独身であると巧妙に偽られて交際・性交渉に至ったものの、のちに相手が既婚者であることが発覚し、配偶者(妻)から高額な不貞慰謝料を請求されるという「ダブルトラブル」に巻き込まれるケースが後を絶ちません。
このような状況において、手元にまとまった現金がないため、自動車や高級腕時計、貴金属などの動産を妻に引き渡すことで示談(代物弁済)する解決方法をとる方もいらっしゃいます。
1. 独身偽装交際とダブルトラブル、そして代物弁済とは
既婚者であることを隠して交際を迫る行為は、相手の貞操権を侵害する不法行為(民法709条)に該当します。これに加えて、相手の配偶者からは不貞行為(不倫)を理由とした損害賠償請求(慰謝料請求)を受けることになり、精神的にも経済的にも非常に過酷な状況に置かれます。
一括で現金を支払う資力がない場合、債権者である妻との合意に基づき、金銭の代わりに自己の所有する動産を引き渡して債務を消滅させる方法を「代物弁済(民法482条)」と呼びます。
代物弁済による債務消滅の効果
代物弁済が成立すると、現金を支払った場合と同様に、その価額の限度で本来の慰謝料債務が消滅します。そして、共同不法行為者の一人として全額(または一部)を負担した者は、もう一人の責任主体である不倫相手の夫に対して、自己の負担部分を超える分について求償権(返還請求)を行使することが可能になります。
2. 求償額の算定基準:動産の「評価額」はどう決まるのか?
現金を支払った場合はその金額がそのまま求償のベースとなりますが、動産による代物弁済の場合、「その動産の適正な時価評価額がいくらであったか」が求償額を左右する極めて重要な争点となります。
不当に低い評価や高い評価のリスク
- 妻側との示談の際、動産の価値が客観的な市場価格よりも不当に安く見積もられていれば、消滅した債務の額も小さく評価されてしまいます。
- 逆に、主観的に高価な価値があると信じ込んで引き渡したとしても、法的に認められる求償額はあくまで客観的な交換価値(時価)を基準とします。
したがって、求償権を適正に行使するためには、示談書や合意書において「当該動産の評価額が金〇〇万円相当であること」を明確に合意・記載しておくか、専門業者による査定書や中古市場の流通価格などの客観的資料を保存しておく必要があります。
3. 不倫夫に対する求償権行使の具体的手順と注意点
代物弁済によって慰謝料を清算した後に夫へ求償金を請求する際は、以下のステップと法理に留意して実務を進める必要があります。
(1) 負担割合の確認(通常は2分の1)
判例実務上、不貞行為における内部的な負担割合は原則として平等(2分の1ずつ)と解されています。 ただし、本件のように「独身だと完全に騙されて交際させられていた」という事情(貞操権侵害の被害者であるという側面)がある場合、通常の不貞事案とは異なり、あなた自身の責任割合が著しく低い、あるいは求償において夫側へより多くの負担を求めるべき特段の事情が主張できるケースがあります。
(2) 内容証明郵便による求償の請求
口頭での請求では、夫側が支払いを拒絶したり、連絡を絶ったりすることが少なくありません。代物弁済で引き渡した動産の評価額の根拠を示し、法的な求償権に基づいた金額を記載した内容証明郵便を送付するのが実務上の定石です。
(3) 証拠の保全と法的アドバイスの重要性
ダブルトラブルに直面した際、ご自身が「騙されていた被害者」であることの証拠(独身と偽っていたメッセージや婚約・結婚を匂わせるやり取りなど)と、代物弁済の正確な評価額を示す資料を揃えることは、今後の交渉を有利に進める上で不可欠です。
まとめ:動産代物弁済後の求償トラブルは法的整理が不可欠
相手の妻へ動産による代物弁済で不貞慰謝料を支払った場合でも、不倫相手の夫に対する求償権は失われません。しかし、「その動産の時価をどう証明するか」「独身偽装による負担割合の修正をどう主張するか」など、法的主張の構成には専門的な判断が不可欠です。泣き寝入りを防ぎ、正当な求償金を回収するためにも、動産の査定資料や示談書を揃えた上で、早めに弁護士等の専門家へ相談することをおすすめします。