独身と偽って交際・性交渉に及んだ既婚者に対する貞操権侵害の慰謝料請求、および配偶者からの不貞慰謝料請求といういわゆる「ダブルトラブル」に直面される方が増えています。
相手の男性(不倫夫)に対して、自分が妻へ支払った慰謝料の分担(求償権)を求める際、最も恐ろしいのは「裁判で勝訴したものの、相手がすでに財産を隠しており、一文も回収できなかった」という事態です。
1. 独身偽装交際とダブルトラブルにおける「求償権」の重要性
独身だと信じ込まされて交際していたケースでは、相手が既婚者であると発覚した時点で精神的な大きなショックを受けるだけでなく、相手の妻から突然、高額な不貞慰謝料を請求されるという二重の苦しみに見舞われます。
この時、不倫関係を主導したのが「独身と偽っていた既婚者側」である場合、あなたが妻へ支払った(または支払わなければならない)慰謝料について、その内部負担割合に応じた金額を既婚者男性に対して請求することができます(民法上の求償権)。
しかし、不倫夫が素直に支払いに応じるケースは稀であり、任意での交渉が決裂すれば裁判(訴訟)へと移行せざるを得ません。
裁判には時間がかかるというリスク
訴訟を提起してから判決が出るまでには、数ヶ月から半年以上の期間がかかります。その間に相手が財産を処分してしまえば、せっかく勝訴判決を得ても回収不能(絵に描いた餅)になってしまいます。
ここで重要となるのが、裁判の係属前、あるいは係属中に行う「仮差し押さえ(保全処分)」という法的手段です。
2. 動産・自動車・バイクの「仮差し押さえ」とは何か
仮差し押さえとは、金銭債権(今回の場合は求償権)の強制執行を保全するため、あらかじめ債務者(不倫夫)の財産を差し押さえ、処分できなくする裁判所の法的措置です。
不倫夫が自宅のガレージや駐車場に、自身名義の自動車や大型バイクを所有している場合、これらは有力な差し押さえ対象(動産または登録自動車)となります。
なぜ事前の仮差し押さえが必要なのか
- 財産隠しの防止: 訴訟を起こされたことを知った不倫夫が、車やバイクを急遽友人名義にしたり、格安で売却して現金化したりするのを防ぎます。
- 心理的なプレッシャー: 自宅の車やバイクに仮差押えの執行がなされると、家族や周囲に事情が知れ渡る可能性が高まるため、早期の任意和解に応じる強い動機付けとなります。
3. 車・バイクを仮差し押さえするための実務上のハードルと対策
自動車やバイクを対象とした仮差し押さえ手続きには、法的な要件と実務上の正確な調査が不可欠です。実務上は以下のステップで慎重に手続きを進める必要があります。
① 所有権の名義の確認
最も重要なのは、その車やバイクが本当に「夫本人(不倫夫)の名義」になっているかという点です。 自動車検査証(車検証)を確認し、ローンが残っている場合は所有者(クレジット会社等)の権利関係も精査する必要があります。妻名義や会社名義である場合、夫に対する仮差し押さえの対象とすることは原則として困難です。
② 被保全権利と保全の必要性の疎明
裁判所に仮差し押さえを申し立てるには、以下の2点を示す(疎明する)必要があります。
- 被保全権利の存在: あなたが不倫夫に対して正当な求償権を有していること(交際の経緯、独身偽装の証拠、妻への慰謝料支払い事実など)。
- 保全の必要性: 今すぐ仮差し押さえをしなければ、将来の強制執行が著しく困難になるおそれがあること(相手が無資力に財産を処分しようとしている兆候など)。
③ 担保金の供託
仮差し押さえの認可を受けるためには、裁判所の決定に基づき「担保金(保証金)」を法務局に供託する必要があります。これは、万が一申し立てが不当であった場合に相手が被る損害を担保するためのお金です。担保金は、本訴訟で勝訴した後に原則として全額返還されます。
まとめ
不貞慰謝料の請求を受けつつ、独身偽装を行った不倫夫に対して求償権を行使する手続きは、法的な専門知識と迅速なフットワークが要求されます。
「相手の車やバイクが見えているのに、どう動いていいか分からない」「財産を隠される前に確実に回収したい」とお悩みの方は、泣き寝入りしてしまわないよう、財産保全(仮差し押さえ)を見据えた早めの法的アプローチを検討することが重要です。