための「三者和解」のポイント
不倫夫の代納によって被害女性の金銭的負担をゼロにし、かつ将来の不安を一切断ち切るためには、以下の条件を網羅した示談書を「妻」「夫」「あなた」の三者間で取り交わす必要があります。
1. 清算条項(不可逆的な解決)の明記
示談書の中に、妻とあなたの間には、本件交際に関する債権債務が一切存在しないこと(これ以上の追加請求をしないこと)を明確に定めます。これにより、一度解決した問題について、妻側から蒸し返されることを法的に封じ込めます。
2. 夫による代納の明記と求償権の放棄
不倫夫が妻に対する慰謝料全額を支払うこと、およびその原資は夫の特有財産から拠出されることを記載します。さらに、最も重要な点として、「夫は本件代納に関して、交際相手の女性に対して一切の求償権(返還請求)を行使しない」という条項を必ず盛り込みます。この条項がないと、後から夫に「立て替えた金を返せ」と言われる法的根拠を与えてしまいます。
3. 秘密保持条項と接触禁止
お互いのプライバシーを守るため、本件示談の内容や経緯を第三者に漏らさないこと、および今後一切の接触を断つことを定めます。
弁護士が介入するメリット
独身偽装交際の被害に遭い、さらに妻からの慰謝料請求まで重なった「ダブルトラブル」の状況下で、当事者同士だけで冷静に三者間交渉を行うことは極めて困難です。妻の怒りは収まっておらず、不倫夫も保身に走りがちであるため、感情のぶつかり合いになってしまいます。
法律の専門家が代理人として介入することで、以下の対応をスムーズかつ安全に進めることが可能です。
- 妻からの過大な請求に対する法的反論および窓口の完全一本化
- 不倫夫の責任において適正に示談金を支払わせるための交渉
- すべてのリスク(求償権や二重請求)を完全にシャットアウトする「三者間示談書」の厳密な作成
「夫が払うと言っているから大丈夫だろう」と安易に放置せず、法的な裏付けを持った安全な解決を選択することが、あなたの平穏な日常を取り戻すための最も確実な道です。相手の妻からの請求や不倫夫の代納提案でお困りの際は、法的トラブルを未然に防ぐためにも、早い段階で専門家へ相談することをおすすめします。